この本読んどく?

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タグ:短編集

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平安貴族や武家貴族、公家や華族など日本にも様々な貴族階級の人間がいた。

そんな貴族たちについて私たちはどんなイメージを持っているだろうか?
今日はおよそ貴族らしい探偵が登場する「貴族探偵」を見てみようと思う。




目次

  1. 麻耶雄嵩ってどんな人?
  2. 「貴族探偵」を読む
  3. 「こうもり」について(ネタバレあり)
  4. ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと
  5. オススメ度

麻耶雄嵩ってどんな人?

麻耶雄嵩氏もあの京大推理小説研究会出身である。そこで知り合った綾辻行人・法月綸太郎・島田荘司の推薦をうけ1991年「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」でデビューした。

さらに2011年には「隻眼の少女」で第64回日本推理作家協会賞・第11回本格ミステリ大賞を受賞。2015年には「さよなら神様」で第15回本格ミステリ大賞を受賞した。この「さよなら神様」は7月に文庫化も予定されており、そちらも楽しみである。

また麻耶氏は「独特の世界観」や手法が特徴的であり、その癖のある作風はマニアの心を掴んで離さない。だが、前情報なしの初見で挑むといささか面食らうこともあるので注意が必要だ。

「貴族探偵」を読む

「貴族探偵」は2010年に単行本で刊行され、2013年に文庫化された。この本に収録されているのは五つの短編なのだが、それぞれ発表された時期に開きがある。
・「ウィーンの森」は小説すばる2001年2月号
・「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は小説すばる2001年9月号
・「こうもり」は小説すばる2007年4月号
・「加速度円舞曲」は小説すばる2008年4月号
・「春の声」は小説すばる2009年9月号
と、トリッチ・トラッチ・ポルカとこうもりの間は約6年ほど期間があいている。
ネットでは「こうもり」以降は出来も良く面白いが、前二作は微妙な出来だと目にすることが多いが、果してそうだろうか?

確かにこれがシリーズものではない単発ものだとしたらその評価には納得できるが、短編集として編まれた場合前二作は導入と定着の仕事をしっかり果たしていると思うのだ。
「ウィーンの森」で「貴族探偵」とはこういうものだと読者に紹介し、「トリッチ」では毎回このパターンですと読者に釘をさす。そして「こうもり」で活躍を見せつけ、余韻をのこしつつ去って行く。
とすると、「ウィーンの森」で一番着目すべきは「貴族探偵」がどのように我々の前に現れたかではないだろうか。事実「ウィーンの森」での登場の仕方が一番図々しく、印象に残るようになっているはずだ。

またこの「貴族探偵」は麻耶氏の他の作品と比べると癖が比較的抑えられている気がするのも事実だろう。「麻耶ワールド」なるものを感じることは少ない。しかしながらそこはやはり麻耶氏の書く小説である。この貴族探偵は探偵と言いつつも自身は全く探偵らしいことはしない。いわゆる安楽椅子探偵でもない。そこに麻耶氏の拘りが感じられる。

また登場人物の名前が変に奇を衒っていないのが良い。普通の探偵小説であれば探偵が推理するのでどんな名前をつけようが注目されることになる。しかし「貴族探偵」では貴族探偵が探偵の役割を放棄している。推理を披露するのは召使いたちなのだ。ではどうやって「貴族探偵」の存在感をアップさせるか。それは召使いたちの名前をよく耳にする名字にすることで解決していると思われる。それぞれ山本・田中・佐藤とすることで変にかれらがでしゃばって来ることがないのだ。彼らを下げることで貴族探偵を上げていると思われる。

「こうもり」について(ネタバレあり)

各方面で話題の「こうもり」。確かにすばらしい出来だった。
これを読んで思い出されるのは麻耶氏の長編小説である。
トリックとしては逆叙述+替え玉
しかしこの逆叙述というものが曲者で、登場人物は知らないが、読者は知っているというものなのだ。登場人物はてっきり知っていると思っていたと、ここに驚きが生じる。
今回の場合、絵美と紀子が貴生川を大杉と思っていた、つまり二人一役を認識できていなかったこと、そこに貴生川を貴生川+大杉の二人に見せかける一人二役のトリックが働いている。
また読者に対して貴生川を貴族探偵と誤認させること、絵美の彼氏だと思わせることで貴生川を嫌疑の外に置くよう仕向けている。
伏線もしっかりあるのだが、非常に巧妙に仕組んであるためなかなか気づかなかった。短編でよくここまでという素晴らしい出来である。

ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと

初回放送が終わった後は大絶賛の嵐だったらしい。原作ファンも嵐ファンも納得の出来だったと。それは本当だろうか? 私は正直見ている最中に恥ずかしくなってきて消してしまった。

昨今視聴率が下がり、製作費が少なくなる、そしてまた視聴率がとれないというループに嵌っているドラマ。脚本家の書き下ろしにしても率がとれないのであまり払えない。そこで各局が血眼で探しているのはすぐドラマ化できそうな「ミステリ小説」らしい。そしてドラマ化の必須条件となっているのが、「美しく、強い女性の活躍」なのである(イケメンで強い男性ではだめらしい)。そうして見てみると、たしかに最近ドラマ化されているものの多くはこの必須条件にほとんど当てはまるようだ。原作には全く関係ない女性キャラが登場するのはこういう理由がある。そんなわけで「貴族探偵」は麻耶氏が意識していたかどうかはわからないが、ドラマ化の必須条件を満たしていたといえる。

また各話にその話限りのヒロインを登場させることができるのもこの小説の強みであろう。これで女性役もさらに確保でき、パターンの打破に光りがみえる。さらにこの「貴族探偵」が短編集であったことも有利に働いたはずだ。

「すべてがFになる」のアニメとドラマを思い出していただきたい。
まずドラマはF~パンまで前編・後編という形で放送したが、これは成功したとは言い難い。というか酷かった。一つの話を二週に分けて放送するのは最終回だけなら特別感があっていいかもしれないが、常時だとこちらの興味を失わせかねない。が、長編を一時間枠でやるのはやはり無理がある。

一方アニメは1クールすべてFを放送した。だが、これだと毎回谷・山を作りづらく見ていて飽きてしまう可能性がある。

だが、短編では作者があらかじめ谷・山を作っているので深く考える必要がない。
そう。深く考える必要はなかったのだ。原作のまま、メイドも変に年上にせず、若いままでよかったのだ。そこにギャップがあったのだ。それを構成か脚本家か知らないが原作の良さを完全に潰してしまっている。

そして駄目押しは「鼻形雷雨」というオリジナルキャラクターの登場だ。まず名前が駄目。せめてもっとオリジナリティあふれる名前にしてほしい。しかもこの性格付けが最悪である。貴族探偵の周りは良くも悪くも個性的な人物達で固められている。なので彼らを周囲から浮いているようにしなければならないはずであった。つまり個性的な人物は貴族探偵の周辺だけで良かったのだ。オリジナルの警察キャストを出すのであれば、こんな三文芝居のような人物ではなく、しっかりとした警察ドラマのような人物を出すべきであった。鼻形に関しては最近不要論が起っているらしいが、そんなもの最初から不要である。叩き上げの段階でもう終わっている。キャストが豪華で、実力がある人たちも揃っているだけに本当に勿体ない。

そして小説を読み返して思ったが、この「貴族探偵」はコメディの皮を被った別ものなのでないか。コメディとして考えてキャスト組んだ場合たしかにベストの布陣に見えるがそうでなかったのではないか。だからちぐはぐ感が漂っているのではないだろうか。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★☆☆
癖もなく万人受けするはずだ。ドラマを見限った人も小説だけは読んでみて欲しい。
貴族探偵 (集英社文庫)

麻耶 雄嵩 集英社 2013-10-18
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数多くの小説が毎年出版される中、かつてここまで狂ってる小説があっただろうか?

2006年に出版されるやいなや様々な方面で物議を醸し出したこの「独白するユニバーサル横メルカトル」そんな本を今日は見ていこうと思う。


目次

  1. 怪人・平山夢明
  2. そして被害は拡大す
  3. C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆
  4. Ωの聖餐
  5. 無垢の祈り
  6. オペラントの肖像
  7. 卵男
  8. すさまじき熱帯
  9. 独白するユニバーサル横メルカトル
  10. 怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男
  11. オススメ度

怪人・平山夢明

作者・平山夢明とはどんな人物なのだろうか。
平山夢明氏は実話怪談や、超怖い話シリーズ、東京伝説シリーズなど多くのホラー・怪談物を手がける傍ら、多くの短編集も発表している人物だ。

2010年には「ダイナー」(カバーとても美味しそうな写真!)で吉川英治文学新人賞最終候補。第28回
日本冒険小説協会大賞、第13回大藪春彦賞を受賞した。

そして問題の本書「独白するユニバーサル横メルカトル」は2006年に誕生。後に多くの被害者(?)を出すことになる――。

そして被害は拡大す

手始めに光文社刊「異形コレクションシリーズ/魔地図」に寄稿した「独白するユニバーサル横メルカトル」で、2006年の日本推理作家協会賞短編部門賞を獲得。たしかにこれはまだ納得できる。本書の中でもまだまとも(?)なので、一般人にも引かれることはないだろう。さらに「これはミステリーです!」と言われると、なんだか納得してしまいそうな出来である(実際ミステリー)

しかしどこで手違いが起ったのか、同タイトルの短編集が2007年度版「このミステリーがすごい!」で国内部門1位を獲得。「このミス」といえば年末ミステリー大賞の大御所である。そこで1位を獲得すれば、当然大きな売り上げが見込める。

――そこで何が起ったか?
これは憶測だが、このミスや文春ミステリーの上位に入った本を何も考えずに(下見せずに)買う層が多くいたのでは、と考えられるのだ。ミステリー買ったつもりが何だかおかしなものが紛れている。つまり異物混入事件である。その結果、多くの被害者を生みだすことに成功したのだ。(私もそんな一人)

そう。この本にあるのは狂気である。あらん限りのエログロ・残酷描写・胸糞描写を詰め込んだスプラッター寄りのホラー小説だったのである。ミステリーの皮を被ったホラーなのだ。

そんなミステリー成分少なめの短編集の中身を見てみよう。

C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆

たろうくんを主人公とする現代版童話、暗黒童話のような物語。学校でいじめにあうたろうは、逃避行動からか子供が近づいてはいけない湖へと向かう。そこで一人のホームレスと出会う――

「冒頭になんてもん持ってきやがる!」
これが私の率直な感想である。立ち読みしたらそっと棚に戻すであろうこと間違いなし!
文体はですます調で、おとぎ話らしい雰囲気は出ている。しかし登場人物はそろいもそろって腹立つようなのばかりである。食事中読むことはお勧めしない。

読み終わったらもう一度タイトルを声に出して読んでみよう。脱力必至である。

Ωの聖餐

「俺」はとある事情から「ある動物」の世話を命じられた。しかしそいつのエサは人間の死体だった――

一話目とは異なりとにかくグロい。そしてなんだか臭い。
カニバリズムどんとこい!という方にはオススメだ。しかし、ただのカニバではなく、そこは作家である。少し面白い趣向が凝らしてある。

ちなみにカニバと聞いてもピンとこないかもしれないが、日本でも割と最近まで人間の内臓や胎児の黒焼きが病気に効くという俗信が信じられていたりだとかで、そんな事件が起きている。

無垢の祈り

義理の父からは暴力を受け、頼みの母は宗教に染まる。そんな家で暮らす少女が救いを求めたのは連続殺人鬼だった――

これが一番きつい。精神にダイレクトアタック。
女児が義父から虐待され、それが原因でクラスでもいじめられる。そして殺人鬼に援けを求めるしかない状態になっていても誰も助けようとはしない。見てみぬふりという現在の社会を痛烈に諷刺しているように思われる。

結末はどちらともとれる。だが本書は「ホラー」であり、救いがないということが「祈り」のテーマである気がする。そして伏線を踏まえて「それ」が何であるか考えるとふみがどうなるかは自ずと判明するはずだ。

オペラントの肖像

「オペラント条件付け」が徹底された世界。この世界では芸術が人を堕落させる悪であるとして批判され、所持しているだけで死刑となる。そんな芸術を信仰する人々を取り締まる主人公はひょんなことからカノンという女性を救おうとするが――

ディストピア小説。砂漠で発見したオアシスのような安心感を我々読者に与えてくれる。
SFの王道ではあるが、短編ではやはり無理があったか。中・長編で読んでみたいと思うがどうだろう。

卵男

連続殺人鬼である私こと「卵男」。奇妙な岩牢に移送され死刑になる日を待っていたが、ある日205号と名乗る男が現われる。私は205号と次第に会話をするようになるが――

これもSF色が強い。作品の出来、面白さではこの短編中トップクラス……なのだが既視感が強い。どこかで見たような。嵐の前の静けさ。

すさまじき熱帯

俺は一攫千金のチャンスを求め、熱帯にやってきた。組を裏切った奴を殺したら一億。俺は聞いたこともない国へと出発する。

「これはひどい」
ついに暑さでやられたか!?とまず作者の頭の中を疑いたくなるような内容。
ぶっ飛びどころか崩壊している。見どころは現地の人々が話す言葉だ。
「垂乳根のお釜崩れる毛脛かもかな!」(201頁)
こんな言葉を考えていた時の精神状態が知りたい。それとも本当に意味のある言葉の当て字だろうか。

独白するユニバーサル横メルカトル

自我を持つ私こと「建設省国土地理院院長承認下、同院発行のユニバーサル横メルカトル図法による地形図延べ百九十七枚によって編纂された一介の市街地道路地図帖」が目撃したことと、その顛末を淡々と語る。自我を持つ地図帖が見ていたものとは――。

表題作。ホラー・ミステリーのバランスも良く一番まともな内容になっている。故に感想は少ない。
擬人化した地図たちの会話を楽しんでみるのはいかがだろうか?

怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男

強迫性障害を持つMC。彼は拷問を生業としていた。しかしある日、拷問を受けても恐怖を示さない女性が送られてくる――

良くも悪くも無難な短編(ここまで読んだせいで麻痺している可能性もあり)
冒頭のピザ以外はまともな感じである。拷問の描写はあるにはあるが、非常にライトな出来となっている。

オススメ度

オススメ度★☆☆☆☆
面白さ★★★★☆
合計★五つ
自らすすんでこの小説を誰かに薦めるだろうか?
しかしながら今までにない境地の開拓や、既成概念の破壊には持って来いである。
独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

平山 夢明 光文社 2009-01-08
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