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その小説内に書かれていることほぼ全てが伏線であり、またメタ的要素を多分に含んでいる小説があっただろうか?

今日紹介する「首無の如き祟るもの」はそんな小説の一つだろう。これを読めばあなたもきっとミステリー、いや読書が好きになるはずだ。あなたをきっと驚きの連続へと導いてくれる。

目次

  1. 三津田信三とは?
  2. 流浪の怪奇小説家・刀城言耶
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. オススメ度

三津田信三とは?

ミステリーランキングの常連と言っても過言ではない三津田氏。
代表作は「刀城言耶シリーズ」や「死相学探偵シリーズ」だろう。そんな三津田氏は出版社勤務を経て、2001年「ホラー作家の棲む家」で小説家デビュー(1994年に鮎川哲也が編集を務めた公募アンソロジー「本格推理3 迷宮の殺人者たち」に「霧の館 迷宮草子」が採用されている)

その後、ホラー小説やミステリー小説を精力的に発表を続け、2010年には「水魑の如き沈むもの」が第10回本格ミステリ大賞を受賞した。

刀城言耶シリーズは「幽女」以降出ていないのだが、今年こそはと期待している。

流浪の怪奇小説家・刀城言耶

そして「刀城言耶シリーズ」の多くで探偵役を務めるのが刀城言耶だ。
元華族の血筋である。ジーンズを愛用し、行く先々で奇異な目で見られている。そして何か面白そうな「怪異譚」が聞けそうとと分かると態度が豹変。場所相手を問わず、相手が話すまでしつこくまとわりつくスッポンのような人物だ。しかしながら最初から怪異を信じきっているわけではなく、合理的解釈が必要な場合はそのような判断を下す。

しかしどこか憎めない人物である。その点では「金田一」に近いものを感じる。そんな刀城言耶が事件を引き寄せるのか、それとも言耶が事件に引き寄せられるのか。出かける先々で事件に遭遇し、不本意ながらも探偵役を務めることとなる。

そして時系列だが、
「厭魅」→「凶鳥」→「首無(事件発生)」→「山魔」→「水魑」→「幽女」→(首無事件解決)となりそうである。番号順に読むと微妙につながらない時があるので、帯の順番で読むことをお勧めします。

ちなみにこの「刀城言耶シリーズ」はほとんどの作品が何かしらのミステリランキングに選出されている。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

旧家・怪異伝承・首無し死体・どんでん返し等々ミステリ好きには堪らない要素満載である。
しかし、怪異現象や諸所の設定に現実味を持たせるためにやはり文章は多くなっており、600P越えとなっている。だがページ数を気にさせないほどの面白さがあるので、量はさほど気にはならない。

この要素(旧家の対立・双子など)だけ見ると、横溝の二番煎じか……と思われる方もいるかと思うがそうではない。横溝やカーの世界では装飾でしかなかった「ホラー」という要素をミステリーと対等の関係で融合できないだろうか? と思案した結果生まれたのが「刀城言耶シリーズ」なのだ。そして「首無」ではそれが結実したと言ってよいだろう。

だが本作はその中でも異質である。というのも「言耶」はほとんど登場しない。
この物語は斧高という少年の視点と、私こと高屋敷妙子の視点で語られている。言耶が登場するのはほんの数場面しかないのだ。

また、今作にもシリーズ恒例のどんでん返しの波状攻撃、さらに○○の分類(今回は顔の無い屍体の分類)もしっかり存在しています。

さらに今回も参考文献にちゃっかり架空の人物を混ぜたり(閇美山犹稔)、「書斎の屍体」(架空の雑誌)に実在人物を登場させたり(幾守寿多郎以外は全員実在の人物。タイトルは微妙に変更してある)遊び心満載である。

また三津田氏も「江川蘭子」が好きなのか、ちゃっかり登場している。

実際読んでみて~ネタバレ有り~

ではネタバレありで見てみよう。
未読の方はスルー推奨である。


①江川蘭子に関して
以前も書いたが序盤(~50Pぐらいか)に緻密な伏線を張り、かつ上手く回収できている作品は傑作になる可能性が高い。本書も例にもれず、わずか3P目で犯人に関わる重大な伏線(~その一部は)が張られている。また「はじめに」でも核心にせまる重要な伏線が多く張られているが、中でも「一連の事件の真犯人が私(=書き手)自身ではないか」という疑問に対しての否定が後々重要となってくる。さらにここでは蘭子の説明は「本格推理」作家となっている点も見逃せない。また細かいが、「江川蘭子」は世が世なら侯爵という部分。華族令を参考に見てみて欲しい。

②長寿郎と妃女子に関して
ここが本作の最大のポイントである。これが解ければ一気にほとんどの疑問が解決へと向かう。
まず注目すべきは出産の際のカネの行動と兵堂の表情だろう。出産は現在でもかわらず重要なものとして見られている。出生率が低かった過去では尚更、さらに跡継ぎが絡めば重要度は増すのは当然だろう。そこでカネは「禁厭・呪い」を施しているのだが、今の考えから行けばその呪いが意味するものは安産であろう。しかしながらここに淡首様という問題が絡むことでその禁厭は別な意味も併せ持つことになる。安産は当然として、いかにして神から逃げるかである。子供は「七つまでは神様の子」であると信じられてきた経緯がある。そんな事情からカネは強力な禁厭を施すことになった。そこを考えてみると、女の子が生まれた!と聞いた時の兵堂の表情にも納得が行くだろう。
また、死亡後の葬儀の仕方である。なんとなくだが、私は勝手に三津田氏は「葬儀」の方法や種類に強い興味を持っているのではないかと考えている。なので葬儀について考えると結構謎が解けるパターンも多いのだが、今回も葬儀が重要な伏線となっている。土葬が中心の村で(1967年時では火葬67%、土葬33%だったらしいので、この時代設定がそれよりも以前であれば土葬の割合も増えているであろうと考えられる。よってそこまで土葬は珍しいことではない)火葬をしたという点に着目してほしい。ミステリーで何かが燃えたらそれは「何かを隠そうとしている」と疑うべきである。

③刀城言耶について
この「首無」は「刀城言耶」シリーズのナンバリング作品ではあるが、言耶はほとんど登場しない。
第10章・旅の二人連れ以降、言耶は一切登場していない。ではこの時「本物の言耶」はどこにいたか。「首無」の事件の裏で、奥戸の「山魔」事件と関わり合い、そっちに行っていたのである。これは「水魑」内での会話で確認が取れる。また同時に「水魑」では、まだ「蘭子」が生きており、「血婚舎の花嫁」を連載し始めたことが語られている。
解決編で登場する言耶が本物ではないと考えることができる要素もある。
・「15歳は下に見られるでしょ」という発言
・未知の怪異譚を聞いても無反応
など細かいがしっかりと伏線が張ってある。

ではこの場面に登場する「言耶」は誰だったのだろうか。
様々な考察が可能だ。これは実際読んでみて自分なりの考えを導き出したほうが楽しいだろう。

オススメ度

オススメ度★★★★★
面白さ★★★★☆
鮮やかな伏線回収と緻密な設計で書かれた本書を一度読めば他のシリーズを読まずにはいられなくなるだろう。
首無の如き祟るもの (講談社文庫)

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