この本読んどく?

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タグ:映画化

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かつてソ連に「どうやって相手を苦しめるか、次から次へとアイデアが湧いてきて、実行するのが追いつかないほどだった」と言った連続殺人鬼がいた。

彼の名は「アンドレイ・チカチーロ」
今日は彼から着想を得て書かれた「チャイルド44」を見てみようと思う。




もくじ

  1. チカチーロとソ連
  2. 「チャイルド44」を読む!
  3. オススメ度

チカチーロとソ連

この小説を読む前に押さえておきたいことがある。
それは当時のソ連が「連続殺人は資本主義の弊害によるものであり、この種の犯罪は存在しない」という見解もとで動いていたということだ。

そして二つ目がこの小説を書く際に着想を得た人物「アンドレイ・チカチーロ」である。
チカチーロはソ連に実際に存在した連続殺人鬼で「赤い切り裂き魔」などの呼び名で知られている。

彼は女子供52人を殺害した連続殺人犯だ。しかし上記にもあるように、当時のソ連では「連続殺人など存在しない」という見解であったため、組織だった捜査が行われなかった。そして犯行の魔手はソ連全土に及び、いたずらに犠牲者を増やすことになる。最終的にKGB(=ソ連国家保安委員会。プーチン大統領もここの出身)が介入し事件は解決することになる。

所謂シリアルキラーや快楽殺人者は過去に大きなトラウマを経験し、家庭環境に問題がある場合、また性的虐待や性的コンプレックスを持っていることが多いそうだが、もれなくチカチーロもそうである。

しかしコンプレックスや挫折ももちろんそうなのだが、彼が4歳の時に母親から聞いたという「お前の兄は飢餓を凌ぐために喰われた」という発言と「ホロドモール」の経験が大きな打撃を彼に与えたのではないだろうか?

ホロドモールとはウクライナ人が住んでいた地域でおきた人工的な大飢饉である。そう考えるとチカチーロは「国家が生み出した悪魔」であると言えるのかもしれない。

「チャイルド44」を読む!

このことを踏まえて小説を読んでみると、チカチーロから着想を得たというだけあって多くのことが一致している(但し年代は意図的にずらしている)。小説の事件も東はヴォウアルスク、西はキエフ、北はヴィヤトカ、南はロストフ・ナ・ドヌーなどやはり広範囲にわたって展開されている。しかしながら「実際の事件で広範囲にわたって事件が起きていたので、小説もそうした」では読者は納得しないだろう。そこは安心してほしい。しっかり理由づけされている。

またこの小説は「広範囲にわたって犯罪を繰り返す犯人を、エリートである主人公が徐々に追いつめていく」といったものではない。見どころは主人公の苦悩と葛藤、心の変遷、そして自分にとって妻とはどんな存在であるのか?というものである。

国家保安省という場所に身を置く人物が主人公なのだから、もちろん国家に忠誠を誓っている人物だ。しかも省の中でもエリートである。そんな人物は当然上が「この国に連続殺人や犯罪などというものは存在しない」と言ったのであれば、それを盲目的に信じるだろう(もしくは逆らった時の恐怖を自分が一番よく知っていることからくる保身)

しかしそんな国家に対する信奉・忠誠心に些細なことでヒビが入ってしまったらどうなるだろう?
さらに主人公と国家との関わり、自身の仕事に妻であるライーサが関わってくるため、いっそう物語は複雑になり厚みを増してくる。

上巻では主に主人公の破滅と苦悩、そして再生への道に主眼が置かれているようだ。
下巻では主人公が犯人を追跡し「驚愕の事実」に遭遇することになるのだが、これがまた面白い。本当に巧く出来ている。が、やはり主眼は犯人追跡(犯人当て)ではなく、主人公と妻の関係と今後の在り方、夫婦とは何か? 家族とは何か? ということになってくる。

そしてもう一つ注目したいのが、「強い女性」の登場である。日本だけでなく世界の小説においても様々な意味で強い女性というものは魅力的に映るようである。

アクションあり、涙あり、驚きありのこの小説。きっと一気読み間違いなしだ。未読の方はぜひ読んでみて欲しい。

余談ではあるが、この本はロシアでは発禁となっているらしい。嘘くさい噂ではあるが、実際にありそうなところがまた怖ロシアである。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★☆☆
デビュー作であるがとても面白い。レオたちの今後がどうなるのか?そんなワクワク感も持てる小説だ。
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結婚とはなんだろうか?
始まりだろうか、はたまた終わりだろうか。
様々な偉人達が様々な価値観のもとで格言・箴言を残しているがあなたはどれに当てはまるだろうか?

今日は6月24日から公開中、ディーン・フジオカ氏主演の映画「結婚」の原作本を見てみようと思う。
※タイトルの箴言はワイルドのものである。




目次

  1. 作者・井上荒野ってどんな人?
  2. 「結婚」を読む
  3. オススメ度

作者・井上荒野ってどんな人?

戦時中の青年の姿を描いた「ガダルカナル戦詩集」や「虚構のクレーン」「死者の時」などを執筆し、戦後文学の旗手として活動した井上光晴。そんな人物を父にもつのが井上荒野氏だ。

1989年「わたしのヌレエフ」で女性限定の賞である第1回フェミナ賞を受賞(現在はなくなっている)するも、その後体調不良などの理由で小説を書けなくなってしまう。

が、2001年「もう切るわ」で再起。2004年には「潤一」で第11回島清恋愛文学賞2008年「切羽へ」で第139回直木賞を受賞。2011年「そこへ行くな」で中央公論文芸賞2016年「赤へ」で柴田錬三郎賞を受賞。

2001年再起してからは今まで小説を書けなかったことへの鬱憤を晴らすかのように多くの小説を書き上げている。また角田光代や江國香織と親交が深いようで良く対談しているのを見かける気がする。

「結婚」を読む

まず大前提としてこの小説は父・井上光晴が1982年にだした「結婚」という小説のオマージュ作品であるということを踏まえておきたい。それをうまく換骨奪胎し自分のものとして新たに作り上げたのが現在映画公開中の「結婚」である。

古書なのでなかなか光晴氏の「結婚」はお目にかかる機会が少ないだろうが、本書の西加奈子氏の解説によると『人間の深淵に肉薄しつつも、多分にサスペンス要素をはらんでいる』小説のようで、どうやら推理小説仕立てのところもあるようだ。だからだろう、ところどころその名残が見てとれる。

さてこの「結婚」であるが、内容は「結婚詐欺とそれを取り巻く女性の人間模様」である。
そしてその感情の機微というか、それぞれの女性の内面を良く描き分けているのが特徴だ。

またこの小説に登場する人物たちは、騙される女性たちも、詐欺師である「古海」も含めてみな淋しい人間のように感じてしまう。自分が騙されているのに気がついていないと言う人も中にはいるだろうが、この人物たちはそこまで馬鹿でない気がする。

ただ認めたくないだけなのだ。それを認めてしまえば自分が騙されたということを自分で自分に突きつけることにもなってしまう。要は自分を守るための防御機能が働いているともいえる。そして自分可愛さのために認めないだけでなく、彼女たちはまだ心のどこかで「古海」のことを愛しているし信じてもいる。その繋がりを断ち切りたくないだけなのだ。なのである女性は古海の身許を突き止めようと奔走するが、それもまた愛の一形態と言える。彼女もまた古海のことを忘れられないのだ。

こうしてみると古海は凄腕の結婚詐欺師といえる。ニュースなんかでは「なぜこんな男・女に騙されるのだろう?」と笑ってみていることが多いであろうこの話題。一概に「騙される方が悪い」と言えるだろうか? また騙された人たちは不幸であると言い切れるだろうか。
しかしこうして人の心の弱味につけこみ騙すということは卑劣であることに変りはない。

そしてまた終盤で古海自身もまた「一つの嘘」に縋っていたことが判明する。
そこで改めて「結婚とはどういうものなのか?」という問いに帰ることになる。
彼はその後どうするのか? 彼女は一体どうなったのか?
結末は本書内でも記されてはいない。様々な結末を描くことができるだろうがあなたは「どんな結末を作り上げただろうか?」

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
やはり心の機微をうまく捉えているので、短いスパンで登場人物が変わっていくにも拘らず共感できる人物がいるのではないだろうか?
ちなみに現在書店ではカバーがディーン・フジオカさんになっている。今月の終わりまで待ち受け画像のプレゼントもあるようなのでファンの方は要チェックだ。
結婚 (角川文庫)

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今月の1日から和田竜原作「忍びの国」の公開が始まった。
興行収入は30億円を越える見込みのようだ。
公開されたばかりだが、映画評価サイトのレビューは概ね好印象のようである。

では原作のほうはどうなのか?今回はこの「忍びの国」を見てみようと思う。




目次

  1. ヒット作を書き続ける男・和田竜
  2. 忍者って何者!?
  3. 「忍びの国」を読む
  4. 織田信雄に漂う悲哀~あいつは能でも舞わしとけ~
  5. オススメ度

ヒット作を書き続ける男・和田竜

当初脚本家を目指していた和田氏。2003年「忍ぶの城」で第29回城戸賞を受賞した。
そして2007年に忍ぶの城を自身の手で小説化、「のぼうの城」として出版。こちらは後に野村萬斎氏主演で映画化された。

そして2014年には「村上海賊の娘」で第35回吉川英治文学新人賞と2014年本屋大賞、第8回親鸞賞受賞した。他に「小太郎の左腕」が2009年に小学館から刊行されている。

本作「忍びの国」は2008年に新潮社から刊行されたもので、第30回吉川英治文学新人賞候補となった小説である。エンターテイメント性を豊富に詰め込んだ、従来とは違った歴史小説でいま注目を集めている作家である。

忍者って何者!?

今作「忍びの国」はタイトル通り「忍者」が主人公である。
忍者といったら「NARUTO」のような火遁・土遁などの派手なアクションや、暗がりで相手を暗殺する、そういったものを想像するだろうが実際の戦国期の「忍者」とはどんなものだったのだろうか?

主な仕事はやはり情報収集や監視、連絡、破壊工作などだったようである。
また伊賀忍が傭兵色が強く金銭で動く集団だったのに対し、侍がルーツだとも言われる甲賀忍は忠誠心に厚く、合議制などを導入し多数決で決定していたようだ。

忍びに共通していることは身体能力に優れ、厳しい規律に縛られた諜報集団ということだろう。また近年では動植物学や化学の知識を持つ技術者集団としての一面もあったと言われている。

伊賀・甲賀の他にも武田氏の透破、北条氏の風魔、伊達氏の黒脛巾組などが有名だろうか。
実在した忍者では百地三太夫のモデルとなった「百地丹波」「藤林長門守」、謙信や信玄がその能力を恐れた「鳶加藤」などがいる。また松永久秀が苦手とする人物の一人「果心居士」も実在したかは不明だが良く語られる人物の一人だろう。

ちなみに「服部半蔵」は服部半蔵家の当主の通称。
一番有名なのは「鬼半蔵」こと「服部正成」。「槍半蔵」渡辺守綱と共に怖れられた。また正成は武士であって忍びではない。伊賀衆を率いたことは事実かつ出身も伊賀ではあるがゲームや小説のように彼自身が暗殺や忍び働きをしていたわけではない。

「忍びの国」を読む

舞台は「天正伊賀の乱」である。
第二次まであるのだが、「忍びの国」では第一次伊賀の乱で終わっている。

この小説は一応「時代小説」であるのだが、エンターテイメント寄りの時代小説である。これを知った上で読めば非常に面白く読めるが、バリバリの時代小説として期待して読むととんだ肩透かしを食らうので注意が必要だ。だが、時代考証や設定はしっかりしているし、随所で出てくる作者も気にはならない。

ではどこが評価を分けるのか。これは忍者に何を求めるのか?ということになってくる。
上で述べたような地味な活動をする、実在しそうな忍者はこの小説には登場しないのだ。出てくるのはどちらかといえば「NARUTO」や「ドラゴンボール」よりの人物たちである。
主人公の無門さんは消えるのである。速すぎて。
このシーンを読んで思い出されるのは天下一武道会での対天津飯戦だ。あんなノリや、
「見えん!この神の目にも!」
的なノリが好きであればきっとこの小説は面白い筈だ。また最終的には私の中で無門さんはるろ剣の「外印」になってしまった。安土城から去る無門さんは去り際に「幾何八方囲陣」のようなものを施して去って行く。

ネタはさておき、この小説は登場人物の心理が良く描かれているなあと思うのだ。
特に信雄の信長に対するコンプレックス。信雄を安易に無能なムカつくクソ野郎に書かなかったのは好感が持てる。また、北畠具教の一の太刀くだりなどはニヤッとしてしまう人も多いのではないだろうか?

時代小説ファンも普段時代小説を読まない人も等しく楽しめる小説であろうと思われる。
またアクションシーンが多いので映画ばえしそうな内容だ。

織田信雄に漂う悲哀~あいつは能でも舞わしとけ~

織田信長の次男として生まれたとされる織田信雄。
彼の逸話で最も有名なのが「信長からの怒りの手紙」であろう。
その中身はを簡単にまとめると、
「なに勝手に伊賀攻めてしかも負けてるの?
こっちに兵を出すのは伊勢の武士や百姓の負担になるから遠征を免れるために伊賀を攻めたのか?いやいやお前馬鹿だしそこまで考えてないだろどうせ。
上方への出兵は俺への孝行や兄貴を思いやる心、そして自分の功績をアピールできる場だったじゃん。
しかも柘植まで殺しやがって。お前の態度次第じゃ親子の縁切るからな?」

という強烈なものでしかも右筆に頼らず信長直筆である。
この逸話から信雄=無能というイメージが定着してしまっている。

また安土城が炎上して焼失したのは信雄のせい、信雄が火をつけたという噂まで流れたほどである。ルイス・フロイスがキリシタンでない人物に対してはサゲる記事を書いていたのを加味しても「信雄は馬鹿だからやったのだ」というこの発言は当時の共通認識だったと思われる。

だが芸達者だった信雄。特に能の名手だったと言われている。
しかしながら近衛信尹卿は信雄の舞を見て感嘆しているのに対し、秀吉は「舞うのが上手い奴にろくな奴はおらん!」と発言していたりする。ちなみに清正や三成も同意見だったようだ。

しかしながら江戸時代に大名として存続したのは信雄の系統だけであったり、継室との間に生まれた織田信良の系統は皇室へと繫がっている。これは戦が下手で周りからも期待されていなかった信雄だからこそできたことなのかもしれない。

また内大臣まで昇った公家でもある。名前の読みは「のぶかつ」「のぶを」どちらでも正しい。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★★☆
あくまで時代「エンターテイメント」小説である。しかし膨大な量の参考資料に基づいて書かれた本書は私たちを束の間戦国時代へと誘う。忍者に憧れた男子は特におすすめの一冊だ。
忍びの国 (新潮文庫)

和田 竜 新潮社 2011-02-26
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御嬢様学校というものは今も昔も羨望の的なのだろうか?

実際の御嬢様学校の実態などはまったく私はわからないが、少なくともこの「暗黒女子」の世界においては生半可な覚悟では生き残れない苛酷な世界のようである。

今日は現在映画公開中でもある「暗黒女子」を見てみようと思う。




目次

  1. 秋吉理香子ってどんな人?
  2. 「暗黒女子」を読む
  3. ネタバレ感想
  4. オススメ度

秋吉理香子ってどんな人?

秋吉理香子氏は2008年「雪の花」でYahoo!Japan文学賞を受賞。2009年に雪の花を含む短編集でデビューした作家だ。他にも「聖母」「自殺予定日」「サイレンス」などの小説が現在刊行されている。

「暗黒女子」を読む

まず読んでみて思ったのは、作者は短編形式のほうが得意なのだろか? ということだ。
他の小説を読んでいないのでなんともいえないが、デビュー作も短編集のようだし、二作目にあたる本作「暗黒女子」も短編集のような形式だ。短編集は昔から売れない売れないと言われ続けているだけに、二作目はなんとか長編に持って行こうとした結果の構成だったのではないかと思われる。

そしてその短編集形式の構成が上手く機能しているのがこの「暗黒女子」だ。
小説内の人物も語っているように、学校内では主導権争いによる駆け引きが日々行われている。「誰かを貶め踏み台にし自分が上に行く」という学内生活の縮図を短編集にすることで巧く表現しているように思える。

作者が女性だけあって、現実世界の女子会もこんなことが頻繁に行われているのではないか?と疑ってしまう。表面上は仲良く見せても腹の探りあい。誰がどんな男と付き合っているか。どんなブランドを身に着けているか。どんな店をしっているか。服装は。等々どうにかして誰かの上に立ちたい、主導権を握りたいという裏の目的があるのではないだろうか。

「暗黒女子」は現在映画公開中である。
映画公開は知っていたがキャストを見て驚いた。主演に一時世間を賑わせた清水富美加の名があるではないか。また平愛梨の妹である平祐奈も名を連ねている。映画のほうは無事公開もされBD販売も決定しているそうだ。
さらに映画公式HPの「裏予告」が大変怖い。鳥肌が立った。こちらも一度見てみることをお勧めする次第である。

ネタバレ感想

面白いのだが、ミステリーとして見るとやはり弱いのかなと思ってしまう。
おそらくミステリーを読み慣れた読者は「目次」を見た時点でおおよそのストーリーと流れ、犯人と結末が分かってしまったのではないだろうか。自作小説でお互いに非難し合い、堂々巡りになるが実際手を下したのは一番の親友で、自分が主役に成りたかったからというパターンである。

そんなことを考えつつ読み進めると、案の定そのままの流れとなってしまう。
しかし三人目の自作小説内で担当顧問である「北条」の存在が明らかになると、「主役に成りたかった説」が少し揺らぐ。というのもこの女子が主役の小説で男性が出てきているということは、どう考えても登場人物の中のだれかと出来ているに違いないからである。犯人は間違いなく小百合であることを考えると、実は北条と小百合が出来ていたが、それを知りつつ応援しつつも裏で北条といつみが出来ているという、寝盗られ動機なのかなとも考えてしまう。

しかし実際は単純なように見えて深いものだ。
「互いに告発し合う輪」の中に入っていなかった小百合はどう考えても怪しい存在だなとこの頃になれば皆気がつくだろう。そして動機は結局のところ「自分が主役になるため」というものだった。
 
しかし、ここからが難しい。果して本当にいつみは死んでいるのだろうか?

まず小百合がいつみを殺す必要があったのだろうか? と疑問が持ち上がる。
普段からいつみの側にいて、いつみの秘密にも協力しており完全に感化されている小百合である。とするならば、殺すのではなくいつみと同じように相手の弱味を握りコントロールするのではないだろうか。小百合はいつみどころか澄川家に対しての弱味を握っているようなものだ。何も主役を交代するために殺す必要があったのだろうか。

この説をとると、結局のところいつみは生きており、いつみと小百合の復讐劇となる。メンバー達には恐怖を味わわせ、いつみに新たな生活を守るために自分が殺したことにし、それを仲間たちと分かち合い自分が犠牲になるというものだ。素晴らしい友情ですね。

しかしながらこの説では小百合だけ白いままでフェアではない。
とするとやはり「カニバ」に戻ることになる。この場合、伏線や環境設定がしっかり結末と絡んでいるので恐らくはこちらが正しい(様々な疑問点は残るが。例えば解体したとして、メンバーはその臭いに気づかないものなのか?という問題。闇鍋では嗅覚も敏感にとあるのだし、気づいてもおかしくはない)のだろうと思う。というのも、キリスト教系のお嬢様学校という陳腐な設定が生きてくるのだ。

小百合がいつみを殺したのも過度の信仰心故と考えれば納得できる。今まで崇拝していた偶像を突然失ったら急に反教徒になる現象を考えれば自然なことだろうと思えるのだ。また、最後のカニバの場面でもキリストの身体を分け与えるという例を持ち出し上手くキリスト教に繋げている。やはりこちらの方がしっくりくる。

しかし、小百合の今後はどうなるだろうか。
自分自身の罪を仲間と共有し、しかも仲間達の弱味を握る脅迫者の立場にたった小百合。いつみよりも物事の計画を立てるのが上手く、いつみの側で様々なことを学んだであろう小百合。「怪物」と表現するのがふさわしいようだ。しかしながら、御約束通り、脅迫者は殺されるし怪物は退治される運命にある。主役交代の日は意外と近いかもしれない。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
終わりよければすべて良しの好例だろう。ミステリー初心者にもイヤミス初心者にもお勧めだ。
暗黒女子

秋吉 理香子 双葉社 2013-06-19
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辞書を引くと「クリーピー」とは「身の毛がよだつような、気味の悪い」という意味だと教えてくれる。

本書もそのタイトル通り、どうも気味の悪い内容となっている。サスペンスホラーよりの本書を今日は見てみようと思う。

目次

  1. 作者の前川裕ってどんな人?
  2. クリーピーを読む
  3. 生きているのか死んでいるのか
  4. オススメ度

作者の前川裕ってどんな人?

作者の前川氏は法政大学国際文化学部の教授である。専門は比較文学・アメリカ文学だそうだ。
故に本書が最初の出版というわけではなく、英語関連の本(英会話・入試英語等)が前から出版されている。

小説に関しても「クリーピー」より前に「人生の不運」(現在は「深く、濃い闇の中に沈んでいる」と改題し、文芸社文庫から刊行されている)が出ているが、こちらはおそらく自費出版であったろうと思われるので、「クリーピー」が商業作家デビュー作ということになる。

そんな前川氏であるが、2011年に第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞、翌2012年に本格的に作家デビューを果す。やはり教授という仕事柄、文章を書き慣れているだけありデビュー作ながらとても読みやすい(ただし「~た。」が多いが)

クリーピーを読む

ミステリーの中でも「サスペンスホラー」よりと思われる本書。
だが、純粋な意味での「ホラー」とはまた違った怖さが潜んでいる。

本作の主人公は「高倉」。職業は大学教授である(小説内における昨今の大学教授は現実以上に大忙しである)。これは前川氏自身の投影であろう。

前川氏自身も教授ということで、ゼミや講義などで多くの学生たちと接してきたのだろう。学生の服装や話し方、ゼミの後の飲み会など、自身の経験を上手く使い小説内のリアルさを増している。

さらに穿った見方をすれば「ああ、この人(教授や講師の方々など)は普段こんなふうに学生を見ているんだな」という読み方も出来なくもない。前川氏自身の経験談なのではないか? と勘繰ることもでき、話の大筋とは全く関係ないがそんな楽しみ方もできるのも嬉しい。

さて物語は犯罪心理学者である高倉のもとに事件分析の依頼が届くことから始まる。その依頼以降、高倉の周囲で事件が頻繁に発生するようになってしまう。そして自身も事件に巻き込まれていく。

この犯罪心理学者の元に事件の分析が届き、そこから様々なことが発生するという流れだが、主人公の職業と結びついている(ように感じる)ので、物語の中に入っていきやすい。
この小説で最も重要なのがこれで、この話が現実でもあり得そうと思わせることなのだ。これがなくなると本書の面白さは半減どころか、成立も難しくなってくる。サスペンスとホラーの醍醐味が失われかねないからだ。だからこそ主人公の職業も前川氏自身が一番よく知っている職業にし、リアルさを出すために随所で工夫をしている。

だが、「クリーピー」はただ怖いだけでなく、アッと驚く展開も待っているので読み応えのある小説となっている。

そしてこの小説は現在社会へ問題を投げかけているようにも感じられるのだ。
たとえば、この小説の一番の肝、怖さの元は「隣人は誰なのか?」ということになるだろう。その疑問が不安に、そして確信へと変化していく展開が面白く先が読みたくなるのだが、これは現在だからこそ起こる不安ではないだろうか?
一昔前は近隣と付き合いが無い方が異常で、そんな状態を村八分と言ったりしていたはずだ。
だが村八分の状態でも火事や葬儀の場合は協力があったので、もしかしたら現在のほうがもっと稀薄かもしれない。だからこそ、近隣で事件が起こった時に疑心暗鬼に囚われる。
「隣に住んでいる人は善人だろうか?悪人だろうか? 生きているのか?死んでいるのか? まったくわからない」という状態が発生するのは現在だけだろう。

隣近所の付き合いが親密であれば、例えば、自分が仕事に行く間子どもを見てもらうということも可能であった(何かされるのではないか?という考えは無いというよりも恐らくタブー)
しかし現在はたとえ親密であったとしても自分の子を預けるということはしないだろう。相手を信用できないからだ。(ではなぜ他人であっても保育園や幼稚園には安心して預けれらるという考えが揺らがないのかは疑問だが。ただし最近ではそれすらも安心できない事件が起きている)

そんな問題点を含んでいるのがこの「クリーピー」だ。現代生活の不安や疑問を上手く昇華させている。

生きているのか死んでいるのか

若干のネタバレになるので未読の方はスルーしていただきたい。
本書では結局「矢島」は死んでおり、そのことを知っているのは限られた数人だけであり、「矢島」は現在も逃走中となっている。

だが果してそうだろうか?
高倉はあくまでも園子が「矢島だ」と言った死体を見ただけである。この死体が矢島でない可能性は大いにあり得る。さらに園子も矢島を庇う理由があるのだ。
もう一つ疑問点がある。いくら閉め切った部屋とはいえすべてのものの侵入を防ぐことはおよそ不可能に近い。そう。虫だ。そんな状況下で十年も死体があることを隠し通せるだろうか。それに十年ものの死体に皮膚が付いているものなのだろうか。ミイラ化したとしたら都合がよすぎるではないか。

流れ的にはやはり、死体は替え玉、本人は生きていて逃走中という方がしっくりくる気がするのだ。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
本書は去年西島秀俊主演で映画化されている。キャストも豪華で、特に香川照之の好演が見どころだ。
クリーピー (光文社文庫)

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kyoto-1976538_1920
変わったタイトルは一度聞くと中々頭から出ていかないものだ。

「鴨川ホルモー」もそうだろう。

鴨川はわかるとしても、「ホルモー」って何なんだ? 
変わったタイトルには、どこか人を惹きつける魅力もある。そんな「鴨川ホルモー」を今日は見てみようと思う。

目次

  1. 万城目学ってどんな人?
  2. 「鴨川ホルモー」を読む
  3. 誰が芦屋を裏切ったか?
  4. オススメ度

万城目学ってどんな人?

作者の万城目学氏は第四回ボイルドエッグ新人賞を受賞し、2006年「鴨川ホルモー」でデビュー。
その作品の多くが関西圏を舞台にしており、そんな繋がりからか森見登美彦氏とも交友がある。「おともだちパンチ事件」の被害者側である。
代表作に「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」など。

直木賞候補5回(鹿男・トヨトミ・マドレーヌ夫人・風太郎・悟浄出立)
山田風太郎賞候補2回(悟浄・バベル)

直木賞に関しては嫌がらせか!と突っ込みが入るぐらいノミネートされている。なかなか受賞にまで至らないが、今年こそはと毎年期待されている。

「鴨川ホルモー」を読む

「鴨川ホルモー」は万城目氏のデビュー作だ。
「本の雑誌」で2006年エンターテインメント1位になると、2007年には本屋大賞にもノミネートされた。2008年には漫画化、続く2009年には山田孝之主演で実写映画化もされた。

万城目氏が森見氏のとの対談で語っているように(ぐるぐる問答参照)「ホルモー」はあくまで大学生の青春ものである。物語は主人公安倍の一人称で語られ、個性的な登場人物とともに安倍の葛藤や苦悩を描き出す。そして読者は奇妙奇天烈な「万城目ワールド」へと誘われていく。

読み進めていく上で注目すべきは「ホルモー」という競技と登場人物の名前である。
架空の競技を書く際に一番作者が苦労するのはルール説明と競技の描写であろう。説明や描写が少なければ読者は思うようにイメージできず、書き込みすぎれば物語が停滞してしまう。
その点、「ホルモー」は「オニ」達を使役、つまり自分達が軍の指揮をとる立場となり、相手が使役するオニ達を殲滅したら勝ちと極めてシンプルな作りとなっており、余計なものがない分とてもわかりやすい。さらに合戦形式をとったことで、歴史好きや大河好きはもちろんのこと、日本史や世界史の教科書中の絵図も参考に出来るためイメージが容易になっている。

さらに「オニ」自身もコワモテの通常イメージする鬼とは(外面上は)ことなり若干可愛らしい姿になっており、愛着を持てるはずだ。

ただ競技がシンプルでインパクトに欠ける分それを補うものが必要となる。
それが「オニ語」だろう。まず「オニ語」の説明からして凄い。曰く「中年男性が洗面所で吐き気を催す際の声に似ている」というのだ。それを男女問わず町中で発しているところを想像してみて欲しい。
オニを操るには通常の言葉ではなく、「オニ語」でなければならない。あの不思議な言葉を自ら声に出して考えたのかと想像すると面白い。

さらに登場人物の名前だ。
登場人物にはそれぞれ元ネタとなる人物がおり、
・安倍=安倍晴明
・高村=小野篁などとそれぞれモチーフになった人物がいる(ちなみに小野篁も晴明に負けず劣らず不可思議な逸話も持つ人物である。六道珍皇寺の井戸や「子子子子子子子子子子子子」など非常に面白い)
なので安倍と芦屋が仲が悪いのは元ネタ的には当然なのであるし(一説では晴明は一度道満に殺されている)それが物語の中にも反映されている。

そういった点を踏まえて考えると様々なことが判明する。
例えばスガ氏が仲が悪かった相手などだ。スガ氏は自分にも仲の悪い相手がいたと発言しているが相手が誰なのかは言っていない。しかし、スガ氏の元ネタが「菅原道真」であることを考えると、反りが合わない相手はおそらく「藤原時〇さん」か「藤原〇平」にでもなるのかもしれない。

誰が芦屋を裏切ったか?

そして上のことを踏まえた上でもう一度登場人物を見てみよう。
安倍派は高村・楠木・三好兄弟の五人。
芦屋派は早良・松永・紀野・坂上の五人。
本文中では高村が「早良さんがいれた」と推察しているが、結局は誰が入れたかは判明していない。これが一人称のやっかいなところなので、安倍が知らない限り、読者も知らない。

だが考察するヒントは残されている。
登場人物の松永に注目したい。彼の元ネタは勿論「松永久秀」である。この松永久秀もなかなか面白い人物で(クリスマス停戦とか安土城の元ネタ説とか世界で初めて自爆した人とか……)あるが、彼の十八番はやはり「謀叛」であろう。しかし、この本の中では彼は一度も裏切りらしい裏切りをしていない。となると、最後の投票で裏切ったのは「松永」なのではないか?と考えられる。安倍派には三好兄弟(三人衆か四兄弟かこの際どちらでも良いが、少なくとも安倍派の方が時代的に近しい元ネタの人物が多い)もいるので、やや根拠が薄弱ではあるが可能性は高いと考える。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★☆☆☆
今作最大の謎はレナウン娘なんてどっから持ってきたのかということ。どこで「これや!」ってなったんだ。それが知りたい。
鴨川ホルモー

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科学文明が進んだとはいえ、未だに解明できない謎・不思議な現象が多くある。

そんな現象に自分が遭遇したらどうだろう?
怖いと感じるだろうか? それとも何も気にせず普段通りに行動するだろうか?

では「自分は普段通りの行動をしているのに、自分の知らない内に怪奇現象に巻きこまれていた」としたらどうだろうか。

そして「残」った「穢」れとはいったいなんだろうか。そんなことに注目しつつ、今日は「残穢」を読もうと思う。

目次

  1. 小野不由実とはどんな小説家か?
  2. 「穢れ」とは一体何なのか?
  3. 「残穢」を読む
  4. オススメ度+映画感想

小野不由実とはどんな小説家か?

アニメ化もされた「悪霊シリーズ」や「十二国記」「屍鬼」でお馴染みの小野不由実。
講談社X文庫のコバルト系からミステリー・ホラーまで何でもこなす小説家だ。デビューこそ1988年と早かったが、出版がX文庫だったためか(男性で買う人はあまり見ない)世間一般に認知されるのには時間がかかったようだ。

しかし、1993年「東亰異聞日本ファンタジーノベル大賞の最終候補となり、新潮社から刊行される。そして1998年には「屍鬼」を発表。山本周五郎賞・日本推理作家協会賞の候補にもなり、ベストセラーを記録。ようやく世間に名が知られるようになる。

そして2010年、悪霊シリーズがメディアファクトリーより「ゴーストハント」として刊行されると、2012年には「十二国記」が新潮社に版元を変え刊行スタート。現在もシリーズ継続中(?)の「十二国記」は800万部のベストセラーとなった。

そして本書「残穢」が2013年に山本周五郎賞を受賞。体調がすぐれないらしいが(そのことは本書の中にも書かれている)様々なジャンルで活躍中である。

ちなみに小野氏も「京大推理小説研究会」出身である。同時期のメンバーは綾辻行人・法月綸太郎・我孫子武丸。なんという豪華な顔ぶれだろうか。綾辻氏とは学生結婚をしている。

「穢れ」とは一体何なのか?

では小説の中身に触れる前に、「穢れ」の概念について軽く見てみようと思う。というのもタイトルにもある通り、「穢れ」の概念が深くからんで来るからだ。

穢れにも様々な解釈が存在しており、人によって多少の差異があるようだが、大雑把に言ってしまえば「人に嫌な気持ちを抱かせるような理想的でない(不潔・不浄等)状態」だと説明することができるだろう。例えば死による穢れ(黒不浄)や、経血(赤不浄)出産(白不浄)などが挙げられている。

また民俗学では「ケガレ」を「ケ(日常)枯れ」とする考え方も広がっている。ハレ―ケ―ケガレという関係である。

なぜここまで「穢れ」を忌んできたのか。それは日本人が農耕民族であることに深く関係していると考える。山の雪解けを見て田植えの時期を決める方法などが良く知られているが、それより以前は「隣りの田んぼが植えはじめたからこっちも植えよう」という考え方だったようだ。つまり今我々が持っているであろう考え方「みんながやってるから私もやる」というのはここからきている。なので自分だけ違うことをしていると不安になるし、行列には取りあえず並んでしまうのである。皆がやっているから。さらに、その秩序を乱す者をとことん嫌う傾向が日本人にはあるように思える。

そこで「穢れ」に戻って考えてみよう。穢れの状態というのは個人だけではなくその共同体にも影響を及ぼすと考えられていた。ということは一人のせいで共同体(家族・村などの地域社会)が危険にさらされるわけでる。だとすると、この「穢れ」の状態をとことん忌むのは納得の行くところだろう。

しかしながらこの「穢れ」の最大の問題点は人から人へと移ると考えられていることである。
この考え方は現在にも深く根付いている。
例えば鬼ごっこだ。なぜ「オニ」ごっこなのか?という疑問はさておき、これも「オニ」に触れられることで自分がその役目を担う。自分にオニが移っているのだ。この遊びの中にも嫌なものが自分から他人へと移る穢れの過程というものが見てとれる。
さらには正月や年の瀬などでおなじみの「人形」これも自分自身の穢れを人形に移すことで自分の穢れを払っている。

ここまで読んでいただければうすうす感じているとは思うが、近年のイジメの問題、また無くならない差別の問題も結局は日本人の価値観、生活習慣にいつの間にか潜んでいる「穢れ」という考え方に繫がってくるのではないだろうか。この穢れから逃れる方法を見つけることが日本の本当の意味での近代化につながるのではなかろうか。

「残穢」を読む

さて前置きが長くなってしまったが、実際に読んでみよう。
作家である「私」は心霊現象には否定的であるが、過去にホラーもの(悪霊シリーズ)を書いていた縁で今も読者から体験談が届く。そんな中一通の手紙が気になった「私」は手紙の主と会い、話を聞きながら怪奇現象を調べ始まる。というのが話しの大筋だ。

この設計の巧いところはやはり主人公である「私」を小野不由実自身とオーバーラップさせることで、実際に作者が経験した事ではないか? という怖さ、つまりフィクションの形式をとってはいるが、実際はノンフィクションなのではないか? というイメージを我々読者に植えつけているところだろう。

なので、架空の世界の話ではなく、実際の話、つまり今読んでいる私たちの世界と地続きの世界で起こったできごとなのではないか? という怖さを読者に想起させることに成功していると言える。

さらにこの淡々とした語り口調の文体も怖さを煽る効果を生み出している。

そして上記の「穢れ」の概念をもう一度思い出してこの「残穢」の怖さとは何かを考えてみよう。
残穢には気味の悪いやつに追いかけられるシーンや、(旦那お得意の)スプラッターシーンがあるわけでもない。しかし確実に怖いのである。とするとやはり、我々の無意識に根付いている「穢れ」の恐怖、つまり「この本を読んでしまった私にも、災厄が降りかかるのではないか?(「私」の穢れが本を媒介にして移るのではないか?)」という恐怖であろう。

この「残穢」という本は日本人の内なる恐怖を刺激する本であると言えよう。

余談だがこの本には「平山夢明」「福沢徹三」ご両人が登場する。残念ながら夫の「綾辻行人」は登場しない。

※ちなみに本書には姉妹本と言える本が一冊ある。それが角川から出ている「鬼談百景」である。こちらは人が経験した怖い話を集めました、という形をとっている。そして「百景」というだけあって百物語を連想させるのだが実は「99話」までしか収録されていない。この「残穢」が100話目にあたる。百物語は語り終えると怪異が起きることで有名だが果して……?

オススメ度+映画感想

オススメ度★★☆☆☆
面白さ★★★★★
合計★七つ
私は進んでこの本をオススメしたりはしませんよ、ええ。面白さは間違いなし。ホラーとはこうだ!という思いを噛みしめながら読むことができる良書だ。しかし、この本を媒介にしているとしたら大変ですよね……?

映画評価
オススメ度★☆☆☆☆
面白さ★☆☆☆☆
いろんな意味で私はオススメしません。豪華キャストは豪華キャストなのだが、持ち腐れというか上手く使えていないというか。得体の知れないものが主人公たちに襲いかかる!というのはもう古いのではないでしょうか?B級映画ですよね。原作に登場しないものを出すのであれば、原作を超えるようなクオリティでなければならないだろう。
残穢 (新潮文庫)

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