4月14日からTBSにて連続ドラマ化された「リバース」
放送元のTBS系列ではすでに「夜行観覧者」「Nのために」「往復書簡」がドラマ化されている。制作陣も変わっていないようすだ。これだけドラマ化されるのはおそらく視聴率がとれるのだろう。
今日はドラマ原作本「リバース」を見てみようと思う。ドラマは原作とは違った内容のようだが、どちらが好みか比べてみて欲しい。
目次
「湊かなえ」ってどんな人?
読書好きで「湊かなえ」を知らないという人はほとんどいないであろう。今や「イヤミスの女王」とまで言われる湊氏。「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。そして聖職者から続く連作集「告白」が2009年に「第6回本屋大賞」を受賞。翌年には松たか子主演で映画化(「どっかーん」というインパクトの強いセリフを未だ憶えている人もいるのではないだろうか?)書籍も300万部を超える大ヒットとなり、一気に人気作家へとのぼりつめた。
湊かなえ=イヤミスという図式とともに、「イヤミス」というジャンルを世に広めた人物でもある。
しかもメディア化されたのは告白だけではない。
映画は告白(2010年)に始まり、北のカナリアたち(2012年) 白雪姫殺人事件(2014年) 少女(2016年)など実に四作品
ドラマ化は境遇(2011年) 贖罪(2012年) 高校入試(2012年) 花の鎖(2013年) 夜行観覧者(2013年) Nのために(2014年) 望郷(2016年) 山女日記(2016年)
など見てわかる通りデビュー以降毎年ドラマ化、もしくは映画化されている。現在刊行されている書籍の半分以上が何らかの形でメディア化されていることになり、そのことからも湊作品の根強い人気と数字の取れ高が安定していることが読み取れる。
ただけっこうぶっちゃけて言ってしまう人のようで「山本周五郎賞」受賞後のエッセイで同賞と芥川賞を痛烈に批判している。その気持はわからなくもないが。
ミステリージャンル「イヤミス」とは?
その湊かなえが広めたと言えるジャンル「イヤミス」とはいったいどんなジャンルなのだろうか?実際、読んで字の如しなのだが「読んだ後、嫌な気持ちになる小説」を指すことが多い。
現在では湊かなえ・真梨幸子・沼田まほかるの三人を「イヤミスの三女帝」なんて呼ぶ人もいるようだ。
そんな代表作は湊かなえ「告白」、真梨幸子「殺人鬼フジコの衝動」、沼田まほかる「ユリゴコロ」などが特に有名なようである。
海外なんかだとジャック・ケッチャムの「隣りの家の少女」などが有名だ。これは結構「くる」ので元気がないときに読むことはお勧めしない。
実際読んでみて~ネタバレ無し~
TBSで放送が始まった「リバース」であるが物語も中盤までさしかかっているようだ。ただ数字は振るわない様子。原作とは違う内容のようだが、それがどう影響しているのか、落ち所をどこに持ってくるのか、とても気にはなっている。
さて小説の「リバース」である。
本書はいままでの湊作品とは少し違っている。今までの湊作品群は総じて主人公が女性であり、女性側からの視点が巧く描けていること、それとイヤミスがからみ合うことで女性からの支持を多く得てきたに違いない。
だが今作「リバース」は主人公が男性なのだ。この男性主人公は湊氏初の試みであり、作者の並々ならぬ意欲が見てとれる。
それともう一つ。湊氏の作品を読むのは「境遇」以来となったが、この「リバース」は湊氏の小説にしては珍しく、ミステリーと聞いて思い浮かべるミステリーに近い仕上がりになっているのだ。
言ってしまえば「犯人探し+意外な結末」のために入念に設計された長編ミステリーだ。普段の湊かなえ作品に慣れている湊ファンはおそらく「新鮮さ」を感じられただろう。
逆に普段は湊作品を敬遠している人からすれば、「こんな小説も書けたのか!」となり、やはり新鮮さを感じるに違いない。
では我々が期待する「イヤミス」の要素はないのだろうか?
それは安心して欲しい。しっかり存在している(今回は男性目線ではあるが)
実際読んでみて~ネタバレ有り~
ここからは少しネタバレありで書いてみようと思う。解説にあるようにこの「リバース」という小説は「結末ありき」の小説であった。講談社編集部から「お題」が出されたのだ。そのお題にのっとる形で本書は執筆された。このネタバレ部分を見ているということは皆さん読後だということでお分かりだろうが、そのお題はこの小説の最後の結末を既定していると言ってよい。その結末へと導くために設計し、かつ自分の色もしっかりだしているこの「リバース」は傑作といえるだろう。
そのイヤミス要素も男性目線初挑戦とは思えないほどよく描かれている。
女性もそうでありように、男性にもリア充・非リア充のグループがあり、そしてその二つのグループの中でまた自分の立ち位置があったわけで(非リア充に近いリア充の下位グループとかキョロ充とか)学生時代の学級ヒエラルキーや微妙な友人関係、つかめぬ距離感や自身の立ち位置、挙げ句の果てには「あれ、こいつと俺って本当に友人関係なんだっけ? でも相手はそう思っていないんじゃ……」という思春期特有のあの苦しい記憶を見事に甦らせてくれる。そして読んだ後には溜息をつき、あるいはへこみ、総じてイヤな気分になるのである。
さらに湊作品の多くは登場人物たちのその後が心配になるケースが多い。
本書もその一つで、最終的に深瀬は自分がしたことに気がついてしまう。いくら気がつかなかった・知らなかったと言ってもおそらく「過失致傷罪」が適用されるだろう。さらに深瀬はどちらをとるかの選択に迫られることになる。
①自身がやったことを正直に美穂子に話すのか? しかしこの場合、おそらく美穂子との関係は修復できないものになるだろうし、さらに罪を問われる可能性もある。だが、深瀬は美穂子の告白も聞いている。それを以て反撃材料とすることに出来るかも知れないが、そんなことは誰も望んでいないはず。(続編があればこんなドロドロしたのを書きそうではあるが。法廷物も新しい試みですね!笑)
②自分が気づいたことは自分の中に封印する。しかしこの場合は深瀬の今後の人格に多大な影響を及ぼす可能性がある。さらに直近の危険は深瀬が「広沢の両親に本当のことを話そう」と美穂子に話していることだ。行かなければ行かないで怪しまれるだろう。しかし行ったとしてどのように話すのか? 私は深瀬が上手くごまかすような場面は想像できない。
こうしてみると、湊かなえは深瀬の退路を完全に塞いでいることがわかる。まさに前門の虎、後門の狼といったところか。
私はいつか深瀬が話すときが来るだろうと思う。しかしそれは良心の呵責に耐えられないからという理由だろう。自分のために話す。話して楽になる。そんな未来が見えるのは私だけだろうか?
オススメ度
オススメ度★★★☆☆面白さ★★★★☆
合計★七つ
湊作品としては珍しく、ミステリー色の強い小説。未読のかたはぜひ読んでみて欲しい。
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