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タグ:探偵小説

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純文学畑にいながらも推理小説を書いた作家は意外と多い。

中でも有名なものが坂口安吾の「不連続殺人事件」だろう。今日は破天荒な人生を送った安吾が書いたこの「不連続殺人事件」を読んでみようと思う。




目次

  1. 破天荒な人・坂口安吾
  2. 「不連続殺人事件」を読む
  3. オススメ度

破天荒な人・坂口安吾

坂口安吾といえば「白痴」や「堕落論」「桜の森の満開の下」などで知られる作家であるが、実は純文学だけでなく、歴史小説や紀行文、随筆、そして推理小説まで手掛けた多彩な作家である。そんな安吾についてまず見てみたい。

坂口安吾は太宰治・織田作之助・石川淳らとともに無頼派(新戯作派)と呼ばれた純文学畑の作家だ。「純文学」と聞くと性や暴力、そしてどことなく暗いイメージを想起しがちだが、それはその人が書く本すべてに言えるわけではない。その人となりが文章に滲み出ているものが多いとしても(当然そうでなくてはならないのだが)笑えるものは笑えるのだ。純文学が苦手で距離を取っていた、という人は例えばその人が書いた短い随筆から入るといいかもしれない。その好例が太宰の「畜犬談」だ。これは青空文庫ですぐに読むことができるのでぜひ読んでみて欲しい。

安吾はどうか。
先にも書いたように、安吾は多作で多彩な作家だ。それぞれの好みのジャンルに合わせて入っていくのが良いと思うが、ここはせっかくなので随筆をオススメする。安吾の随筆はとても面白い。普通の日常・体験談をただ描いているだけなのに、そこから溢れる親近感はなんだろう。

また安吾と言えば「ゴミにまみれた部屋と安吾」の写真が有名だが、あの部屋の写真はだまし取られたものである。二年間まったく掃除をしていなかった部屋とその部屋をなんとか取りたい、というだけの「机と布団と女」という短い話もある。

さらには戦争に行っても死なないための工夫や努力を書いた「わが戦争に対処せる工夫の数々」も面白いのだが、とりわけ戦後日本の復興を支えたともいわれる「ヒロポン」の体験記「反スタイルの記」が抜群に面白い。当時軍隊でも支給され、薬局でも普通に売っていたヒロポンは覚せい剤なのだがその効果が詳しく描かれている。安吾曰く「とにかく、きく」。

「不連続殺人事件」を読む

そして安吾は推理諸説にも一家言持っていた。
「探偵小説とは」ではクリスティーを天才と褒め称え、「探偵小説を截る」では探偵小説の幼稚さを嘆き、「刺青殺人事件を評す」では乱歩の批評に反論し、今の日本では横溝が一番と語る。

そんな安吾が書いた探偵小説、それが「不連続殺人事件」である。
これは安吾が書いた初めての長編推理小説で、探偵役の巨勢博士が人物の心理、つまり動機に着目しながら推理を展開するという筋の小説だ。この「不連続殺人事件」は先の高木彬光「刺青殺人事件」と第二回探偵作家クラブ賞(現・日本推理作家協会賞)を争い、受賞している。また、雑誌掲載時には「読者への挑戦」として犯人当てに懸賞金がかけられたことでも話題となった。

いざ読んでみると、どことなく横溝物と雰囲気やテンポが似ている。
事の発端は推理小説の王道。多数の人物が一箇所に集められ、そこで謎やトラブルが起こり、ついに殺人事件へと発展。そして探偵役の巨勢博士が解決のために立上るというものだ。

純文学畑の作家が人間のどこに着目して推理小説を書いたか、「不」連続殺人とはどういうことなのかを考えながら読むときっと面白いだろう。ちなみにこの小説は登場人物が多く、そしてそれぞれ複雑な関係で結ばれているため非常に整理しづらい。相関図や登場人物を書き出しながら読むことでスムーズになるかもしれない。

余談ではあるが、雑誌が廃刊となり未完となっていた「復員殺人事件」の後半部を死んだ安吾にかわり執筆したのが高木彬光である。これもまたなかなか面白い縁ではないだろうか?

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
セリフ回しにやや時代を感じるがそれでもオモシロイのが傑作たる由縁である。
不連続殺人事件 (角川文庫)

坂口 安吾 角川書店 2006-10-01
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平安貴族や武家貴族、公家や華族など日本にも様々な貴族階級の人間がいた。

そんな貴族たちについて私たちはどんなイメージを持っているだろうか?
今日はおよそ貴族らしい探偵が登場する「貴族探偵」を見てみようと思う。




目次

  1. 麻耶雄嵩ってどんな人?
  2. 「貴族探偵」を読む
  3. 「こうもり」について(ネタバレあり)
  4. ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと
  5. オススメ度

麻耶雄嵩ってどんな人?

麻耶雄嵩氏もあの京大推理小説研究会出身である。そこで知り合った綾辻行人・法月綸太郎・島田荘司の推薦をうけ1991年「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」でデビューした。

さらに2011年には「隻眼の少女」で第64回日本推理作家協会賞・第11回本格ミステリ大賞を受賞。2015年には「さよなら神様」で第15回本格ミステリ大賞を受賞した。この「さよなら神様」は7月に文庫化も予定されており、そちらも楽しみである。

また麻耶氏は「独特の世界観」や手法が特徴的であり、その癖のある作風はマニアの心を掴んで離さない。だが、前情報なしの初見で挑むといささか面食らうこともあるので注意が必要だ。

「貴族探偵」を読む

「貴族探偵」は2010年に単行本で刊行され、2013年に文庫化された。この本に収録されているのは五つの短編なのだが、それぞれ発表された時期に開きがある。
・「ウィーンの森」は小説すばる2001年2月号
・「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は小説すばる2001年9月号
・「こうもり」は小説すばる2007年4月号
・「加速度円舞曲」は小説すばる2008年4月号
・「春の声」は小説すばる2009年9月号
と、トリッチ・トラッチ・ポルカとこうもりの間は約6年ほど期間があいている。
ネットでは「こうもり」以降は出来も良く面白いが、前二作は微妙な出来だと目にすることが多いが、果してそうだろうか?

確かにこれがシリーズものではない単発ものだとしたらその評価には納得できるが、短編集として編まれた場合前二作は導入と定着の仕事をしっかり果たしていると思うのだ。
「ウィーンの森」で「貴族探偵」とはこういうものだと読者に紹介し、「トリッチ」では毎回このパターンですと読者に釘をさす。そして「こうもり」で活躍を見せつけ、余韻をのこしつつ去って行く。
とすると、「ウィーンの森」で一番着目すべきは「貴族探偵」がどのように我々の前に現れたかではないだろうか。事実「ウィーンの森」での登場の仕方が一番図々しく、印象に残るようになっているはずだ。

またこの「貴族探偵」は麻耶氏の他の作品と比べると癖が比較的抑えられている気がするのも事実だろう。「麻耶ワールド」なるものを感じることは少ない。しかしながらそこはやはり麻耶氏の書く小説である。この貴族探偵は探偵と言いつつも自身は全く探偵らしいことはしない。いわゆる安楽椅子探偵でもない。そこに麻耶氏の拘りが感じられる。

また登場人物の名前が変に奇を衒っていないのが良い。普通の探偵小説であれば探偵が推理するのでどんな名前をつけようが注目されることになる。しかし「貴族探偵」では貴族探偵が探偵の役割を放棄している。推理を披露するのは召使いたちなのだ。ではどうやって「貴族探偵」の存在感をアップさせるか。それは召使いたちの名前をよく耳にする名字にすることで解決していると思われる。それぞれ山本・田中・佐藤とすることで変にかれらがでしゃばって来ることがないのだ。彼らを下げることで貴族探偵を上げていると思われる。

「こうもり」について(ネタバレあり)

各方面で話題の「こうもり」。確かにすばらしい出来だった。
これを読んで思い出されるのは麻耶氏の長編小説である。
トリックとしては逆叙述+替え玉
しかしこの逆叙述というものが曲者で、登場人物は知らないが、読者は知っているというものなのだ。登場人物はてっきり知っていると思っていたと、ここに驚きが生じる。
今回の場合、絵美と紀子が貴生川を大杉と思っていた、つまり二人一役を認識できていなかったこと、そこに貴生川を貴生川+大杉の二人に見せかける一人二役のトリックが働いている。
また読者に対して貴生川を貴族探偵と誤認させること、絵美の彼氏だと思わせることで貴生川を嫌疑の外に置くよう仕向けている。
伏線もしっかりあるのだが、非常に巧妙に仕組んであるためなかなか気づかなかった。短編でよくここまでという素晴らしい出来である。

ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと

初回放送が終わった後は大絶賛の嵐だったらしい。原作ファンも嵐ファンも納得の出来だったと。それは本当だろうか? 私は正直見ている最中に恥ずかしくなってきて消してしまった。

昨今視聴率が下がり、製作費が少なくなる、そしてまた視聴率がとれないというループに嵌っているドラマ。脚本家の書き下ろしにしても率がとれないのであまり払えない。そこで各局が血眼で探しているのはすぐドラマ化できそうな「ミステリ小説」らしい。そしてドラマ化の必須条件となっているのが、「美しく、強い女性の活躍」なのである(イケメンで強い男性ではだめらしい)。そうして見てみると、たしかに最近ドラマ化されているものの多くはこの必須条件にほとんど当てはまるようだ。原作には全く関係ない女性キャラが登場するのはこういう理由がある。そんなわけで「貴族探偵」は麻耶氏が意識していたかどうかはわからないが、ドラマ化の必須条件を満たしていたといえる。

また各話にその話限りのヒロインを登場させることができるのもこの小説の強みであろう。これで女性役もさらに確保でき、パターンの打破に光りがみえる。さらにこの「貴族探偵」が短編集であったことも有利に働いたはずだ。

「すべてがFになる」のアニメとドラマを思い出していただきたい。
まずドラマはF~パンまで前編・後編という形で放送したが、これは成功したとは言い難い。というか酷かった。一つの話を二週に分けて放送するのは最終回だけなら特別感があっていいかもしれないが、常時だとこちらの興味を失わせかねない。が、長編を一時間枠でやるのはやはり無理がある。

一方アニメは1クールすべてFを放送した。だが、これだと毎回谷・山を作りづらく見ていて飽きてしまう可能性がある。

だが、短編では作者があらかじめ谷・山を作っているので深く考える必要がない。
そう。深く考える必要はなかったのだ。原作のまま、メイドも変に年上にせず、若いままでよかったのだ。そこにギャップがあったのだ。それを構成か脚本家か知らないが原作の良さを完全に潰してしまっている。

そして駄目押しは「鼻形雷雨」というオリジナルキャラクターの登場だ。まず名前が駄目。せめてもっとオリジナリティあふれる名前にしてほしい。しかもこの性格付けが最悪である。貴族探偵の周りは良くも悪くも個性的な人物達で固められている。なので彼らを周囲から浮いているようにしなければならないはずであった。つまり個性的な人物は貴族探偵の周辺だけで良かったのだ。オリジナルの警察キャストを出すのであれば、こんな三文芝居のような人物ではなく、しっかりとした警察ドラマのような人物を出すべきであった。鼻形に関しては最近不要論が起っているらしいが、そんなもの最初から不要である。叩き上げの段階でもう終わっている。キャストが豪華で、実力がある人たちも揃っているだけに本当に勿体ない。

そして小説を読み返して思ったが、この「貴族探偵」はコメディの皮を被った別ものなのでないか。コメディとして考えてキャスト組んだ場合たしかにベストの布陣に見えるがそうでなかったのではないか。だからちぐはぐ感が漂っているのではないだろうか。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★☆☆
癖もなく万人受けするはずだ。ドラマを見限った人も小説だけは読んでみて欲しい。
貴族探偵 (集英社文庫)

麻耶 雄嵩 集英社 2013-10-18
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週刊文春によって実施された「東西ミステリーベスト100」という、推理作家や愛好家らが選んだランキングがある。

これは過去に二度行われている。1985年版・2012年版だ。

そして過去のランキングでどちらも1位に選出されたのが横溝正史の獄門島である。日本国内におけるミステリーの頂点といっても過言ではない本書を今日は見て行こうと思う。

目次

  1. 横溝正史 ~正史に駄作なし~
  2. 金田一耕助という男
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. あのカバーの人! セットで知りたい「杉本一文」
  6. オススメ度

横溝正史 ~正史に駄作なし~

横溝正史は1921年「恐ろしき四月馬鹿」でデビューを果たすと、新青年や文芸倶楽部、探偵小説の編集長をやりながら、兼業作家として活動。1932年に専業作家となると、1981年に没するまでに長短編あわせて100以上の作品を残している。有名どころを除いては、現在ほとんど紙媒体では発売されていないようだがkindleストアでよめるようだ。

横溝正史の凄いところはその作品数にもかかわらず、ほとんどの作品が一定以上の水準をキープしているところだろう。ほぼ外れが無いと言っても決して過言ではない。
初期の名作である「真珠郎」「蔵の中」「鬼火」
戦後始まる「金田一シリーズ」の「本陣殺人事件」「八つ墓村」「犬神家の一族」
そして晩年の「仮面舞踏会」「悪霊島」「病院坂」
どの作品も素晴らしすぎてあげればきりがないのだが、今こうして見てみても、やはり序盤・中盤・終盤全く隙が感じられない。

さらに横溝も「ストレプトマイシン」によって命が救われたであろう人間の一人である。
1934年に肺結核が悪化。「風立ちぬ」の舞台でもお馴染み「富士見高原病院」に横溝も療養のために入っている。さらに悪いことに当局の取り締まりが強化され、探偵小説自体の発表を制限される。この頃既に専業作家となっていた横溝は身体的にも経済的にも困窮。一時は死を覚悟したという。

しかし終戦後、ストレプトマイシンが値崩れを起こす。そのことで横溝は快方に向かうのである。
そして横溝は「本格探偵小説の鬼」となり数々の名作を世に送り出すことになる。

ちなみに「蔵の中」「鬼火」であるが、この二つは「蔵の中」というタイトルの文庫内に同時に収録されている(角川 緑 304 -21-)

金田一耕助という男

ではそんな横溝が生み出した名探偵・金田一耕助を見てみようと思う。
金田一耕助は日本三大名探偵の一人だ。作中でも多く言われている通り、どこか憎めない、そんな魅力がある男である。2012年の朝日新聞「心に残る名探偵」ではコロンボ、ホームズにつぐ三位に入っていたり(明智は4位、神津はランク外)と今でも多くの人に愛されている。

よくネタにされるのは耕助の「殺人防御率」の高さであるが、あんなものは飾りである。これは選んだ作品が「たまたま」犠牲者が多かったと言うだけで、相対的に見れば1.5と非常に低い数字となる。決して無能、メイ探偵などではないのだ。そして耕助氏も探偵道具(小型のナイフ・虫眼鏡・薄い手袋など)を所持しているがあまり活躍の機会はない。稀に変装もする。

後期になってくると活動拠点を緑ヶ丘荘に移すが、そこでは耕助氏の朝食の場面が描かれていたりとなかなか面白い。

そして最大の驚きは耕助がアメリカに留学していたことだ。しかもそこで麻薬中毒になり厄介者扱いをされていたということである。なかなかに破天荒な人生を送っているようだ。

ちなみに「耕助をじっちゃんと呼ぶ彼」との関係は少なくとも金田一シリーズでは確認できていない。というか耕助は生涯独身だったというのが通説。一応二人だけ明確に好意を抱いていた相手がいるが、一人には振られ、もう一人は自殺という結末を迎える。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

さて本作「獄門島」は1947年から48年にかけて宝石で連載されたものだ。2016年までに獄門島を原作としたドラマが五本、映画が二本撮影されている。

この獄門島は見立て殺人・旧家の対立など、好きなひとにはたまらないシチュエーションが盛沢山だ。それと初期の金田一物ほぼ全てに共通することだが、斜陽族や引き上げ軍人の問題など戦後の日本の様子が描かれていることもポイントである。

特に本作「獄門島」はその「戦後日本」というものが物語上非常に重要になっている。戦後の激動の時代に翻弄された日本人とでも言おうか。いくつもの偶然が重なってこの結末へと至っている。個人的に思うことは本作は被害者しかおらず、犯人はいないのではないかということである。

実際読んでみて~ネタバレ有り~

これからはネタバレとなる。
まず悲しいことに獄門島の地を耕助が訪れていなければ、この事件は起きなかった可能性がある。千万太の死を伝えたのは耕助である。その時点で事件の発生が確定する。復員詐欺の犯人が捕まることで和尚たちも騙されていたことが判明するのだが、そのタイミングまで千万太の死を知らなければ今回の事件は起きていない。千万太が耕助を知っていたこと、千万太が死に耕助が生き残ったこと、同時期に復員詐欺が起き一は生きていると思いこんだこと、耕助の手により千万太の死が素早く伝達されたこと、そして鐘が残っていたこと(これは直接は関係ないが)これらが合わさり、殺人事件が発生するに至った。耕助は運命に敗北したと言ってもよいだろう。

私は所謂名作・傑作は、序盤、というか読みはじめてすぐに伏線が張り巡らされており、それをきちんと回収しているという共通点があるように思う。
獄門島も例外ではない。
・一の復員(11P)→同じ部隊にいた人物から聞いた(復員詐欺という最後のどんでん返しの伏線)
・千万太が死んだと聞いた時の幸庵・荒木の表情の描写(28P)→三人娘を殺さなければならないという恐怖。
など、伏線とは思わせないようにうまく紛れ込ませている。さらに随所に与三松・鵜飼へのミスリードがあり、読み応えがある仕上がりだ。また、ただの人物描写・説明と思われるものが後に伏線として効果を発揮したりと(幸庵さんは酒癖が悪い→寝ていてもおかしくはない)さすがといわざるをえない。

ちなみに今作の犯人は横溝正史の奥さんが指摘した犯人を元に練り直したものである。
そして本作に登場する「鬼頭早苗」さんこそ耕助が惚れた女性の一人である。残念ながら耕助は振られている。(本鬼頭を継げるのは早苗さんしかいなくなってしまった。そして早苗さんは本鬼頭の再生を決意する。強い女性である)

あのカバーの人! セットで知りたい「杉本一文」

杉本一文氏は金田一シリーズのカバーを手掛けたイラストレーターである。
2001年 第四回グリビッツェ国際蔵書コンペティション(ポーランド)審査員特別賞
2004年 台湾日本蔵書票交流文化展 優選賞
2005年 第四回国際小版画・蔵書票トリエンナーレ(チェコ) フランツ・フォン・バイロス賞
など、様々な賞を受賞している。

数年前に横溝復刊フェアがあった際、杉本氏のカバーも復刻した。今手元に通常カバーと杉本氏カバーがあるのだが、やはり今のカバーは味気ない。金田一シリーズはやはり杉本氏×横溝で真の完成を見と考える。あなたのお気に入りのカバーはなんだろうか? 私はやはり「病院坂」。あれは素晴らしい。写真がセピア色になっているというところが非常にポイントが高い。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★★☆
合計★八つ
やはり安定して面白い。金田一読んでいないのであれば取りあえずこれ読んどけみたいなところがある。
獄門島 (角川文庫)

横溝 正史 角川書店(角川グループパブリッシング) 1971-03-30
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小説講座などでは合作小説、いわゆるリレー小説などを課題として出されることがあるようだ。

しかしながら最近では、アンソロジーやオムニバス形式の書籍はあっても、「合作小説」というものはほとんど見ない。
だが、過去には探偵小説界のレジェンド達が多くの合作を残している。その中の一つが今日紹介する「江川蘭子」である。船頭多くして船山に登る、ということわざがあるが本書はうまく着地できているのだろうか……?

目次

  1. 当時の雑誌事情~合作という余興~
  2. 「発端」 江戸川乱歩
  3. 「絞首台」 横溝正史
  4. 「波に踊る魔女」 甲賀三郎
  5. 「砂丘の怪人」 大下宇陀児
  6. 「悪魔以上」 夢野久作
  7. 「天翔ける魔女」 森下雨森
  8. オススメ度

当時の雑誌事情~合作という余興~

日本で最初の合作探偵小説となったのは「五階の窓」というタイトルの小説だ。第一回に江戸川乱歩をすえ、大正15年6月~10月まで『新青年』にて連載された。

しかしこの小説は執筆順だけを決めて書き始めたらしく、結果としては失敗だったらしい。それでも合作小説はその後も何度か行われていく。余興・お遊び的な試みだったことに間違いはない。

だが当時は雑誌上に長編を連載できるような探偵作家が少なかったという事情がある。結果、少しでも面白そう、話題を呼びそうであればGOサインが出ることになる。

さて今回の「江川蘭子」であるが、担当パートと作家の経歴を順にさらっと見ていきたいと思う。

「発端」 江戸川乱歩

書き出しはご存じ江戸川乱歩だ。
乱歩の処女作「二銭銅貨」は日本最初の本格探偵小説であるとも言われている。また日本三大名探偵の一人「明智小五郎」「少年探偵団」の生みの親でもある。「類別トリック集成」にお世話になっている方も多いのではないだろうか? 乱歩はこの「江川蘭子」という名前を気に入っていたようで、他の小説にも同じ名前の人物や、似たような名前の人物が度々登場する。さてそんな乱歩が書き出しを務める。

書き出しはその小説の行く末を決める重要な部門である。約30Pしかない中で乱歩は自身のエロ・グロ趣味をいかんなく発揮している。さすがといったところか。

「絞首台」 横溝正史

そんな乱歩の後を受けるのは横溝正史だ。
横溝といえばみんな大好き「金田一耕助」の生みの親。もちろん金田一も日本三大名探偵の一人だ。しかしこの「江川蘭子」執筆当時はまだ金田一シリーズはおろか、横溝の名前を広めることになった「本陣殺人事件」も書かれていない。だが横溝もう一人の名探偵「由利先生シリーズ」が始まっている。金田一に隠れがちだが「真珠郎」「蝶々殺人事件」などの名作もあるのでぜひ目を通してほしい。

さてそんな横溝のパートだが、私はもうタイトルが横溝くさくてたまらなく好きだ。舞台を兵庫に移したのは乱歩なりの優しさだろうか?しかし前のパートの乱歩が事件を起こしていないのでセオリー的には早めに事件を起こしたいところだろう。そんなわけで謎の人物の登場と事件が発生するわけだが、ここでいかにも重要なもののように「あざみの花」が登場する。この後の流れを見ると、この花の始末に苦慮しただろうと思われる。

「波に踊る魔女」 甲賀三郎

この二人の後を受けたのが甲賀三郎だ。
乱歩・横溝などの「変格」に対し、甲賀は純粋に謎解きの面白さを追求するという意味で「本格」という言葉を使い始めた人物である。戦時中の45年に急性肺炎で死去している。
活動期間は20年ほどで、戦前の弾圧を受けながらもかなりの量を執筆している。

甲賀三郎の入りはいささか面白い。前二人の作風と私とではタイプが違うから戸惑っていると素直に心境を吐露している。そして突然始まるのが疫病「黄死病」の流行である。これには読んでいてかなり戸惑った。さらに「黄死病」と絡めて横溝の置き土産である「あざみの花」を発展させている。もうここらへんからハラハラの連続である(上手く決着するのかという意味で)

「砂丘の怪人」 大下宇陀児

大下宇陀児は大正14年「金口の巻煙草」でデビュー。探偵小説だけでなくSFにも興味を示した多彩な作家だ。1951年には「石の下の記録」で探偵作家クラブ賞を受賞している

そんな大下はこの小説の中で夢野久作につぐファインプレーを魅せたと思われる。甲賀の後をうまくつぎ、なおかつ飽きさせないよう問題の提起(解決できそうな範囲の)を行っている。いよいよクライマックスに向けて盛り上がってきた。

「悪魔以上」 夢野久作

お次は夢野久作だ。
日本三大奇書のひとつ「ドグラ・マグラ」の作者として知られるが、他にも面白い小説は多い。ドグラマグラを読んで読みにくいというイメージをもたれるかもしれないが、「少女地獄」や「瓶詰の地獄」も大変面白い。特に「瓶詰の地獄」は個人個人で解釈ができるようになっており、様々な解釈が試みられている。ちなみに詩や短歌にも長け、禅僧でもあったという万能超人である。

そして夢野久作がここでも離れ業をやってのける。夢野は自分の文体・自分の色を消すことなく前面に押し出しながらも、今まで回収されるかどうか不安だった数々の伏線をほぼ回収することに成功する。謎についてもほとんど全てに解決を与えている。そんなわけでバラバラのように見えたそれぞれの話が夢野久作の手によりなんとなく一つの話に纏まったかのように見えるのだ。若干駆け足気味なのはこのままじゃ不味いという久作の焦りだろうか?

「天翔ける魔女」 森下雨森

ラストは森下雨森だ。森下は確かに作家としての活動も行ったが、国内の作家の発掘育成のほうに功績がある人物だろう。乱歩も横溝もかなりお世話になっていたようだ。さらに海外小説の翻訳もしており、あのクロフツの「樽」を最初に紹介したのは森下らしい。

しかし今回のラストをかざる「天翔ける魔女」はどうだろうか?超展開すぎやしないだろうか。ハラハラさせるシーンはあるにはあるが、我々読者はそんなことには期待していないのだ。終わりがいかに重要か、ということがわかる良い例である。夢野久作の頑張りは何だったのか。ぶち壊しである。

オススメ度

内容をざっくりとみてきたが、作家陣は各々謎解きよりも謎を作ることが好きらしい。ほぼほぼ丸投げである。というかなかなか謎らしい謎も出てこず、出てきても本当に伏線回収してくれるのだろうか?と読んでいるこちらがハラハラする。
とりあえず謎は作ったが、前の作家の意図はよくわからん!次の人がなんとかしてくれるだろう!みたいな文章があったりしてそれはそれで面白い。

しかしこれは合作だから許されるのであって、一人の作家が一つの小説でこんな書き方(花の扱いとか唐突な病気とか)をしたら即壁本である。結果としてこの小説は江川蘭子冒険譚みたいな物になってしまったが、読んでみると新たな発見があるかもしれない。これをカタログとして、気に入った作家の本を当たるのも面白いだろう。実に不思議な小説であった。
オススメ度★★★☆☆
面白さ★★☆☆☆
合計★五つ
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