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週刊文春によって実施された「東西ミステリーベスト100」という、推理作家や愛好家らが選んだランキングがある。

これは過去に二度行われている。1985年版・2012年版だ。

そして過去のランキングでどちらも1位に選出されたのが横溝正史の獄門島である。日本国内におけるミステリーの頂点といっても過言ではない本書を今日は見て行こうと思う。

目次

  1. 横溝正史 ~正史に駄作なし~
  2. 金田一耕助という男
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. あのカバーの人! セットで知りたい「杉本一文」
  6. オススメ度

横溝正史 ~正史に駄作なし~

横溝正史は1921年「恐ろしき四月馬鹿」でデビューを果たすと、新青年や文芸倶楽部、探偵小説の編集長をやりながら、兼業作家として活動。1932年に専業作家となると、1981年に没するまでに長短編あわせて100以上の作品を残している。有名どころを除いては、現在ほとんど紙媒体では発売されていないようだがkindleストアでよめるようだ。

横溝正史の凄いところはその作品数にもかかわらず、ほとんどの作品が一定以上の水準をキープしているところだろう。ほぼ外れが無いと言っても決して過言ではない。
初期の名作である「真珠郎」「蔵の中」「鬼火」
戦後始まる「金田一シリーズ」の「本陣殺人事件」「八つ墓村」「犬神家の一族」
そして晩年の「仮面舞踏会」「悪霊島」「病院坂」
どの作品も素晴らしすぎてあげればきりがないのだが、今こうして見てみても、やはり序盤・中盤・終盤全く隙が感じられない。

さらに横溝も「ストレプトマイシン」によって命が救われたであろう人間の一人である。
1934年に肺結核が悪化。「風立ちぬ」の舞台でもお馴染み「富士見高原病院」に横溝も療養のために入っている。さらに悪いことに当局の取り締まりが強化され、探偵小説自体の発表を制限される。この頃既に専業作家となっていた横溝は身体的にも経済的にも困窮。一時は死を覚悟したという。

しかし終戦後、ストレプトマイシンが値崩れを起こす。そのことで横溝は快方に向かうのである。
そして横溝は「本格探偵小説の鬼」となり数々の名作を世に送り出すことになる。

ちなみに「蔵の中」「鬼火」であるが、この二つは「蔵の中」というタイトルの文庫内に同時に収録されている(角川 緑 304 -21-)

金田一耕助という男

ではそんな横溝が生み出した名探偵・金田一耕助を見てみようと思う。
金田一耕助は日本三大名探偵の一人だ。作中でも多く言われている通り、どこか憎めない、そんな魅力がある男である。2012年の朝日新聞「心に残る名探偵」ではコロンボ、ホームズにつぐ三位に入っていたり(明智は4位、神津はランク外)と今でも多くの人に愛されている。

よくネタにされるのは耕助の「殺人防御率」の高さであるが、あんなものは飾りである。これは選んだ作品が「たまたま」犠牲者が多かったと言うだけで、相対的に見れば1.5と非常に低い数字となる。決して無能、メイ探偵などではないのだ。そして耕助氏も探偵道具(小型のナイフ・虫眼鏡・薄い手袋など)を所持しているがあまり活躍の機会はない。稀に変装もする。

後期になってくると活動拠点を緑ヶ丘荘に移すが、そこでは耕助氏の朝食の場面が描かれていたりとなかなか面白い。

そして最大の驚きは耕助がアメリカに留学していたことだ。しかもそこで麻薬中毒になり厄介者扱いをされていたということである。なかなかに破天荒な人生を送っているようだ。

ちなみに「耕助をじっちゃんと呼ぶ彼」との関係は少なくとも金田一シリーズでは確認できていない。というか耕助は生涯独身だったというのが通説。一応二人だけ明確に好意を抱いていた相手がいるが、一人には振られ、もう一人は自殺という結末を迎える。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

さて本作「獄門島」は1947年から48年にかけて宝石で連載されたものだ。2016年までに獄門島を原作としたドラマが五本、映画が二本撮影されている。

この獄門島は見立て殺人・旧家の対立など、好きなひとにはたまらないシチュエーションが盛沢山だ。それと初期の金田一物ほぼ全てに共通することだが、斜陽族や引き上げ軍人の問題など戦後の日本の様子が描かれていることもポイントである。

特に本作「獄門島」はその「戦後日本」というものが物語上非常に重要になっている。戦後の激動の時代に翻弄された日本人とでも言おうか。いくつもの偶然が重なってこの結末へと至っている。個人的に思うことは本作は被害者しかおらず、犯人はいないのではないかということである。

実際読んでみて~ネタバレ有り~

これからはネタバレとなる。
まず悲しいことに獄門島の地を耕助が訪れていなければ、この事件は起きなかった可能性がある。千万太の死を伝えたのは耕助である。その時点で事件の発生が確定する。復員詐欺の犯人が捕まることで和尚たちも騙されていたことが判明するのだが、そのタイミングまで千万太の死を知らなければ今回の事件は起きていない。千万太が耕助を知っていたこと、千万太が死に耕助が生き残ったこと、同時期に復員詐欺が起き一は生きていると思いこんだこと、耕助の手により千万太の死が素早く伝達されたこと、そして鐘が残っていたこと(これは直接は関係ないが)これらが合わさり、殺人事件が発生するに至った。耕助は運命に敗北したと言ってもよいだろう。

私は所謂名作・傑作は、序盤、というか読みはじめてすぐに伏線が張り巡らされており、それをきちんと回収しているという共通点があるように思う。
獄門島も例外ではない。
・一の復員(11P)→同じ部隊にいた人物から聞いた(復員詐欺という最後のどんでん返しの伏線)
・千万太が死んだと聞いた時の幸庵・荒木の表情の描写(28P)→三人娘を殺さなければならないという恐怖。
など、伏線とは思わせないようにうまく紛れ込ませている。さらに随所に与三松・鵜飼へのミスリードがあり、読み応えがある仕上がりだ。また、ただの人物描写・説明と思われるものが後に伏線として効果を発揮したりと(幸庵さんは酒癖が悪い→寝ていてもおかしくはない)さすがといわざるをえない。

ちなみに今作の犯人は横溝正史の奥さんが指摘した犯人を元に練り直したものである。
そして本作に登場する「鬼頭早苗」さんこそ耕助が惚れた女性の一人である。残念ながら耕助は振られている。(本鬼頭を継げるのは早苗さんしかいなくなってしまった。そして早苗さんは本鬼頭の再生を決意する。強い女性である)

あのカバーの人! セットで知りたい「杉本一文」

杉本一文氏は金田一シリーズのカバーを手掛けたイラストレーターである。
2001年 第四回グリビッツェ国際蔵書コンペティション(ポーランド)審査員特別賞
2004年 台湾日本蔵書票交流文化展 優選賞
2005年 第四回国際小版画・蔵書票トリエンナーレ(チェコ) フランツ・フォン・バイロス賞
など、様々な賞を受賞している。

数年前に横溝復刊フェアがあった際、杉本氏のカバーも復刻した。今手元に通常カバーと杉本氏カバーがあるのだが、やはり今のカバーは味気ない。金田一シリーズはやはり杉本氏×横溝で真の完成を見と考える。あなたのお気に入りのカバーはなんだろうか? 私はやはり「病院坂」。あれは素晴らしい。写真がセピア色になっているというところが非常にポイントが高い。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★★☆
合計★八つ
やはり安定して面白い。金田一読んでいないのであれば取りあえずこれ読んどけみたいなところがある。
獄門島 (角川文庫)

横溝 正史 角川書店(角川グループパブリッシング) 1971-03-30
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by ヨメレバ

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