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昨今話題の「終活」。葬儀や墓などを事前に準備するこにとどまらず、「人生のエンディングたる『死』について考えることで自己を見つめ直し、今をよりよく生きる」ということらしい。

が、「死」とはやはり突然やってくるものなのだ。まさか死んでしまうとは自分でも思っていないのに「死」は突然訪れる。

今回は偉人やヤクザ、犯罪者など様々な歴史上の人物総勢800人以上の死に方を書きしるした山田風太郎の名著「人間臨終図鑑」を見てみようと思う。今回は角川版である。




目次

  1. 人間臨終図鑑・上
  2. 人間臨終図鑑・中
  3. 人間臨終図鑑・下
  4. オススメ度

人間臨終図鑑・上

人間臨終図巻 上 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

山田 風太郎 KADOKAWA/角川書店 2014-01-25
売り上げランキング : 226085
by ヨメレバ
上巻は10代で死んだ人物から55歳で死んだ人物総勢324名を収録。
この本の特徴は年代・年齢が切り替わるごとに作者である山田風太郎、もしくは偉人の「死」に対する箴言・格言が添えられていることである。これがまたこの本を情緒あふれるものにしている。

例えば本書の始まり「10代で死んだ人々」では、鴨長明「方丈記」の言葉
『知らず、生まれ、死ぬる人、いずかたより来たりて、いずかたへか去る』という言葉が引用されている。この段で鴨長明は人生の無常、儚さを朝顔に例えて語っている。

しかしこの本がずっとこの調子真面目な調子で続くかというと決してそうではなく、所々に皮肉あり、笑いあり、読者を飽きさせないようにしている(ただ人間の死に際を書いているだけなのだが)
「47歳で死んだ人々」の章で添えられている山田風太郎の言葉
「臨終の人間『神よ、世界の終りの日の最後の審判などいわないで、いま審判して下さい。なぜ、いま、私が……』
神『では、いおう、最後の審判がいまだ』」

という言葉からもそのことが分かっていただけるはずだ。

以下、個人的に気になった人物を山田風太郎の言葉とともに見てみようと思う。
〈八百屋お七 15歳で死去〉
本書の一人目を飾る重要な人物である。

天和の大火(別名お七火事)で焼け出され、避難している間に寺の小姓・庄之介(もしくは吉三郎)と恋をし、店が再建され寺を引き払った後も恋心は募るばかりであったお七。
そこで彼女が庄之介に会いたいがためにとった行動が「放火」である。

そう、また焼け出されれば寺で会えると踏んだのである。しかし放火は大罪だ。お七は捕まり火あぶりの刑に処せられた。
徳川時代では数え年16歳から成人である。お七が放火した天和3年、お七は数え16歳となっていた。15歳であれば減刑されていたのだ。

しかしながらお七に関する史実の詳細は不明となっている。お七の実家が八百屋かどうかも不明だ。ただ当時この話が非常に人気であったようで、人形浄瑠璃や歌舞伎、落語などでこれを題目としたものが多く作られている。

〈石田吉蔵 41歳で死去〉
山田風太郎がこの図鑑の中で、幸福な死をとげた稀有な人間ベスト10の中の一人にあげているのがこの石田吉蔵だ。

昭和11年2月。割烹料亭吉田屋の主人であった石田は、その月のはじめから雇った女中・お加代と密通した。しかし二人の関係は石田の妻の知られるところとなり、二人は駆け落ちする。
行為の最中、石田は加代に首を絞めてほしいと言い出しお加代もふざけ半分それに応じた。どうやら石田はM気質だったらしい。

5月18日のことである。その日も石田は首を絞められていた。首を強く絞められすぎた石田の顔は鬱血している。お加代は石田が良く眠れるよう「カルモチン」を薬局で購入し石田に飲ませ、眠っている間に腰紐で死ぬまで絞めた。

『石田吉蔵は最後まで、絞められるのも例の遊びだと思っていたかも知れない。しかしまた、ほんとうに殺されてもいいと思っていたかもしれない。いずれにせよ、おそらく死の恐怖も苦悶もない、極限までの燃焼と消耗で、異次元の忘我と恍惚の中に、彼は息をひことったのであろう』
と山田風太郎は語る。

が、事件はこれで終わらなかった。
お加代は石田が死んだあと彼の性器を切断したのである。そして死体の太腿とシーツに「定、石田の吉二人キリ」と刻んだ。そして彼女は切断した石田の性器を逮捕されるまでの3日間持ち歩いた。

そう。御察しの通り石田の密通相手、お加代の本名は「阿部定」という。

人間臨終図鑑・中

人間臨終図巻 中 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

山田 風太郎 KADOKAWA/角川書店 2014-01-25
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中巻では56歳から72歳で死んだ人物総勢307名を収録。
相変わらずの山田節はこちらでも健在だ。ここでも気になった人物を幾人か見てみよう。

〈玄奘三蔵 62歳で死去〉
貞観3年、インドの地へ仏教の原典を求めて長安を出発した青年僧がいた。玄奘三蔵、所謂三蔵法師である。彼はシルクロードを通り、翌年の冬にインドへと到着。以後12年間インドの地で巡礼と修行の日々を過ごす。貞観15年ついに帰国の途へつき4年の年月を費やして長安へと帰国した。この冒険が後の『西遊記』の元ネタとなっている。その後、インドから持ち帰った仏典の翻訳に生涯をついやした。

話題がそれるが西遊記といえば誰を思い浮かべるだろうか?
そう、やっぱり沙悟浄ですよね!
そんな沙悟浄は首から9つの髑髏を下げているのだが、これは誰の髑髏だか御存じだろうか?
実はこの髑髏、すべて三蔵法師の前世の髑髏なのである。三蔵法師は悟空たちと出会う前に9回生まれかわりいずれも天竺を目指すのだが、その9回すべてで流沙河で立ち往生し沙悟浄に喰われていたのである。10回目のトライでようやく難所を突破できたのである。日本では河童の妖怪として描かれることが多いが仙人、妖仙である。

〈江戸川乱歩 71歳で死去〉
晩年の乱歩はパーキンソン病と闘いながら、家族に口述筆記をさせるなどして評論・創作活動を行っていた。その後次第に病状が悪化、昭和40年7月30日に死去した。
どうやら著者・山田風太郎は名簿による電話の順番が「ヤ行」のため、臨終には間に合わなかったそうである。

その翌年、大下宇陀児が死に、2年おいて木々高太郎が死んだので「推理作家は五十音順に死んでいく」というブラックユーモアが流行ったと山田風太郎は語る。

「ヤ行の山田風太郎はひとまずほっとして、このことを横溝正史に話したところ、横溝は『それならぼくは風ちゃんよりもまだあとだ』」と語ったらしい。横溝の方が一枚上手か。

人間臨終図鑑・下

人間臨終図巻 下 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

山田 風太郎 KADOKAWA/角川書店 2014-01-25
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最終巻である下巻には73歳から100代で死んだ人物総勢292名収録。
こちらで紹介する人物はもうこの人しかいない。
〈武者小路実篤 91歳で死去〉
武者小路実篤は「友情」「お目出たき人」などで知られる白樺派の作家だ。貴族院勅選議員でもある。

そんな武者小路実篤89歳のとき「うえの」7月号にゴッホの自画像について次のようなことを書いた。
『彼はその画をかいた時、もう半分気がへんになっていたろうと思う程神経質な顔になっていたように神経質な顔をして、この顔を見ればもう生きていられないような、神経質な顔をしていた。僕はこれでは生きていられないと思った。実に神経質な顔をしていて、もう生きていられない程神経質な顔をしていた

よほどゴッホの自画像がお気に召さなかったと見える

また翌年、90歳の武者小路は同じく「うえの」5月号に次のような文章を書いた。
『児島が、電車で死をとげた事を知った時も、僕は気にしながら、つい失礼してしまった。児島にあえば笑ってすませると思ったが、失礼して、今日まですごして来たわけだ。もちろん逢えば笑ってすませることだろうと思う。児島とあえば笑ってすませるのかも知らないが、児島の事を思うとつい笑ってすまない顔をしてしまうかも知れない。児島は逢えば笑ってすませる所と思うが』

この児島氏が誰かは私は調べていないが余程失礼したことを気に病んでいたのだろうか?

またこんなことも書いている。
『僕は人間に生れ、いろいろの生き方をしたが、皆いろいろの生き方をし、皆てんでんにこの世を生きたものだ。自分がこの世に生きたことは、人によって実にいろいろだが、人間には実にいい人、面白い人、面白くない人がいる。人間にはいろいろの人がいる。その内には実にいい人がいる。立派に生きた人、立派に生きられない人もいた。しかし人間は立派に生きた人もいるが、中々生きられない人もいた。人間は皆、立派に生きられるだけ生きたいものと思う。この世には立派に生きた人、立派に生きられなかった人がいる。立派に生きてもらいたい。皆立派に生きて、この世に立派に生きられる人は、立派に生きられるだけ生きてもらいたく思う。皆、人間らしく立派に生きてもらいたい

ここで山田風太郎が一言「脳髄解体」。
「これでは1回転ごとに針がもとにもどるレコード化した観がある」ともここで山田風太郎は述べている。この歳で文章を書けることも凄いことだろうと思うが、しかし山田風太郎が言う通り壊れたレコードのような感じを受けてしまう。

オススメ度

オススメ度★★★★★
面白さ★★★☆☆
不気味な印象を受けるかもしれないが、真っ当な本である。雑学を増やす、もしくは他人の死から今の自分を見つめ直したい人にお勧めの一冊だ。
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