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純文学畑にいながらも推理小説を書いた作家は意外と多い。

中でも有名なものが坂口安吾の「不連続殺人事件」だろう。今日は破天荒な人生を送った安吾が書いたこの「不連続殺人事件」を読んでみようと思う。




目次

  1. 破天荒な人・坂口安吾
  2. 「不連続殺人事件」を読む
  3. オススメ度

破天荒な人・坂口安吾

坂口安吾といえば「白痴」や「堕落論」「桜の森の満開の下」などで知られる作家であるが、実は純文学だけでなく、歴史小説や紀行文、随筆、そして推理小説まで手掛けた多彩な作家である。そんな安吾についてまず見てみたい。

坂口安吾は太宰治・織田作之助・石川淳らとともに無頼派(新戯作派)と呼ばれた純文学畑の作家だ。「純文学」と聞くと性や暴力、そしてどことなく暗いイメージを想起しがちだが、それはその人が書く本すべてに言えるわけではない。その人となりが文章に滲み出ているものが多いとしても(当然そうでなくてはならないのだが)笑えるものは笑えるのだ。純文学が苦手で距離を取っていた、という人は例えばその人が書いた短い随筆から入るといいかもしれない。その好例が太宰の「畜犬談」だ。これは青空文庫ですぐに読むことができるのでぜひ読んでみて欲しい。

安吾はどうか。
先にも書いたように、安吾は多作で多彩な作家だ。それぞれの好みのジャンルに合わせて入っていくのが良いと思うが、ここはせっかくなので随筆をオススメする。安吾の随筆はとても面白い。普通の日常・体験談をただ描いているだけなのに、そこから溢れる親近感はなんだろう。

また安吾と言えば「ゴミにまみれた部屋と安吾」の写真が有名だが、あの部屋の写真はだまし取られたものである。二年間まったく掃除をしていなかった部屋とその部屋をなんとか取りたい、というだけの「机と布団と女」という短い話もある。

さらには戦争に行っても死なないための工夫や努力を書いた「わが戦争に対処せる工夫の数々」も面白いのだが、とりわけ戦後日本の復興を支えたともいわれる「ヒロポン」の体験記「反スタイルの記」が抜群に面白い。当時軍隊でも支給され、薬局でも普通に売っていたヒロポンは覚せい剤なのだがその効果が詳しく描かれている。安吾曰く「とにかく、きく」。

「不連続殺人事件」を読む

そして安吾は推理諸説にも一家言持っていた。
「探偵小説とは」ではクリスティーを天才と褒め称え、「探偵小説を截る」では探偵小説の幼稚さを嘆き、「刺青殺人事件を評す」では乱歩の批評に反論し、今の日本では横溝が一番と語る。

そんな安吾が書いた探偵小説、それが「不連続殺人事件」である。
これは安吾が書いた初めての長編推理小説で、探偵役の巨勢博士が人物の心理、つまり動機に着目しながら推理を展開するという筋の小説だ。この「不連続殺人事件」は先の高木彬光「刺青殺人事件」と第二回探偵作家クラブ賞(現・日本推理作家協会賞)を争い、受賞している。また、雑誌掲載時には「読者への挑戦」として犯人当てに懸賞金がかけられたことでも話題となった。

いざ読んでみると、どことなく横溝物と雰囲気やテンポが似ている。
事の発端は推理小説の王道。多数の人物が一箇所に集められ、そこで謎やトラブルが起こり、ついに殺人事件へと発展。そして探偵役の巨勢博士が解決のために立上るというものだ。

純文学畑の作家が人間のどこに着目して推理小説を書いたか、「不」連続殺人とはどういうことなのかを考えながら読むときっと面白いだろう。ちなみにこの小説は登場人物が多く、そしてそれぞれ複雑な関係で結ばれているため非常に整理しづらい。相関図や登場人物を書き出しながら読むことでスムーズになるかもしれない。

余談ではあるが、雑誌が廃刊となり未完となっていた「復員殺人事件」の後半部を死んだ安吾にかわり執筆したのが高木彬光である。これもまたなかなか面白い縁ではないだろうか?

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
セリフ回しにやや時代を感じるがそれでもオモシロイのが傑作たる由縁である。
不連続殺人事件 (角川文庫)

坂口 安吾 角川書店 2006-10-01
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