この本読んどく?

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タグ:ホラー

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最近は夜まで蒸し暑く、夏がすぐそこまで近づいてきているように感じる。
夏の風物詩といえば甲子園や西瓜、海水浴など様々だがやはりここは「怪談」だろう。

今日は和ホラー、つまり怪談系の話を書かせたら今の日本で右に出るものはいないだろうと思われる三津田信三氏の文庫最新刊「どこの家にも怖いものはいる」を見てみようと思う。

目次

  1. 家の中は安心か?子どもの間ではやったおまじない
  2. 「どこの家にも怖いものはいる」を読む!
  3. オススメ度

家の中は安心か?子どもの間ではやったおまじない

私が小学生の頃だったと思う。こんなおまじない?が流行った。
「家の中のどこに危険なものがいるか?幽霊がいるか?」
というものだ。

怖がりだった私は、今でもこれのやり方を覚えているぐらい怖かったのだが(家の中に誰かいるなんて信じたくない、知りたくないという気持が多分に働き今でも忘れることができない)、結局試してしまったのである。

当時私たちの小学校で流行っていたやりかたはこうだ。
①まず目をつぶり自分が家の前、つまり玄関の前にいるところを想像する。
②そのまま玄関から家の中に入り、各部屋を歩いてまわる(もちろん風呂場やトイレ、台所もだ)
③玄関から出て目を開ける。その際自分の家の中に人がいたか、いたならどこにいたか覚えておく。
④人がいた場所が霊や悪いものがいる場所である。


といったものだった。
結果は憶えていないし、憶えていても思い出したくもない。
しかしながら今日この記事を書くにあたって同じようなおまじない?があるのではないかと探してみた。すると似たものが何個か出てくるではないか。それらは窓を開けることになっているが、結果はやはり上記のものに近いものであった。上のものは自分に霊感があるかどうかのテストであったのである。

耳鳴りがしたらそばにいる、などもよく聞く話ではないだろうか?
また暗がり天井の隅隙間風呂場、そんなところに何かいる気配はしないだろうか?

こうしてみると、家の中は決して安全な場所だとは言えない気がしてならない。
だからといって「盛り塩」をするのは危険だ。これだけは言える。仮にあなたの家に「わるいもの」がいたとすると、盛り塩をすることであなたの家から出れなくなるのだから。

「どこの家にも怖いものはいる」を読む!

そんな本書「どこの家にも怖いものはいる」だが、作りは実話怪談風の構成となっている。つまりはいつもの三津田氏の手法なのだが、他の著書「のぞきめ」「忌館」などよりもグッと洗練されている気がしてならない。つまりより「境界」があいまいとなっているのだ。この「あいまいさ」というのが怖さを助長するのである。フィクションとノンフィクションの合間でこの小説は揺れ動く。我々読者はこの話が本当かどうかどうあがいても知ることができないのである。

しかしながら、本書は実際にあったことの体で進められていく。
また三津田氏は本を丸ごと使って我々読者を楽しませてくれる作家であるが、本書も例外ではない。
というのも本書の冒頭は、
『お願い
本書に掲載した五つの体験談について、執筆者ご本人またはご親族でご存じの方がおられましたら、中央公論新社の編集部までご連絡いただければ幸いです』

という文から始まるのである(本当にきたらどうするのだろうか?それはそれで話のネタが増えるのだろうが編集部は戦々恐々ではないだろうか?笑)。虚と実を混ぜ怪異を作るのが本当に巧みだ。この文を読むことで読者の頭の中に無意識のうちにでも「本当のことかもしれない」と植えつけることができれば大成功だろう。

さらに巻末の「参考文献」も見逃せない。
ファンであればもう見る癖がついているだろうが、初読の方は必ず目を通して欲しい。ますます怖く、そして境界があやふやになるに違いない。

さて中身だが、先にも述べたように本書は「五つの話」と二人の怪異の検討からなる。
その話は、
一つ目の話 「向こうから来る 母親の日記」
二つ目の話 「異次元屋敷 少年の語り」
三つ目の話 「幽霊物件 学生の体験」
四つ目の話 「光子の家を訪ねて 三女の原稿」
五つ目の話 「或る狂女のこと 老人の記録」

からなるのだが、どれも夜中に読みたくないのは共通している。
最も怖かったのは一つ目の「向こうから来る」である。これは子供部屋の話なのだがこういう空想や妄想、もしくは今現在そんな部屋に住んでいる、壁紙がそうだ、という人は私と同様これが一番キタのではないだろうか?もうそっちの方を見ながら部屋で生活できなくなる。

また「光子の家」は違った意味で怖い。
これは完全体で読んでみたいと思ったのだが(存在すればの話だが)、完全に新興宗教潜入ルポドキュである。しかもそこに謎の怪異が加わり余計怖い。というか不気味である。この五つの話は「家」にまつわる怪談なのだが、それにしても「光子の家」という名前からにじみ出る負のオーラはなんだろうかか?怪談話で「〇〇の家」というものは鉄板でもあるのだが、なぜこんなにも怖いと思ってしまうのか。人が住むことで様々なものが宿るということももちろんあるだろうが、日本人の持ち家信仰もここに加わりそうな気がする。長い間そこに住めばこそ、多くの喜怒哀楽の感情が家にも伝わるであろうからだ。なので「〇〇の家」と聞くと人の何かが籠もっていそうで、知らないうちに身構えてしまうのではないだろうか。

また三つ目「幽霊物件」は現実的な問題も含んでいる興味深い話である。
「心理的瑕疵物件」というものがある。
これは「通常一般人が嫌悪感を抱く物件」のことを言う。つまりは「事故物件・いわくつき物件」と言われているモノである。「事故死」や「自殺」、「他殺」「孤独死」はもちろんのこと、倒産、暴力団跡地、風俗跡などもこれに該当する。

これらに該当する物件は通常価格より安くなっていることが多く、また告知事項ありなどと小さく留まるにすぎないことも多々ある。通常は契約前「重要事項説明」時に告知を行う必要があるのだが、では業者はいつまでそれを説明しなければならないのだろうか?

借手や買い手からしたら「一生説明し続けろ!」と言いたいところだが、そうしてしまうと業者の負担が増えてしまう。なので通説ではこの「心理的嫌悪感というものは時間によって薄れていくもの」とされている。平成26年8.7日東京地裁判例では17年以上経過していること、また間に駐車場として利用されていた期間があることから買主の訴えを棄却している。また当然ながら売り手がその事実(瑕疵があったということ)を知り得なかった場合、つまり善意無過失であることが証明できれば損害賠償請求は棄却される。

が、20年以上経過した事例でも近隣住民には深く記憶されおり、嫌悪感は希釈されていないとする判例も存在する。なので結局のところ「告知義務の判断は個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するという不明確な基準によるしかない」のだそうで、不動産会社は推奨10年と決めているところもあるようだ。しかしながら昨今の状況を鑑みるに、原則告知すべきという考えが広まってきておりダンマリをきめるということは少なくなってきているようだ。

では今回の「幽霊物件」だがこれは心理的瑕疵にあたるだろうか?
じつは当たらないのである。実際に「幽霊がでる!」というだけでは法律上、精神的負担にはならないとしている。なので学生に対して説明しなくても良かったことになる。もちろん、死者がでていれば別であるが。

長くなったがここで繫がってくるのが事故物件公示サイトを運営する「大島てる」だ。
この「大島てる」というサイトを怪談好きで知らない人はいないだろうが、完結に説明すると「日本各地の事故物件をサイトで公開し、いつ、どんな理由で事故物件になったかを簡潔に述べている」サイトだ。そんなサイトの運営者が六つ目の話として、本書の解説を行っている。ここを「解説」とせずに「六つ目の話」とするあたりもニクイ演出である。

ただ惜しむらくは小野不由実「残穢」と似ている感じがしてしまったことだろうか。お二方ともおそらく同じ参考資料を読んでいるに違いない。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★★☆
どこの家にも怖いものはいる。私たちが気づいていないだけかもしれない。
しかしカバーのイラストが怖すぎる!笑
どこの家にも怖いものはいる (中公文庫)

三津田 信三 中央公論新社 2017-06-22
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辞書を引くと「クリーピー」とは「身の毛がよだつような、気味の悪い」という意味だと教えてくれる。

本書もそのタイトル通り、どうも気味の悪い内容となっている。サスペンスホラーよりの本書を今日は見てみようと思う。

目次

  1. 作者の前川裕ってどんな人?
  2. クリーピーを読む
  3. 生きているのか死んでいるのか
  4. オススメ度

作者の前川裕ってどんな人?

作者の前川氏は法政大学国際文化学部の教授である。専門は比較文学・アメリカ文学だそうだ。
故に本書が最初の出版というわけではなく、英語関連の本(英会話・入試英語等)が前から出版されている。

小説に関しても「クリーピー」より前に「人生の不運」(現在は「深く、濃い闇の中に沈んでいる」と改題し、文芸社文庫から刊行されている)が出ているが、こちらはおそらく自費出版であったろうと思われるので、「クリーピー」が商業作家デビュー作ということになる。

そんな前川氏であるが、2011年に第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞、翌2012年に本格的に作家デビューを果す。やはり教授という仕事柄、文章を書き慣れているだけありデビュー作ながらとても読みやすい(ただし「~た。」が多いが)

クリーピーを読む

ミステリーの中でも「サスペンスホラー」よりと思われる本書。
だが、純粋な意味での「ホラー」とはまた違った怖さが潜んでいる。

本作の主人公は「高倉」。職業は大学教授である(小説内における昨今の大学教授は現実以上に大忙しである)。これは前川氏自身の投影であろう。

前川氏自身も教授ということで、ゼミや講義などで多くの学生たちと接してきたのだろう。学生の服装や話し方、ゼミの後の飲み会など、自身の経験を上手く使い小説内のリアルさを増している。

さらに穿った見方をすれば「ああ、この人(教授や講師の方々など)は普段こんなふうに学生を見ているんだな」という読み方も出来なくもない。前川氏自身の経験談なのではないか? と勘繰ることもでき、話の大筋とは全く関係ないがそんな楽しみ方もできるのも嬉しい。

さて物語は犯罪心理学者である高倉のもとに事件分析の依頼が届くことから始まる。その依頼以降、高倉の周囲で事件が頻繁に発生するようになってしまう。そして自身も事件に巻き込まれていく。

この犯罪心理学者の元に事件の分析が届き、そこから様々なことが発生するという流れだが、主人公の職業と結びついている(ように感じる)ので、物語の中に入っていきやすい。
この小説で最も重要なのがこれで、この話が現実でもあり得そうと思わせることなのだ。これがなくなると本書の面白さは半減どころか、成立も難しくなってくる。サスペンスとホラーの醍醐味が失われかねないからだ。だからこそ主人公の職業も前川氏自身が一番よく知っている職業にし、リアルさを出すために随所で工夫をしている。

だが、「クリーピー」はただ怖いだけでなく、アッと驚く展開も待っているので読み応えのある小説となっている。

そしてこの小説は現在社会へ問題を投げかけているようにも感じられるのだ。
たとえば、この小説の一番の肝、怖さの元は「隣人は誰なのか?」ということになるだろう。その疑問が不安に、そして確信へと変化していく展開が面白く先が読みたくなるのだが、これは現在だからこそ起こる不安ではないだろうか?
一昔前は近隣と付き合いが無い方が異常で、そんな状態を村八分と言ったりしていたはずだ。
だが村八分の状態でも火事や葬儀の場合は協力があったので、もしかしたら現在のほうがもっと稀薄かもしれない。だからこそ、近隣で事件が起こった時に疑心暗鬼に囚われる。
「隣に住んでいる人は善人だろうか?悪人だろうか? 生きているのか?死んでいるのか? まったくわからない」という状態が発生するのは現在だけだろう。

隣近所の付き合いが親密であれば、例えば、自分が仕事に行く間子どもを見てもらうということも可能であった(何かされるのではないか?という考えは無いというよりも恐らくタブー)
しかし現在はたとえ親密であったとしても自分の子を預けるということはしないだろう。相手を信用できないからだ。(ではなぜ他人であっても保育園や幼稚園には安心して預けれらるという考えが揺らがないのかは疑問だが。ただし最近ではそれすらも安心できない事件が起きている)

そんな問題点を含んでいるのがこの「クリーピー」だ。現代生活の不安や疑問を上手く昇華させている。

生きているのか死んでいるのか

若干のネタバレになるので未読の方はスルーしていただきたい。
本書では結局「矢島」は死んでおり、そのことを知っているのは限られた数人だけであり、「矢島」は現在も逃走中となっている。

だが果してそうだろうか?
高倉はあくまでも園子が「矢島だ」と言った死体を見ただけである。この死体が矢島でない可能性は大いにあり得る。さらに園子も矢島を庇う理由があるのだ。
もう一つ疑問点がある。いくら閉め切った部屋とはいえすべてのものの侵入を防ぐことはおよそ不可能に近い。そう。虫だ。そんな状況下で十年も死体があることを隠し通せるだろうか。それに十年ものの死体に皮膚が付いているものなのだろうか。ミイラ化したとしたら都合がよすぎるではないか。

流れ的にはやはり、死体は替え玉、本人は生きていて逃走中という方がしっくりくる気がするのだ。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
本書は去年西島秀俊主演で映画化されている。キャストも豪華で、特に香川照之の好演が見どころだ。
クリーピー (光文社文庫)

前川 裕 光文社 2014-03-12
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その小説内に書かれていることほぼ全てが伏線であり、またメタ的要素を多分に含んでいる小説があっただろうか?

今日紹介する「首無の如き祟るもの」はそんな小説の一つだろう。これを読めばあなたもきっとミステリー、いや読書が好きになるはずだ。あなたをきっと驚きの連続へと導いてくれる。

目次

  1. 三津田信三とは?
  2. 流浪の怪奇小説家・刀城言耶
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. オススメ度

三津田信三とは?

ミステリーランキングの常連と言っても過言ではない三津田氏。
代表作は「刀城言耶シリーズ」や「死相学探偵シリーズ」だろう。そんな三津田氏は出版社勤務を経て、2001年「ホラー作家の棲む家」で小説家デビュー(1994年に鮎川哲也が編集を務めた公募アンソロジー「本格推理3 迷宮の殺人者たち」に「霧の館 迷宮草子」が採用されている)

その後、ホラー小説やミステリー小説を精力的に発表を続け、2010年には「水魑の如き沈むもの」が第10回本格ミステリ大賞を受賞した。

刀城言耶シリーズは「幽女」以降出ていないのだが、今年こそはと期待している。

流浪の怪奇小説家・刀城言耶

そして「刀城言耶シリーズ」の多くで探偵役を務めるのが刀城言耶だ。
元華族の血筋である。ジーンズを愛用し、行く先々で奇異な目で見られている。そして何か面白そうな「怪異譚」が聞けそうとと分かると態度が豹変。場所相手を問わず、相手が話すまでしつこくまとわりつくスッポンのような人物だ。しかしながら最初から怪異を信じきっているわけではなく、合理的解釈が必要な場合はそのような判断を下す。

しかしどこか憎めない人物である。その点では「金田一」に近いものを感じる。そんな刀城言耶が事件を引き寄せるのか、それとも言耶が事件に引き寄せられるのか。出かける先々で事件に遭遇し、不本意ながらも探偵役を務めることとなる。

そして時系列だが、
「厭魅」→「凶鳥」→「首無(事件発生)」→「山魔」→「水魑」→「幽女」→(首無事件解決)となりそうである。番号順に読むと微妙につながらない時があるので、帯の順番で読むことをお勧めします。

ちなみにこの「刀城言耶シリーズ」はほとんどの作品が何かしらのミステリランキングに選出されている。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

旧家・怪異伝承・首無し死体・どんでん返し等々ミステリ好きには堪らない要素満載である。
しかし、怪異現象や諸所の設定に現実味を持たせるためにやはり文章は多くなっており、600P越えとなっている。だがページ数を気にさせないほどの面白さがあるので、量はさほど気にはならない。

この要素(旧家の対立・双子など)だけ見ると、横溝の二番煎じか……と思われる方もいるかと思うがそうではない。横溝やカーの世界では装飾でしかなかった「ホラー」という要素をミステリーと対等の関係で融合できないだろうか? と思案した結果生まれたのが「刀城言耶シリーズ」なのだ。そして「首無」ではそれが結実したと言ってよいだろう。

だが本作はその中でも異質である。というのも「言耶」はほとんど登場しない。
この物語は斧高という少年の視点と、私こと高屋敷妙子の視点で語られている。言耶が登場するのはほんの数場面しかないのだ。

また、今作にもシリーズ恒例のどんでん返しの波状攻撃、さらに○○の分類(今回は顔の無い屍体の分類)もしっかり存在しています。

さらに今回も参考文献にちゃっかり架空の人物を混ぜたり(閇美山犹稔)、「書斎の屍体」(架空の雑誌)に実在人物を登場させたり(幾守寿多郎以外は全員実在の人物。タイトルは微妙に変更してある)遊び心満載である。

また三津田氏も「江川蘭子」が好きなのか、ちゃっかり登場している。

実際読んでみて~ネタバレ有り~

ではネタバレありで見てみよう。
未読の方はスルー推奨である。


①江川蘭子に関して
以前も書いたが序盤(~50Pぐらいか)に緻密な伏線を張り、かつ上手く回収できている作品は傑作になる可能性が高い。本書も例にもれず、わずか3P目で犯人に関わる重大な伏線(~その一部は)が張られている。また「はじめに」でも核心にせまる重要な伏線が多く張られているが、中でも「一連の事件の真犯人が私(=書き手)自身ではないか」という疑問に対しての否定が後々重要となってくる。さらにここでは蘭子の説明は「本格推理」作家となっている点も見逃せない。また細かいが、「江川蘭子」は世が世なら侯爵という部分。華族令を参考に見てみて欲しい。

②長寿郎と妃女子に関して
ここが本作の最大のポイントである。これが解ければ一気にほとんどの疑問が解決へと向かう。
まず注目すべきは出産の際のカネの行動と兵堂の表情だろう。出産は現在でもかわらず重要なものとして見られている。出生率が低かった過去では尚更、さらに跡継ぎが絡めば重要度は増すのは当然だろう。そこでカネは「禁厭・呪い」を施しているのだが、今の考えから行けばその呪いが意味するものは安産であろう。しかしながらここに淡首様という問題が絡むことでその禁厭は別な意味も併せ持つことになる。安産は当然として、いかにして神から逃げるかである。子供は「七つまでは神様の子」であると信じられてきた経緯がある。そんな事情からカネは強力な禁厭を施すことになった。そこを考えてみると、女の子が生まれた!と聞いた時の兵堂の表情にも納得が行くだろう。
また、死亡後の葬儀の仕方である。なんとなくだが、私は勝手に三津田氏は「葬儀」の方法や種類に強い興味を持っているのではないかと考えている。なので葬儀について考えると結構謎が解けるパターンも多いのだが、今回も葬儀が重要な伏線となっている。土葬が中心の村で(1967年時では火葬67%、土葬33%だったらしいので、この時代設定がそれよりも以前であれば土葬の割合も増えているであろうと考えられる。よってそこまで土葬は珍しいことではない)火葬をしたという点に着目してほしい。ミステリーで何かが燃えたらそれは「何かを隠そうとしている」と疑うべきである。

③刀城言耶について
この「首無」は「刀城言耶」シリーズのナンバリング作品ではあるが、言耶はほとんど登場しない。
第10章・旅の二人連れ以降、言耶は一切登場していない。ではこの時「本物の言耶」はどこにいたか。「首無」の事件の裏で、奥戸の「山魔」事件と関わり合い、そっちに行っていたのである。これは「水魑」内での会話で確認が取れる。また同時に「水魑」では、まだ「蘭子」が生きており、「血婚舎の花嫁」を連載し始めたことが語られている。
解決編で登場する言耶が本物ではないと考えることができる要素もある。
・「15歳は下に見られるでしょ」という発言
・未知の怪異譚を聞いても無反応
など細かいがしっかりと伏線が張ってある。

ではこの場面に登場する「言耶」は誰だったのだろうか。
様々な考察が可能だ。これは実際読んでみて自分なりの考えを導き出したほうが楽しいだろう。

オススメ度

オススメ度★★★★★
面白さ★★★★☆
鮮やかな伏線回収と緻密な設計で書かれた本書を一度読めば他のシリーズを読まずにはいられなくなるだろう。
首無の如き祟るもの (講談社文庫)

三津田 信三 講談社 2010-05-14
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数多くの小説が毎年出版される中、かつてここまで狂ってる小説があっただろうか?

2006年に出版されるやいなや様々な方面で物議を醸し出したこの「独白するユニバーサル横メルカトル」そんな本を今日は見ていこうと思う。


目次

  1. 怪人・平山夢明
  2. そして被害は拡大す
  3. C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆
  4. Ωの聖餐
  5. 無垢の祈り
  6. オペラントの肖像
  7. 卵男
  8. すさまじき熱帯
  9. 独白するユニバーサル横メルカトル
  10. 怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男
  11. オススメ度

怪人・平山夢明

作者・平山夢明とはどんな人物なのだろうか。
平山夢明氏は実話怪談や、超怖い話シリーズ、東京伝説シリーズなど多くのホラー・怪談物を手がける傍ら、多くの短編集も発表している人物だ。

2010年には「ダイナー」(カバーとても美味しそうな写真!)で吉川英治文学新人賞最終候補。第28回
日本冒険小説協会大賞、第13回大藪春彦賞を受賞した。

そして問題の本書「独白するユニバーサル横メルカトル」は2006年に誕生。後に多くの被害者(?)を出すことになる――。

そして被害は拡大す

手始めに光文社刊「異形コレクションシリーズ/魔地図」に寄稿した「独白するユニバーサル横メルカトル」で、2006年の日本推理作家協会賞短編部門賞を獲得。たしかにこれはまだ納得できる。本書の中でもまだまとも(?)なので、一般人にも引かれることはないだろう。さらに「これはミステリーです!」と言われると、なんだか納得してしまいそうな出来である(実際ミステリー)

しかしどこで手違いが起ったのか、同タイトルの短編集が2007年度版「このミステリーがすごい!」で国内部門1位を獲得。「このミス」といえば年末ミステリー大賞の大御所である。そこで1位を獲得すれば、当然大きな売り上げが見込める。

――そこで何が起ったか?
これは憶測だが、このミスや文春ミステリーの上位に入った本を何も考えずに(下見せずに)買う層が多くいたのでは、と考えられるのだ。ミステリー買ったつもりが何だかおかしなものが紛れている。つまり異物混入事件である。その結果、多くの被害者を生みだすことに成功したのだ。(私もそんな一人)

そう。この本にあるのは狂気である。あらん限りのエログロ・残酷描写・胸糞描写を詰め込んだスプラッター寄りのホラー小説だったのである。ミステリーの皮を被ったホラーなのだ。

そんなミステリー成分少なめの短編集の中身を見てみよう。

C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆

たろうくんを主人公とする現代版童話、暗黒童話のような物語。学校でいじめにあうたろうは、逃避行動からか子供が近づいてはいけない湖へと向かう。そこで一人のホームレスと出会う――

「冒頭になんてもん持ってきやがる!」
これが私の率直な感想である。立ち読みしたらそっと棚に戻すであろうこと間違いなし!
文体はですます調で、おとぎ話らしい雰囲気は出ている。しかし登場人物はそろいもそろって腹立つようなのばかりである。食事中読むことはお勧めしない。

読み終わったらもう一度タイトルを声に出して読んでみよう。脱力必至である。

Ωの聖餐

「俺」はとある事情から「ある動物」の世話を命じられた。しかしそいつのエサは人間の死体だった――

一話目とは異なりとにかくグロい。そしてなんだか臭い。
カニバリズムどんとこい!という方にはオススメだ。しかし、ただのカニバではなく、そこは作家である。少し面白い趣向が凝らしてある。

ちなみにカニバと聞いてもピンとこないかもしれないが、日本でも割と最近まで人間の内臓や胎児の黒焼きが病気に効くという俗信が信じられていたりだとかで、そんな事件が起きている。

無垢の祈り

義理の父からは暴力を受け、頼みの母は宗教に染まる。そんな家で暮らす少女が救いを求めたのは連続殺人鬼だった――

これが一番きつい。精神にダイレクトアタック。
女児が義父から虐待され、それが原因でクラスでもいじめられる。そして殺人鬼に援けを求めるしかない状態になっていても誰も助けようとはしない。見てみぬふりという現在の社会を痛烈に諷刺しているように思われる。

結末はどちらともとれる。だが本書は「ホラー」であり、救いがないということが「祈り」のテーマである気がする。そして伏線を踏まえて「それ」が何であるか考えるとふみがどうなるかは自ずと判明するはずだ。

オペラントの肖像

「オペラント条件付け」が徹底された世界。この世界では芸術が人を堕落させる悪であるとして批判され、所持しているだけで死刑となる。そんな芸術を信仰する人々を取り締まる主人公はひょんなことからカノンという女性を救おうとするが――

ディストピア小説。砂漠で発見したオアシスのような安心感を我々読者に与えてくれる。
SFの王道ではあるが、短編ではやはり無理があったか。中・長編で読んでみたいと思うがどうだろう。

卵男

連続殺人鬼である私こと「卵男」。奇妙な岩牢に移送され死刑になる日を待っていたが、ある日205号と名乗る男が現われる。私は205号と次第に会話をするようになるが――

これもSF色が強い。作品の出来、面白さではこの短編中トップクラス……なのだが既視感が強い。どこかで見たような。嵐の前の静けさ。

すさまじき熱帯

俺は一攫千金のチャンスを求め、熱帯にやってきた。組を裏切った奴を殺したら一億。俺は聞いたこともない国へと出発する。

「これはひどい」
ついに暑さでやられたか!?とまず作者の頭の中を疑いたくなるような内容。
ぶっ飛びどころか崩壊している。見どころは現地の人々が話す言葉だ。
「垂乳根のお釜崩れる毛脛かもかな!」(201頁)
こんな言葉を考えていた時の精神状態が知りたい。それとも本当に意味のある言葉の当て字だろうか。

独白するユニバーサル横メルカトル

自我を持つ私こと「建設省国土地理院院長承認下、同院発行のユニバーサル横メルカトル図法による地形図延べ百九十七枚によって編纂された一介の市街地道路地図帖」が目撃したことと、その顛末を淡々と語る。自我を持つ地図帖が見ていたものとは――。

表題作。ホラー・ミステリーのバランスも良く一番まともな内容になっている。故に感想は少ない。
擬人化した地図たちの会話を楽しんでみるのはいかがだろうか?

怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男

強迫性障害を持つMC。彼は拷問を生業としていた。しかしある日、拷問を受けても恐怖を示さない女性が送られてくる――

良くも悪くも無難な短編(ここまで読んだせいで麻痺している可能性もあり)
冒頭のピザ以外はまともな感じである。拷問の描写はあるにはあるが、非常にライトな出来となっている。

オススメ度

オススメ度★☆☆☆☆
面白さ★★★★☆
合計★五つ
自らすすんでこの小説を誰かに薦めるだろうか?
しかしながら今までにない境地の開拓や、既成概念の破壊には持って来いである。
独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

平山 夢明 光文社 2009-01-08
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科学文明が進んだとはいえ、未だに解明できない謎・不思議な現象が多くある。

そんな現象に自分が遭遇したらどうだろう?
怖いと感じるだろうか? それとも何も気にせず普段通りに行動するだろうか?

では「自分は普段通りの行動をしているのに、自分の知らない内に怪奇現象に巻きこまれていた」としたらどうだろうか。

そして「残」った「穢」れとはいったいなんだろうか。そんなことに注目しつつ、今日は「残穢」を読もうと思う。

目次

  1. 小野不由実とはどんな小説家か?
  2. 「穢れ」とは一体何なのか?
  3. 「残穢」を読む
  4. オススメ度+映画感想

小野不由実とはどんな小説家か?

アニメ化もされた「悪霊シリーズ」や「十二国記」「屍鬼」でお馴染みの小野不由実。
講談社X文庫のコバルト系からミステリー・ホラーまで何でもこなす小説家だ。デビューこそ1988年と早かったが、出版がX文庫だったためか(男性で買う人はあまり見ない)世間一般に認知されるのには時間がかかったようだ。

しかし、1993年「東亰異聞日本ファンタジーノベル大賞の最終候補となり、新潮社から刊行される。そして1998年には「屍鬼」を発表。山本周五郎賞・日本推理作家協会賞の候補にもなり、ベストセラーを記録。ようやく世間に名が知られるようになる。

そして2010年、悪霊シリーズがメディアファクトリーより「ゴーストハント」として刊行されると、2012年には「十二国記」が新潮社に版元を変え刊行スタート。現在もシリーズ継続中(?)の「十二国記」は800万部のベストセラーとなった。

そして本書「残穢」が2013年に山本周五郎賞を受賞。体調がすぐれないらしいが(そのことは本書の中にも書かれている)様々なジャンルで活躍中である。

ちなみに小野氏も「京大推理小説研究会」出身である。同時期のメンバーは綾辻行人・法月綸太郎・我孫子武丸。なんという豪華な顔ぶれだろうか。綾辻氏とは学生結婚をしている。

「穢れ」とは一体何なのか?

では小説の中身に触れる前に、「穢れ」の概念について軽く見てみようと思う。というのもタイトルにもある通り、「穢れ」の概念が深くからんで来るからだ。

穢れにも様々な解釈が存在しており、人によって多少の差異があるようだが、大雑把に言ってしまえば「人に嫌な気持ちを抱かせるような理想的でない(不潔・不浄等)状態」だと説明することができるだろう。例えば死による穢れ(黒不浄)や、経血(赤不浄)出産(白不浄)などが挙げられている。

また民俗学では「ケガレ」を「ケ(日常)枯れ」とする考え方も広がっている。ハレ―ケ―ケガレという関係である。

なぜここまで「穢れ」を忌んできたのか。それは日本人が農耕民族であることに深く関係していると考える。山の雪解けを見て田植えの時期を決める方法などが良く知られているが、それより以前は「隣りの田んぼが植えはじめたからこっちも植えよう」という考え方だったようだ。つまり今我々が持っているであろう考え方「みんながやってるから私もやる」というのはここからきている。なので自分だけ違うことをしていると不安になるし、行列には取りあえず並んでしまうのである。皆がやっているから。さらに、その秩序を乱す者をとことん嫌う傾向が日本人にはあるように思える。

そこで「穢れ」に戻って考えてみよう。穢れの状態というのは個人だけではなくその共同体にも影響を及ぼすと考えられていた。ということは一人のせいで共同体(家族・村などの地域社会)が危険にさらされるわけでる。だとすると、この「穢れ」の状態をとことん忌むのは納得の行くところだろう。

しかしながらこの「穢れ」の最大の問題点は人から人へと移ると考えられていることである。
この考え方は現在にも深く根付いている。
例えば鬼ごっこだ。なぜ「オニ」ごっこなのか?という疑問はさておき、これも「オニ」に触れられることで自分がその役目を担う。自分にオニが移っているのだ。この遊びの中にも嫌なものが自分から他人へと移る穢れの過程というものが見てとれる。
さらには正月や年の瀬などでおなじみの「人形」これも自分自身の穢れを人形に移すことで自分の穢れを払っている。

ここまで読んでいただければうすうす感じているとは思うが、近年のイジメの問題、また無くならない差別の問題も結局は日本人の価値観、生活習慣にいつの間にか潜んでいる「穢れ」という考え方に繫がってくるのではないだろうか。この穢れから逃れる方法を見つけることが日本の本当の意味での近代化につながるのではなかろうか。

「残穢」を読む

さて前置きが長くなってしまったが、実際に読んでみよう。
作家である「私」は心霊現象には否定的であるが、過去にホラーもの(悪霊シリーズ)を書いていた縁で今も読者から体験談が届く。そんな中一通の手紙が気になった「私」は手紙の主と会い、話を聞きながら怪奇現象を調べ始まる。というのが話しの大筋だ。

この設計の巧いところはやはり主人公である「私」を小野不由実自身とオーバーラップさせることで、実際に作者が経験した事ではないか? という怖さ、つまりフィクションの形式をとってはいるが、実際はノンフィクションなのではないか? というイメージを我々読者に植えつけているところだろう。

なので、架空の世界の話ではなく、実際の話、つまり今読んでいる私たちの世界と地続きの世界で起こったできごとなのではないか? という怖さを読者に想起させることに成功していると言える。

さらにこの淡々とした語り口調の文体も怖さを煽る効果を生み出している。

そして上記の「穢れ」の概念をもう一度思い出してこの「残穢」の怖さとは何かを考えてみよう。
残穢には気味の悪いやつに追いかけられるシーンや、(旦那お得意の)スプラッターシーンがあるわけでもない。しかし確実に怖いのである。とするとやはり、我々の無意識に根付いている「穢れ」の恐怖、つまり「この本を読んでしまった私にも、災厄が降りかかるのではないか?(「私」の穢れが本を媒介にして移るのではないか?)」という恐怖であろう。

この「残穢」という本は日本人の内なる恐怖を刺激する本であると言えよう。

余談だがこの本には「平山夢明」「福沢徹三」ご両人が登場する。残念ながら夫の「綾辻行人」は登場しない。

※ちなみに本書には姉妹本と言える本が一冊ある。それが角川から出ている「鬼談百景」である。こちらは人が経験した怖い話を集めました、という形をとっている。そして「百景」というだけあって百物語を連想させるのだが実は「99話」までしか収録されていない。この「残穢」が100話目にあたる。百物語は語り終えると怪異が起きることで有名だが果して……?

オススメ度+映画感想

オススメ度★★☆☆☆
面白さ★★★★★
合計★七つ
私は進んでこの本をオススメしたりはしませんよ、ええ。面白さは間違いなし。ホラーとはこうだ!という思いを噛みしめながら読むことができる良書だ。しかし、この本を媒介にしているとしたら大変ですよね……?

映画評価
オススメ度★☆☆☆☆
面白さ★☆☆☆☆
いろんな意味で私はオススメしません。豪華キャストは豪華キャストなのだが、持ち腐れというか上手く使えていないというか。得体の知れないものが主人公たちに襲いかかる!というのはもう古いのではないでしょうか?B級映画ですよね。原作に登場しないものを出すのであれば、原作を超えるようなクオリティでなければならないだろう。
残穢 (新潮文庫)

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