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辞書を引くと「クリーピー」とは「身の毛がよだつような、気味の悪い」という意味だと教えてくれる。

本書もそのタイトル通り、どうも気味の悪い内容となっている。サスペンスホラーよりの本書を今日は見てみようと思う。

目次

  1. 作者の前川裕ってどんな人?
  2. クリーピーを読む
  3. 生きているのか死んでいるのか
  4. オススメ度

作者の前川裕ってどんな人?

作者の前川氏は法政大学国際文化学部の教授である。専門は比較文学・アメリカ文学だそうだ。
故に本書が最初の出版というわけではなく、英語関連の本(英会話・入試英語等)が前から出版されている。

小説に関しても「クリーピー」より前に「人生の不運」(現在は「深く、濃い闇の中に沈んでいる」と改題し、文芸社文庫から刊行されている)が出ているが、こちらはおそらく自費出版であったろうと思われるので、「クリーピー」が商業作家デビュー作ということになる。

そんな前川氏であるが、2011年に第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞、翌2012年に本格的に作家デビューを果す。やはり教授という仕事柄、文章を書き慣れているだけありデビュー作ながらとても読みやすい(ただし「~た。」が多いが)

クリーピーを読む

ミステリーの中でも「サスペンスホラー」よりと思われる本書。
だが、純粋な意味での「ホラー」とはまた違った怖さが潜んでいる。

本作の主人公は「高倉」。職業は大学教授である(小説内における昨今の大学教授は現実以上に大忙しである)。これは前川氏自身の投影であろう。

前川氏自身も教授ということで、ゼミや講義などで多くの学生たちと接してきたのだろう。学生の服装や話し方、ゼミの後の飲み会など、自身の経験を上手く使い小説内のリアルさを増している。

さらに穿った見方をすれば「ああ、この人(教授や講師の方々など)は普段こんなふうに学生を見ているんだな」という読み方も出来なくもない。前川氏自身の経験談なのではないか? と勘繰ることもでき、話の大筋とは全く関係ないがそんな楽しみ方もできるのも嬉しい。

さて物語は犯罪心理学者である高倉のもとに事件分析の依頼が届くことから始まる。その依頼以降、高倉の周囲で事件が頻繁に発生するようになってしまう。そして自身も事件に巻き込まれていく。

この犯罪心理学者の元に事件の分析が届き、そこから様々なことが発生するという流れだが、主人公の職業と結びついている(ように感じる)ので、物語の中に入っていきやすい。
この小説で最も重要なのがこれで、この話が現実でもあり得そうと思わせることなのだ。これがなくなると本書の面白さは半減どころか、成立も難しくなってくる。サスペンスとホラーの醍醐味が失われかねないからだ。だからこそ主人公の職業も前川氏自身が一番よく知っている職業にし、リアルさを出すために随所で工夫をしている。

だが、「クリーピー」はただ怖いだけでなく、アッと驚く展開も待っているので読み応えのある小説となっている。

そしてこの小説は現在社会へ問題を投げかけているようにも感じられるのだ。
たとえば、この小説の一番の肝、怖さの元は「隣人は誰なのか?」ということになるだろう。その疑問が不安に、そして確信へと変化していく展開が面白く先が読みたくなるのだが、これは現在だからこそ起こる不安ではないだろうか?
一昔前は近隣と付き合いが無い方が異常で、そんな状態を村八分と言ったりしていたはずだ。
だが村八分の状態でも火事や葬儀の場合は協力があったので、もしかしたら現在のほうがもっと稀薄かもしれない。だからこそ、近隣で事件が起こった時に疑心暗鬼に囚われる。
「隣に住んでいる人は善人だろうか?悪人だろうか? 生きているのか?死んでいるのか? まったくわからない」という状態が発生するのは現在だけだろう。

隣近所の付き合いが親密であれば、例えば、自分が仕事に行く間子どもを見てもらうということも可能であった(何かされるのではないか?という考えは無いというよりも恐らくタブー)
しかし現在はたとえ親密であったとしても自分の子を預けるということはしないだろう。相手を信用できないからだ。(ではなぜ他人であっても保育園や幼稚園には安心して預けれらるという考えが揺らがないのかは疑問だが。ただし最近ではそれすらも安心できない事件が起きている)

そんな問題点を含んでいるのがこの「クリーピー」だ。現代生活の不安や疑問を上手く昇華させている。

生きているのか死んでいるのか

若干のネタバレになるので未読の方はスルーしていただきたい。
本書では結局「矢島」は死んでおり、そのことを知っているのは限られた数人だけであり、「矢島」は現在も逃走中となっている。

だが果してそうだろうか?
高倉はあくまでも園子が「矢島だ」と言った死体を見ただけである。この死体が矢島でない可能性は大いにあり得る。さらに園子も矢島を庇う理由があるのだ。
もう一つ疑問点がある。いくら閉め切った部屋とはいえすべてのものの侵入を防ぐことはおよそ不可能に近い。そう。虫だ。そんな状況下で十年も死体があることを隠し通せるだろうか。それに十年ものの死体に皮膚が付いているものなのだろうか。ミイラ化したとしたら都合がよすぎるではないか。

流れ的にはやはり、死体は替え玉、本人は生きていて逃走中という方がしっくりくる気がするのだ。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
本書は去年西島秀俊主演で映画化されている。キャストも豪華で、特に香川照之の好演が見どころだ。
クリーピー (光文社文庫)

前川 裕 光文社 2014-03-12
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