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本を買う際ネットでオススメの物を買うことも多いのだが、そうしていると自分の本棚から自分の色がだんだんと消えていってしまう気がしてならない。

なので書店で本を買うときは
①ネットでオススメのもの
②立ち読みして面白そうなもの
③立ち読みもせず、タイトル・カバー・出版社のみで判断するもの
を合わせて買うようにしている。
そんな買い方をしていると、たまに出会う本が「壁本」である。
きょうはそんな「壁本」の素晴らしい世界を見てみよう。




目次

  1. 壁本とはなんぞや?
  2. 「戦国武将のカルテ」を読む
  3. 壁本度

壁本とはなんぞや?

簡単に言ってしまえば各ジャンルに存在している所謂「地雷」のことである。
「読んだ後、壁に投げつけたくなるほどどうしようもない本」略して「壁本」だ。
「壁本」の多くはミステリー界隈に多く存在している。というのもトリックが成立していない・結末に納得がいかない(無理矢理・ご都合主義)・設定がおかしいなどの本が結構数存在しているからだ。そんなわけでミステリーは壁本との遭遇率が高い。

しかしながら世の中には好んで「地雷」や「壁本」に挑む猛者もいるようだ。
そして私は「壁本」に遭遇してしまうのも読書の醍醐味の一つだと考えている。くじ引きのようで楽しいのだ。「壁本」がいてくれるからこそ、「良書」が目立つのである。

今後「壁本」も読んでみようという方は上記③の買い方をすると遭遇率が高まるはずだ。知名度の低い作家の帯に「衝撃」とか「驚異の」とか「どんでん返しの連続!」とかあったら要注意。そこには壁本の匂いが漂ってる。

「戦国武将のカルテ」を読む

まずこの「角川ソフィア」でぶち当たるとは思ってもみなかったので驚きが大きかった、というのが一つある。まさかここで引き当てるとは!出版業界は複雑怪奇であります!

この本は2008年に出たものを加筆修正して今年の2月に文庫化したものだ。
私が気になった点を順次上げていこうと思う。

①帯には「最新医学で戦国武将を診断」とある。他の出版社からも同系統の本は出ているが、角川ソフィアならより詳しく、面白い解説が読めるに違いないと思っていたわけである。

が、そんなことは全くない!最新医学なんて全く使っていないではないかい!
出てくる診断は癌!癌!癌!
大酒呑みは脳出血や脳卒中!

うん。それ別に医者じゃなくても見当つきませんかね?
日本人の癌による死亡率は相変わらず高い。昔もそうだったろう!と適当に書けば大体あたるはずである。

さらにタイトルに「カルテ」とあるにも拘らず、カルテらしきものや、詳しい詳述は一切ない。

②真田昌幸について
九度山に流されてからの昌幸である。
たしかに晩年、信之に宛てた手紙には「身体も弱り、なんとか自分を慰めたいから若駒を送ってほしい」というものがある。そしてその地で病没した昌幸を筆者は「無様」と切り捨てる。
が、果してそうだろうか。最後の散り際が良くないというのだが、では上田城合戦終了後切腹していれば良かったのだろうか。いやいや、九度山に流された当時昌幸がそこで終わりだと考えていたとはとても思えない。当然なんとか脱出し一泡吹かせようと考えていたはずだ。

さらに真田親子は当然当初は死罪だった。そこを本多忠勝・真田信之の助命のおかげで流罪となったのだ。それを考慮してもまだ筆者は「切腹すべき」と言うのだろうか? ここで切腹しては忠勝と信之の顔に泥を塗ることになるとは考えなかったのだろうか。

③宇喜多秀家について
関ヶ原後八丈島へ流罪となった秀家。そこでの秀家を筆者は「いつも飢えて死の臭いを放つ秀家は厄介者で扱いも粗略だった」と記述している。
島民からも疎んじられ、餓死寸前であった宇喜多秀家が八丈島で分家を三つもおこし、さらに84歳までも生きられるものだろうか?

ここでは八丈島の宇喜多秀家へ前田藩から仕送りがあったことは一切触れていない。
さらに迷惑な厄介者と書かれているが、実際のところは高貴な身分ということで厚遇され、島の役人とも婚姻関係があったようである。さらに筆者は「仏門に深く帰依した僧侶であったと考える」と述べているが、それなら秀家を疎んじるということはさらに無くなるはずである。

ちなみに佐渡への流罪は地獄だが、八丈島は比べると天国のようであったらしい。

④諸所の細かい武将の上げ下げ
簡単に言ってしまえば2008当時から時代が止まっているのでその武将に対する考えが古い。信長下げ・義元下げは酷い。特に義元の「すごいデブだから馬に乗れませんでした」というのは酷い。そのような説が根強く残っているのは事実だが、それが事実かどうかも分からないしほとんどが後世の創作と言われている。実際甲冑姿の肖像画にはそんなイメージは全くない。せめて「~という説もある」とすべきであった。

⑤作者の個人的思想・現代人の思想の押しつけ・個人語り問題
これが一番の問題で、当然当時の武将や人間たちがどう考えていたかという立場から考察すべきであるのに、現代の日本人の視点や価値観からこうだ!と決めつけている個所が多々ある。
たとえば「籠城の際熱い風呂や温かい布団で寝れなければストレスが溜まってしまう」とあるがこれはどうなのだろうか。当時戦に参加していた武将や農民は皆「熱い風呂に入って温かい布団にくるまれて寝る」という生活を送っていたのだろうか?

また「切腹」・「討死」・「老衰死」は良いが、「刑死」・「病死」は無様というのはどうなのか。
特に老衰死と病死は非常に曖昧だ。作者の立場になって考えると切腹すれば皆あっぱれとなるがそれでいいのだろうか。

さらに「人が死ぬと殯を催し~」とあるが「殯」は基本皇室や貴人の葬送儀礼に使う言葉だろう。この書き方では一般人のあいだでも「殯」という文化が浸透し、言葉も使われていたと見られかねない。
一般人の場合は「殯」を使わなくとも鳥葬なんかが近いのではないだろうか。

最後にこの「8章」はほとんどが自分語りである。武将のカルテとはほぼ関係ない。これではこのテーマで書こうと思ったが書けなかったので自分語りをしました!と思われても仕方がない。

※あくまで個人の感想です

壁本度

壁本度★★★★☆
角川ソフィアで壁本に遭遇するとは思っていなかったので衝撃は大きい。星5にならなかったのは頁数。268Pと少ないので時間の無駄を省ける点がマイナス1に繫がった。
戦国武将のカルテ (角川ソフィア文庫)

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