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かつてソ連に「どうやって相手を苦しめるか、次から次へとアイデアが湧いてきて、実行するのが追いつかないほどだった」と言った連続殺人鬼がいた。

彼の名は「アンドレイ・チカチーロ」
今日は彼から着想を得て書かれた「チャイルド44」を見てみようと思う。




もくじ

  1. チカチーロとソ連
  2. 「チャイルド44」を読む!
  3. オススメ度

チカチーロとソ連

この小説を読む前に押さえておきたいことがある。
それは当時のソ連が「連続殺人は資本主義の弊害によるものであり、この種の犯罪は存在しない」という見解もとで動いていたということだ。

そして二つ目がこの小説を書く際に着想を得た人物「アンドレイ・チカチーロ」である。
チカチーロはソ連に実際に存在した連続殺人鬼で「赤い切り裂き魔」などの呼び名で知られている。

彼は女子供52人を殺害した連続殺人犯だ。しかし上記にもあるように、当時のソ連では「連続殺人など存在しない」という見解であったため、組織だった捜査が行われなかった。そして犯行の魔手はソ連全土に及び、いたずらに犠牲者を増やすことになる。最終的にKGB(=ソ連国家保安委員会。プーチン大統領もここの出身)が介入し事件は解決することになる。

所謂シリアルキラーや快楽殺人者は過去に大きなトラウマを経験し、家庭環境に問題がある場合、また性的虐待や性的コンプレックスを持っていることが多いそうだが、もれなくチカチーロもそうである。

しかしコンプレックスや挫折ももちろんそうなのだが、彼が4歳の時に母親から聞いたという「お前の兄は飢餓を凌ぐために喰われた」という発言と「ホロドモール」の経験が大きな打撃を彼に与えたのではないだろうか?

ホロドモールとはウクライナ人が住んでいた地域でおきた人工的な大飢饉である。そう考えるとチカチーロは「国家が生み出した悪魔」であると言えるのかもしれない。

「チャイルド44」を読む!

このことを踏まえて小説を読んでみると、チカチーロから着想を得たというだけあって多くのことが一致している(但し年代は意図的にずらしている)。小説の事件も東はヴォウアルスク、西はキエフ、北はヴィヤトカ、南はロストフ・ナ・ドヌーなどやはり広範囲にわたって展開されている。しかしながら「実際の事件で広範囲にわたって事件が起きていたので、小説もそうした」では読者は納得しないだろう。そこは安心してほしい。しっかり理由づけされている。

またこの小説は「広範囲にわたって犯罪を繰り返す犯人を、エリートである主人公が徐々に追いつめていく」といったものではない。見どころは主人公の苦悩と葛藤、心の変遷、そして自分にとって妻とはどんな存在であるのか?というものである。

国家保安省という場所に身を置く人物が主人公なのだから、もちろん国家に忠誠を誓っている人物だ。しかも省の中でもエリートである。そんな人物は当然上が「この国に連続殺人や犯罪などというものは存在しない」と言ったのであれば、それを盲目的に信じるだろう(もしくは逆らった時の恐怖を自分が一番よく知っていることからくる保身)

しかしそんな国家に対する信奉・忠誠心に些細なことでヒビが入ってしまったらどうなるだろう?
さらに主人公と国家との関わり、自身の仕事に妻であるライーサが関わってくるため、いっそう物語は複雑になり厚みを増してくる。

上巻では主に主人公の破滅と苦悩、そして再生への道に主眼が置かれているようだ。
下巻では主人公が犯人を追跡し「驚愕の事実」に遭遇することになるのだが、これがまた面白い。本当に巧く出来ている。が、やはり主眼は犯人追跡(犯人当て)ではなく、主人公と妻の関係と今後の在り方、夫婦とは何か? 家族とは何か? ということになってくる。

そしてもう一つ注目したいのが、「強い女性」の登場である。日本だけでなく世界の小説においても様々な意味で強い女性というものは魅力的に映るようである。

アクションあり、涙あり、驚きありのこの小説。きっと一気読み間違いなしだ。未読の方はぜひ読んでみて欲しい。

余談ではあるが、この本はロシアでは発禁となっているらしい。嘘くさい噂ではあるが、実際にありそうなところがまた怖ロシアである。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★☆☆
デビュー作であるがとても面白い。レオたちの今後がどうなるのか?そんなワクワク感も持てる小説だ。
チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

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