この本読んどく?

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タグ:小説

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心の闇、というものは中々消えるものではない。
それを心因として「トラウマ」が生まれることもあるようだ。それはしばしば私たちに悪夢を見せる。

そんな暗い雰囲気の小説を得意とする作家に道尾秀介氏がいる。
今回は今年の一月新潮社から文庫化された「貘の檻」を見てみようと思う。




目次

  1. 人間を描く・道尾秀介
  2. 「貘の檻」を読む!
  3. オススメ度

人間を描く・道尾秀介

道尾氏と言えば、2005年に発刊され賛否両論で話題となった「向日葵の咲かない夏」や月9ドラマ原作「月の恋人」、2012年に映画化された「カラスの親指」が有名だろう。
ミステリーランキングにも毎年のように名を連ね、2011年には「月と蟹」で直木賞を獲得した作家でもある。

さてそんな道尾しであるが、「背の眼」で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞してデビューに至る。このデビュー作は今のスタイルとは全く違い、良い意味で大衆小説として面白く読める。なので最近の小説や、暗い雰囲気の物しか読んだことがないファンは驚くに違いない。この「真備シリーズ」は所謂「ミステリー」をやっているのである。

いやいや、ミステリー作家なのだから当たり前でしょう?と思われるかもしれないがそうではない。ミステリーにも様々な種類が存在しているが、このシリーズはそれこそ「犯人当て」に主眼が置かれているように思われる。

犯人当てじゃないミステリーなんてあるのか、と思われるかもしれないがミステリーという奴はそんなに懐の狭い奴ではないのである。

謎が提示され、その謎が解決される。
これで一応はミステリーの体裁は保っていることになる。「何故今朝私の目ざましが鳴らなかったのか」とか「机の上から消しゴムが消えたのはなぜか」とか「この手紙は誰が書いたのか」とか、どんなにくだらない謎であっても提示され解決されればそれで良いと言える(但し、その謎を読者が面白いと思ってくれるかはまた別問題だが)

その「謎」を書くにあたって、「殺人→犯人当て」という流れが一番書きやすく、刺激的で、読者を楽しませることができるであろうために多くの作家がチョイスしているにすぎないのである。

では今の道尾しはどうだろうか?
道尾氏が書いている小説の多くは間違いなく「ミステリー」だが、主眼は「犯人当て」ではない。つまり「真犯人がすぐにわかった=つまらない」という批評は的外れだということになる。
道尾氏はミステリーを「人間を描くために最適な道具である」と発言したことがあったはずである。氏が表現したい「人間の醜さ」や「争い」、そして「人間とはちっぽけな、無力な生き物にすぎない」というドロドロしたものを描くために「ミステリー」を使っているにすぎないのだ。

「貘の檻」を読む!

それを踏まえた上で「貘の檻」を読んでみよう。
「向日葵の咲かない夏」や「龍神の雨」にみられるような頽廃的で陰惨な雰囲気。文章から立ち上る黒い靄のようなものが見えやしないだろうか。確かに読んでいて嫌な気分にもなる。しかしそれはこの小説を通して現実世界の自分や、周りの人間を見ているからではないだろうか?

非現実の世界を味わう、体験するために小説を読みながら、道尾秀介という作家は我々の前にこれでもかと人間のイヤな部分を見せつける。

帯びに騙されてはいけない。この小説にあるのは驚愕のトリックでもなければ驚きのどんでん返しでもない。ただただ人間のイヤな部分が横たわっているだけである。

ただ一つ。道尾氏の小説は結構な確率で不幸になって終わり、その後も苦労が絶えないであろうことが予想されるものが多いが、この「貘の檻」に関しては微かな希望が見えている気がするのだ。確かにありがちな、二時間ドラマのような陳腐な終わり方かもしれない。しかしそこには救いがある気がするのだ。

そしてこの小説は辰男が過去から脱却し、漸く自分の人生を歩み始めることが出来るであろうことを予感させる、辰男の成長物語であると同時に、俊也の成長物語でもある。多感な時期の少年の心情の移り変わりにも注目したい。


オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
夢の解釈や、主人公が聞く音など解明されない謎もあるが、それをどう捉えるかで面白さがかわる小説ではないだろうか?
貘の檻 (新潮文庫)

道尾 秀介 新潮社 2016-12-23
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大阪万博から数十年経った今でも尚多くの人に愛されている「太陽の塔」

そんな「太陽の塔」に魅せられた女性が、森見氏デビュー作の「太陽の塔」に登場する。
今回はそんな「太陽の塔」に魅せられた女性とその女性を研究する男の物語を見てみようと思う。


目次

  1. 森見氏の過去記事はこちら
  2. 「太陽の塔」を読む
  3. 森見リンク・小ネタ
  4. オススメ度

森見氏の過去記事はこちら

夜は短し歩けよ乙女
2006年に刊行され、今年アニメ映画化もした「夜は短し歩けよ乙女」怪しげな人物や団体に翻弄される二人の運命や如何に?

ぐるぐる問答
森見氏初の対談集。様々な人物との対談を収録。モリミスト必見・必携。

「太陽の塔」を読む

「太陽の塔」は森見氏のデビュー作。2003年の「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞し、その後山本周五郎賞を受賞、直木賞ノミネートに至った。

さてこの「太陽の塔」だが、後の森見氏の行く末を決定付けているかのようである。この太陽の塔の時点ですでに後につづく「腐れ大学生物」が出来上っている。デビュー作ながら「森見節」満載なのだ。

そんな太陽の塔なのだが、実はこの小説はヤケクソで書いたものだったらしい。それまではいたって普通の小説を書いて応募したいたのだが中々結果が出ない。そこで自身が大学時代サークルのノートに書いていたような小説をダメ元で送ったそうである。その結果「太陽の塔」でデビューするのだから何が役に立つか分からないものである。それが小説を書く上での面白い事なのかもしれない。

「森見節」満載のこの小説。もちろん主人公は「私」こと「腐れ大学生」である。しかも「休学中の五回生」ときた(桃色のキャンパスライフを夢見て日々奔走する新大学生は多いと思うが、意外にも五回生は多い。シビアな所だと卒論提出1分遅れて留年というところもある。五回生になるとどうなるか。それは呼び名が「長」とか「ボス」になる。あまり嬉しくはない)
この休学中の五回生というだけでなんだか「私」からは胡散臭さがにじみ出ているようである。しかも登場人物は「私」と同等かそれ以上に個性的な人物ばかりなのだ。そんな人物達が様々な騒動を巻き起こしていく。

そんな「私」が大学を休学してまでしていることは何か。それは自分を振った女性「水尾さん」を研究することである。その内容はというと、『研究内容は多岐に渡り、そのどれもが緻密な観察奔放な思索、および華麗な文章で記されており、文学的価値も高い』のだ、とのこと。しかも四百字詰め原稿用紙に換算して240枚。およそ9万6000字である。これを見ても分かる通り「私」がしていることは完全に研究という名のストーカー行為なのである。
しかしこれだけでは森見氏にここまで多くの女性ファンは出来なかったであろう。これで終わったら出来の悪いミステリーか気持ちの悪い男の話になってしまう。が、そうならなかったのはおそらくこの文体と、もう一人のストーカー「遠藤」との不毛な戦いがあるからだろう。

また「私」は「水尾さん」の研究をしていると言いながらも我々に前にはほとんど水尾さんは姿を現さない。情報が少なすぎるため実在するのかも怪しい「水尾さん」。植村嬢は登場場面が少ないながらもその存在感をしっかり発揮しているのに対して「水尾さん」は実在感が乏しく、透明のようである。その分なんだか浮いて見えるとともにミステリアスにも見えてくる。

さらにこの小説の登場人物はほとんどが男だ。しかもどこか哀しい雰囲気をそれぞれが纏っている。森見氏は我々読者にこれでもかとそんな哀しげな男達を投げつけてくるが、そんな男たちはどこか可愛らしく、憎むことができない。ここも女性に人気の秘密だろうか?

登場人物がハチャメチャなことをしながらもしっかりと青春小説となっているところもまた面白い。いや、ハチャメチャなことができるのは青春時代だけなのかもしれない。

そしてやはり「文字遊び」が面白い。「京大と絶縁状態」とか「右の拳をやや固めに握った」とか。この「やや固め」というところに「私」の特徴というかその人らしさが垣間見えている気がするのだ。圧巻は最後の「ええじゃないか騒動」だ。怒涛の「ええじゃないか」が登場人物と読者を襲う。「ええじゃないか」に押しつぶされそうになりながらも、やはりページをめくる手は止まらない。

この森見氏デビュー作の「太陽の塔」。これは森見氏全部詰という感じがするのは私だけだろうか。書きたいことはここに全部書いた。あとはここから少しづつ取り出して、それをまた妄想により拡大し小説として書いているのではないだろうか。とにかく森見ファンには贅沢な本である。

森見リンク・小ネタ

森見氏の作品に登場する人物や団体は他の小説にも登場することが多い。
・高藪智尚→「宵山万華鏡」に登場。

・ゴキブリキューブ→アニメ版「四畳半神話体系」に登場。麻薬的な輝きを放ち表面は常にざわついている。

・まなみ号→主人公の愛車まなみ号。名前の由来はもちろん「本上まなみ」さん。対談を行っているが緊張しすぎてほとんど話せなかったそう。

・猫ラーメン→四畳半神話体系にも登場。じつはこの屋台、モデルが存在しているようだ。時折出町柳に現れるらしく味は絶品とのこと。

・「砂漠の俺作戦」について
これはおそらく関西で有名な都市伝説の一つを元ネタにした小話と思われる。
その元ネタは梅田のHEPの観覧車に乗ると二人は別れるというもの。これは結構有名らしく、私も数人の知人から話を聞いたことがある。小説内では飾磨がHEPの観覧車がきっかけで彼女と別れている。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
森見氏入門には持って来いの本書。「夜行」や「狸」から入った人も遡って読んでみてはいかがだろうか?
太陽の塔 (新潮文庫)

森見 登美彦 新潮社 2006-06-01
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昨今の戦国熱はとどまるところをしらない。一昔前まではマイナーだった武将も今ではゲームや大河の影響で一躍人気者となっている。

しかしながら有名な武将の影に隠れ、自身の手柄が他の武将のもののように語られていたり、存在さえ知られていない武将もまた多くいるのも事実だ。

今日は真田信繁に知名度も人気も押されがちな大坂の陣の功労者、毛利勝永を主人公とした小説を読んでみようと思う。

目次

  1. 作者の仁木英之ってどんな人?
  2. 毛利勝永とは?
  3. 「真田を云て、毛利を云わず」を読む
  4. オススメ度

作者の仁木英之ってどんな人?

仁木英之氏は2006年に「夕陽の梨」で第12回学研歴史群像大賞最優秀賞を受賞、さらに同年8月に「僕僕先生」で第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞を受賞し、デビューした作家だ。

デビュー作であり代表作でもある「僕僕先生」はシリーズ化されており、これまでに9冊刊行されている。ちなみにこちらは太平広記をアレンジしたファンタジー小説となっている。

毛利勝永とは?

惜しまれつつも幕を閉じた真田丸から半年が過ぎようとしている。
その真田丸の中で毛利勝永を演じたのは岡本健一さんだった。が、牢人衆ということと信繁が目立ち過ぎ(主役だから当然)ということもあってやはり存在感が薄かった気がしてならない。

実際の勝永はどうだったか?
勝永は父吉成と同じく豊臣家臣として仕えた。関ヶ原では安国寺恵瓊の指揮下におかれたこともあり思うような活躍はできなかった。

その後領地没収となり一時土佐山内家へと身を寄せる。そんな中豊臣秀頼から招きを受け、土佐からの脱出を図る。ちなみに脱出の際、衆道関係であった山内忠義との関係を留守居役の山内康豊に暴露。混乱する康豊に「忠義が大坂に出陣したのだから私が助けに行くのは当然だ!だから大阪(包囲側=徳川方)に向かわせてくれ!」と頼んだようである。しかしながら皆さん御存じの通り勝永が向かったのは豊臣方である。これには忠義も激怒したそうで次男鶴千代・妻・娘は城内に軟禁されたらしい。
とっても簡単に、しかも誤解を招く可能性を覚悟の上で現代風に分かりやすく説明すると「彼女の父親に彼女との結婚届を見せ(しかも判も押してある)、彼女の元へ駆けつけると嘘を言い浮気相手の元へと駆けつける」ようなものである。これは忠義が怒るのも最もである。しかも領地没収後1千石もらって手厚く遇されていたというのに。ただ豊臣から受けた恩のほうが大きいということだろうけども、もっと他の脱出方法は無かったものかと気にはなる。

さて大坂の陣である。
豊臣譜代家臣ということで諸将の信望を得て「大坂城の五人衆」と称された。だが冬の陣では活躍できなかったようである。
だが、夏の陣である。夏の陣では道明寺で敗退した後藤基次の敗残兵を収容し大坂城へと撤退。天王寺口の戦いでは兵4000を率いて四天王寺南門前に布陣。本多忠朝から攻撃を受けると、これに反撃。忠朝・小笠原秀政・忠脩親子を討ち取ると、浅野長重・秋田実季(木像の話が有名な人)・榊原康勝・安藤直次・六郷政乗・仙石忠政・諏訪忠恒・松下重綱・酒井家次・本多忠純などの部隊を撃破。遂には家康本陣に突入するという活躍を見せた。しかし真田隊が壊滅すると戦線が崩壊。四方から攻撃を受けるも討ち取られる事無く城内へ撤退。秀頼の介錯を行った後、自身も自害したとされている。

ドラマでは荒々しい人のように描かれていたが、勝永は旧臣・浪人分け隔てなく、組下の者にもやさしい人物であったそうだ。

「真田を云て、毛利を云わず」を読む

この「真田を云て、毛利を云わず」は星海社から2013年に出たあと、おそらく大河にあわせてきたのだろうと思われるが、2016年6月に講談社から文庫化されている。その際元のタイトルを副題とし、タイトルを「真田を云て、毛利を云わず」に変更した。

さて戦国物である。昨今の戦国ブームを鑑みれば誰しも好きな武将一人や二人はいるであろう。私も戦国時代は好きだが、それは史実と史実の間の不明な点があるからである。解明されていない謎や不明瞭な部分に魅力があるのだ。なので、小説内でも多少の疑問はスルーできるのだが、行き過ぎるとやはり気になってくる。史実物であるならば、自身の妄想や想像は最小限に抑え、別のところで魅力を出すべきであろう。この小説はその悪い部分が出てしまっている気がするのだ。

この本を読んで気になったのは参考資料をどこから引張ってきたのか?である。単に私が無知なだけならば参考資料を読んで知識を深めたいという理由もある。が、やはり納得できない。
①当時の日本に甲冑を貫通し尚且つ拳大の大きさの穴が開くような火縄があったのかどうか?
→戦闘シーンを華やかという理由ならばもっと別の方法があったのではないか?

②竜造寺隆信の渾名の問題。
→どう考えても「肥後の虎」はおかしい。あえて「肥前の熊」を使わなかったのはなぜか?

③仙石秀久の問題
→長宗我部ファンや十河ファンに蛇蝎のごとく嫌われているのはわかる。が、あまりにも下げ過ぎるのはNGだろう。作者個人の心証が入ってやしないか。仙石がクズすぎるので全部責任を押しつけた感じの書き方は好きになれない。さらに、あいつは潮の事、船の事、何もわかっていないという場面があるが本当にそうだろうか?淡路島の大名が船や潮のことを全く知らないということはありえるだろうか。しかも淡路受領後は淡路水軍・小西行長・石井与次兵衛・梶原弥助ら複数の水軍を統括している。仮に何も出来ないただの暗愚を重要な場所に秀吉が置くだろうか。

④島津家久混同問題
→どうも読んでいると島津家久を作者が混同しているように思える。何も前情報なしに読むと上巻の「家久」と下巻の「家久」が同じ人物に思えてならない。どこかに注意書きがあってもいいものだがそれもない。それは作者自身が二人の「島津家久」を混同していたからではないだろうか。この時代の島津家には近い年代に二人の「家久」がいるのである。
一人は「島津四兄弟」の一人で軍法戦術妙を得たりと言われた「島津家久」。もう一人は島津義弘の子で初代薩摩藩主である「島津忠恒」改め「島津家久」。しかしこちらが「家久」と名乗ったのは関ヶ原後であり、かつ四兄弟の方の家久は1587年に没していることからもズレが生じている。

等々、所々気になるところはあるのだが、気にせず読めればそれなりに面白い本である。おそらく作者は西軍派なので、西軍ファンの方は概ね好意的に読めるだろう。
ちなみに「真田日本一の兵」と言ったのは先ほど出てきた「島津忠恒」である。が、この人は大坂の陣には行っていない。

オススメ度

オススメ度★★☆☆☆
面白さ★★☆☆☆
やはり所々腑に落ちない点があったのが悔やまれる。しかし一般的には知られていない武将の活躍する小説が増えることで知名度が上がるのは良いことだ。ちなみに毛利勝永だが、天下創生から変化がなかった顔グラがここに来てイケメンに変化している。能力値も大幅アップである。大河効果だろうか。
真田を云て、毛利を云わず(上) 大坂将星伝 (講談社文庫)

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真田を云て、毛利を云わず(下) 大坂将星伝 (講談社文庫)

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週刊文春によって実施された「東西ミステリーベスト100」という、推理作家や愛好家らが選んだランキングがある。

これは過去に二度行われている。1985年版・2012年版だ。

そして過去のランキングでどちらも1位に選出されたのが横溝正史の獄門島である。日本国内におけるミステリーの頂点といっても過言ではない本書を今日は見て行こうと思う。

目次

  1. 横溝正史 ~正史に駄作なし~
  2. 金田一耕助という男
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. あのカバーの人! セットで知りたい「杉本一文」
  6. オススメ度

横溝正史 ~正史に駄作なし~

横溝正史は1921年「恐ろしき四月馬鹿」でデビューを果たすと、新青年や文芸倶楽部、探偵小説の編集長をやりながら、兼業作家として活動。1932年に専業作家となると、1981年に没するまでに長短編あわせて100以上の作品を残している。有名どころを除いては、現在ほとんど紙媒体では発売されていないようだがkindleストアでよめるようだ。

横溝正史の凄いところはその作品数にもかかわらず、ほとんどの作品が一定以上の水準をキープしているところだろう。ほぼ外れが無いと言っても決して過言ではない。
初期の名作である「真珠郎」「蔵の中」「鬼火」
戦後始まる「金田一シリーズ」の「本陣殺人事件」「八つ墓村」「犬神家の一族」
そして晩年の「仮面舞踏会」「悪霊島」「病院坂」
どの作品も素晴らしすぎてあげればきりがないのだが、今こうして見てみても、やはり序盤・中盤・終盤全く隙が感じられない。

さらに横溝も「ストレプトマイシン」によって命が救われたであろう人間の一人である。
1934年に肺結核が悪化。「風立ちぬ」の舞台でもお馴染み「富士見高原病院」に横溝も療養のために入っている。さらに悪いことに当局の取り締まりが強化され、探偵小説自体の発表を制限される。この頃既に専業作家となっていた横溝は身体的にも経済的にも困窮。一時は死を覚悟したという。

しかし終戦後、ストレプトマイシンが値崩れを起こす。そのことで横溝は快方に向かうのである。
そして横溝は「本格探偵小説の鬼」となり数々の名作を世に送り出すことになる。

ちなみに「蔵の中」「鬼火」であるが、この二つは「蔵の中」というタイトルの文庫内に同時に収録されている(角川 緑 304 -21-)

金田一耕助という男

ではそんな横溝が生み出した名探偵・金田一耕助を見てみようと思う。
金田一耕助は日本三大名探偵の一人だ。作中でも多く言われている通り、どこか憎めない、そんな魅力がある男である。2012年の朝日新聞「心に残る名探偵」ではコロンボ、ホームズにつぐ三位に入っていたり(明智は4位、神津はランク外)と今でも多くの人に愛されている。

よくネタにされるのは耕助の「殺人防御率」の高さであるが、あんなものは飾りである。これは選んだ作品が「たまたま」犠牲者が多かったと言うだけで、相対的に見れば1.5と非常に低い数字となる。決して無能、メイ探偵などではないのだ。そして耕助氏も探偵道具(小型のナイフ・虫眼鏡・薄い手袋など)を所持しているがあまり活躍の機会はない。稀に変装もする。

後期になってくると活動拠点を緑ヶ丘荘に移すが、そこでは耕助氏の朝食の場面が描かれていたりとなかなか面白い。

そして最大の驚きは耕助がアメリカに留学していたことだ。しかもそこで麻薬中毒になり厄介者扱いをされていたということである。なかなかに破天荒な人生を送っているようだ。

ちなみに「耕助をじっちゃんと呼ぶ彼」との関係は少なくとも金田一シリーズでは確認できていない。というか耕助は生涯独身だったというのが通説。一応二人だけ明確に好意を抱いていた相手がいるが、一人には振られ、もう一人は自殺という結末を迎える。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

さて本作「獄門島」は1947年から48年にかけて宝石で連載されたものだ。2016年までに獄門島を原作としたドラマが五本、映画が二本撮影されている。

この獄門島は見立て殺人・旧家の対立など、好きなひとにはたまらないシチュエーションが盛沢山だ。それと初期の金田一物ほぼ全てに共通することだが、斜陽族や引き上げ軍人の問題など戦後の日本の様子が描かれていることもポイントである。

特に本作「獄門島」はその「戦後日本」というものが物語上非常に重要になっている。戦後の激動の時代に翻弄された日本人とでも言おうか。いくつもの偶然が重なってこの結末へと至っている。個人的に思うことは本作は被害者しかおらず、犯人はいないのではないかということである。

実際読んでみて~ネタバレ有り~

これからはネタバレとなる。
まず悲しいことに獄門島の地を耕助が訪れていなければ、この事件は起きなかった可能性がある。千万太の死を伝えたのは耕助である。その時点で事件の発生が確定する。復員詐欺の犯人が捕まることで和尚たちも騙されていたことが判明するのだが、そのタイミングまで千万太の死を知らなければ今回の事件は起きていない。千万太が耕助を知っていたこと、千万太が死に耕助が生き残ったこと、同時期に復員詐欺が起き一は生きていると思いこんだこと、耕助の手により千万太の死が素早く伝達されたこと、そして鐘が残っていたこと(これは直接は関係ないが)これらが合わさり、殺人事件が発生するに至った。耕助は運命に敗北したと言ってもよいだろう。

私は所謂名作・傑作は、序盤、というか読みはじめてすぐに伏線が張り巡らされており、それをきちんと回収しているという共通点があるように思う。
獄門島も例外ではない。
・一の復員(11P)→同じ部隊にいた人物から聞いた(復員詐欺という最後のどんでん返しの伏線)
・千万太が死んだと聞いた時の幸庵・荒木の表情の描写(28P)→三人娘を殺さなければならないという恐怖。
など、伏線とは思わせないようにうまく紛れ込ませている。さらに随所に与三松・鵜飼へのミスリードがあり、読み応えがある仕上がりだ。また、ただの人物描写・説明と思われるものが後に伏線として効果を発揮したりと(幸庵さんは酒癖が悪い→寝ていてもおかしくはない)さすがといわざるをえない。

ちなみに今作の犯人は横溝正史の奥さんが指摘した犯人を元に練り直したものである。
そして本作に登場する「鬼頭早苗」さんこそ耕助が惚れた女性の一人である。残念ながら耕助は振られている。(本鬼頭を継げるのは早苗さんしかいなくなってしまった。そして早苗さんは本鬼頭の再生を決意する。強い女性である)

あのカバーの人! セットで知りたい「杉本一文」

杉本一文氏は金田一シリーズのカバーを手掛けたイラストレーターである。
2001年 第四回グリビッツェ国際蔵書コンペティション(ポーランド)審査員特別賞
2004年 台湾日本蔵書票交流文化展 優選賞
2005年 第四回国際小版画・蔵書票トリエンナーレ(チェコ) フランツ・フォン・バイロス賞
など、様々な賞を受賞している。

数年前に横溝復刊フェアがあった際、杉本氏のカバーも復刻した。今手元に通常カバーと杉本氏カバーがあるのだが、やはり今のカバーは味気ない。金田一シリーズはやはり杉本氏×横溝で真の完成を見と考える。あなたのお気に入りのカバーはなんだろうか? 私はやはり「病院坂」。あれは素晴らしい。写真がセピア色になっているというところが非常にポイントが高い。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★★☆
合計★八つ
やはり安定して面白い。金田一読んでいないのであれば取りあえずこれ読んどけみたいなところがある。
獄門島 (角川文庫)

横溝 正史 角川書店(角川グループパブリッシング) 1971-03-30
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「法医昆虫学」と聞いてどんなことを想像するだろうか?

普段、何事にも巻き込まれずに生活していればまず聞くことはない言葉だろう。日本国内では特にそうだ。

今日紹介する本はそんな「法医昆虫学者」が主人公の本である。今私の手元にある文庫の帯には「『聴こえざる声』を聴く女」と書いてある。なんだか危険な香りがプンプンするではないか。いったいどんな小説なのだろうか?

目次

  1. 「川瀬七緒」ってどんな人?
  2. 「法医昆虫学」って?
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレあり~
  5. みんなに伝えたい! 「赤堀涼子」の魅力とヤバさ!
  6. オススメ度


「川瀬七緒」ってどんな人?

川瀬氏は2010年に「静寂のモラトリアム」が「鮎川哲也賞」の最終候補、「ヘヴン・ノウズ」が江戸川乱歩賞の最終候補となると、翌2011年「よろずのことに気をつけよ」で江戸川乱歩賞を受賞しデビューした女性作家だ。さらにデザイナーでもあり、デザインの仕事と執筆活動を並行して行っている。

第一作目の「よろずのことに気をつけよ」は川瀬氏が興味を持っているであろう「民俗学」の色が濃い。しかし今作はそれを一新。今作から始まる「法医昆虫学シリーズ」は川瀬氏の代表作と言えるだろう。

「法医昆虫学」って?

法医昆虫学とは、法医学・科学捜査の一部門だ。
人が殺され遺棄された場合、当然様々な虫が集まることになる。代表的な昆虫は「蠅」になるのだが、集まった昆虫たちがどのような種類の虫たちか、またどの部位を食べているか、産卵して孵化しているのであればその蛆は何齢なのか。遺棄された周囲で生息可能なのか。そのような情報を集め組み立てることで死後の経過時間や死因を推定しよう、という学問である。

アメリカ・中国では法医昆虫学が実用的なレベルまで達し、実際裁判でも証拠として扱われることがあるそうだ。

日本はただでさえ法医学者が少ないうえに、「蠅」の研究者も減少している。そのような事情から圧倒的にデータが少ないそうだ。こればかりは海外のデータを使っても意味が全くないのでどうしようもない。仮に研究が進んだとしても、日本で実際に捜査に導入するにはそこからさらに時間を要するだろう。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

さて、実際に小説を見てみよう。
この文庫の裏のあらすじには、「『虫の声』を聴く彼女は、いったい何を見抜くのか!?」と記されている。この部分だけ読むと「虫の声が聞こえるという特殊能力を持った女性が虫たちと共に様々な難事件を解決する!」というなんともメルヘンチックなお話しに見えなくもない。ヘタしたらシリーズ途中でバトル物か何かに変わってしまいそうである。

しかし、安心して欲しい。そんなことは全くない。れっきとしたミステリー小説である。
主人公である赤堀涼子が「法医昆虫学」と大吉君を駆使し、虫の声を聴けるように努力するのである。
そう。「死体は語る」でおなじみの「上野先生」の境地に立とうと言うのである。決して彼女の耳元で虫たちが犯人の名を告げるわけではないので安心して欲しい。

そしてこの本の魅力の一つとして個性的な登場人物達をあげることができるだろう。虫に関わる側の人間は揃っておかしな奴らばかりなのだが(その筆頭が赤堀涼子)、彼女の後輩である大吉君もなかなかに癖のある人物だ。そんな人物ばかりだと当然物語は暴走し、破綻してしまうことになるだろう。そこで彼らの抑止役として岩楯警部補が登場する。所謂常識人枠である。が、そんな岩楯警部補もただの堅物警官でない。もちろんミステリーであるからには謎があり、その謎も魅力的なのだが、彼らの掛け合いにもぜひ注目して読んでみてほしい。

最後にひとつ注意する点を挙げておく。タイトルに偽りはない。よって昆虫に関する描写(特に蠅・蛆)がわんさか出てくる。私はそれほど虫は嫌いではない(むしろ好き)ので薀蓄も豊富な本書は楽しく読めたが、苦手・嫌いという人はそれなりの覚悟が必要である。うかつに読むとヴォエー!となりかねない。(というか苦手な人がこの本を読まないか……)

実際読んでみて~ネタバレあり~

ではここからはネタばれ・結末気にせず書くので未読の方はスルーしていただきたい。
読んだ感想はやはりテンポが良いということ。鮎川哲也賞は受賞こそしなかったものの最終まで残った実績というのは大きい。実力があることがわかる文章だ。特にデビュー二作目ということで重要視されることが多いが、一作目をしっかり踏み台にし、ステップアップしていることが読み比べるとわかる。おそらく川瀬氏的には民俗学系のものを書きたかったのだろうが、大きなモデルチェンジが功を成した。

作者はSのほうが良い、主人公をどんどん危機的状況に追い込むべきという話があるが、本書はそれを徹底している。ただ主人公の性格付けによっては、そこでマイナスの印象を与えかねないが(危機に追い込まれるのは主人公が無能だからか? それとも無茶な性格だからだろうか。無能な主人公というのはほとんど歓迎されることはないだろう。さらに主人公の無茶な行動がトリガーになっている場合、無茶をするような性格でない人間が無茶をするのであればそこにはそれ相応の理由や動機が必要で、さらに理性がそれらを抑えることができないということも必要になってくる)主人公である「赤堀涼子」ならばやりかねないと読者も納得するような設定となっている。さらに主人公を強い女性に設定していることでヒットの条件も満たしているのでドラマ化したら受けるであろうと思われる。

だた一つ個人的に残念だったのは稲光少年の死である。この流れだと当然数年後、赤堀の元で法医昆虫学を学んでいるものだと思っていた。赤堀が稲光少年を虫によって少しずつ更生し、社会復帰させるものだと。しかし、赤堀の独断専行で結果死なせてしまう。物語的には赤堀の成長に繫がったのだが、もう少し救済が欲しかった。それともこれは作者による意思表示であろうか。うーん、Sですね!


みんなに伝えたい! 「赤堀涼子」の魅力とヤバさ!

そんなわけで最後に主人公・赤堀涼子さんのヤバさをお伝えして終わりにしようと思う。今作の中に登場する「ヤバい!」場面を抜き出してみた。
≪ここがヤバいよ!涼子さん!≫ 
「それは『ウジ茶』のはずだが」
「ああ、いけない。また飲んじゃうところだった」 (文庫版106P)
・この赤堀さんは何度かウジを茹でた湯を「うっかり」飲んでしまっているらしい……。

「刑事さん、ウジとかアオムシとか柔らかくてかわいい虫はね、それで生きていけるように究極進化してるんですよ」 (文庫版107P)
・蛆虫、芋虫可愛い?……可愛くない?究極進化ってなんだかデジモンみたいですね。

「当然だが、こんなに嬉しそうに、ウジの話をする女には会ったことがない」 (文庫版109P)
・ついつい本音が出てしまう岩楯警部補。ドン引きしてますね。

「じっくりと検分を続けていた赤堀は、何を思ったのか軍手を外して、遺体があった場所の油染みを指でこすった。そしておもむろにバンダナをずらし、舌を出して舐めようとしているではないか
(文庫版133P)
・今回私がいちばん衝撃を受けた問題のシーン。もう大爆笑ですよね。お前は妖怪か何かかと。無論実際そんなことをしたら感染症やらなんやらで大変ですので絶対やっては駄目です。

とまあ、赤堀涼子さんの問題行動とポジティブシンキングは至る所で確認できます。こんな女性主人公見たことない。でもどこか憎めない、そんな女性です。

オススメ度

おすすめ度★★★☆☆ 
面白さ★★★★☆
合計★七つ
本当はいろんな人におすすめしたいのですが、きっと万人受けはしないだろうと。ただ非常に面白い。ぜひ読んでみて欲しい。
法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

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