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カテゴリ:国内小説 > ミステリー

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限定復刊で大きな反響を呼んでいた泡坂妻夫「湖底のまつり」が完全復刊し、全国の書店で買えるようになると同時に大きな反響を呼んでいるようだ。

美しくなったカバーと共に、帯には読み手の好奇心をそそる文字がいっぱいだ。今日はそんな「湖底のまつり」を読んでみようと思う。

目次

  1. 奇術師・泡坂妻夫
  2. 「湖底のまつり」を読む
  3. オススメ度

奇術師・泡坂妻夫

1976年に「DL2号機事件」で幻影城新人賞に佳作入選し、46歳で作家としてデビューした遅咲きの小説家である。遅いデビューでありながら体力のいる創作活動を多くこなし、数多くの小説を書き上げている。また様々なトリック・文体を使いこなしミステリーに限らず多くのジャンルを手掛けた。

1978年には「乱れからくり」第31回日本推理作家協会賞
1988年には「折鶴」泉鏡花文学賞
1990年には「蔭桔梗」第103回直木賞を受賞している。

さらに本物の奇術師としても著名であり、創作奇術に貢献した人に贈られる「石田天海賞」を作家デビュー前の1968年に受賞している。このことからも常日頃から「トリック」に親しんでいたことが窺われる。「生者と死者」に見られるような読者を楽しませることを意識した小説は奇術師としての経験、観客を驚き楽しませるというところからきているのかもしれない。

また実家は東京神田で「松葉屋」の屋号を持つ「紋章上絵師」である。
そんな関係で「家紋の話」などのエッセイを執筆していたりもする。まさにエキセントリックな小説家である。

「湖底のまつり」を読む

「なるべく予備知識を持たずに読まれることをお勧めします」と帯にもあるので、詳しくは語るまい。
が、一つだけ言いたい。
「東京創元社はセールスが上手いな!」
と。もはやこれに尽きるのではないだろうか?
この本を手に取り、読み終わった後に脳裏に浮かんだのは中町信の「模倣の殺意」だ。これは決して中身やトリックが似ていると言っているのではない。セールスの仕方が似ているのだ。

「模倣の殺意」もおそらくかなりの部数を販売したはずである。そしてこちらもネームバリュー的にも同等かそれ以上の部数を見込めるのではないだろうか?表紙カバーも今風に洗練しつつシンプルな物になっている。

読み終わった後の感想も「模倣の殺意」と同じく「入門書」という感じだ。
本が売れない売れないと嘆かれる昨今、生き残るには小説も進化していかないといけないわけで、やはり年代を経てしまったものはトリック的に劣ってしまう可能性があるのは仕方のないことだろう。

だが、1章で大よそのストーリーとトリックに見当がついて2章でほぼ確定的となってしまうのはさすがに早すぎる。

しかしながら「湖底のまつり」にはそれを補ってあまりある華麗な筆致と描写がある。
登場人物の心情描写も随所に埋め込まれた伏線とその回収も素晴らしい。

個人的には結末も好きなタイプのものだ。思わずニヤリとしてしまった。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
美しい筆致と伏線の回収は見事の一言。しかしながら著者の小説には他にも「しあわせの書」「乱れからくり」があるのでこれをベストと呼ぶわけにはいかない。が、面白いことは面白い。これ系のトリックの入門書には持って来いかもしれない。
湖底のまつり (創元推理文庫)

泡坂 妻夫 東京創元社 1994-06-01
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心の闇、というものは中々消えるものではない。
それを心因として「トラウマ」が生まれることもあるようだ。それはしばしば私たちに悪夢を見せる。

そんな暗い雰囲気の小説を得意とする作家に道尾秀介氏がいる。
今回は今年の一月新潮社から文庫化された「貘の檻」を見てみようと思う。




目次

  1. 人間を描く・道尾秀介
  2. 「貘の檻」を読む!
  3. オススメ度

人間を描く・道尾秀介

道尾氏と言えば、2005年に発刊され賛否両論で話題となった「向日葵の咲かない夏」や月9ドラマ原作「月の恋人」、2012年に映画化された「カラスの親指」が有名だろう。
ミステリーランキングにも毎年のように名を連ね、2011年には「月と蟹」で直木賞を獲得した作家でもある。

さてそんな道尾しであるが、「背の眼」で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞してデビューに至る。このデビュー作は今のスタイルとは全く違い、良い意味で大衆小説として面白く読める。なので最近の小説や、暗い雰囲気の物しか読んだことがないファンは驚くに違いない。この「真備シリーズ」は所謂「ミステリー」をやっているのである。

いやいや、ミステリー作家なのだから当たり前でしょう?と思われるかもしれないがそうではない。ミステリーにも様々な種類が存在しているが、このシリーズはそれこそ「犯人当て」に主眼が置かれているように思われる。

犯人当てじゃないミステリーなんてあるのか、と思われるかもしれないがミステリーという奴はそんなに懐の狭い奴ではないのである。

謎が提示され、その謎が解決される。
これで一応はミステリーの体裁は保っていることになる。「何故今朝私の目ざましが鳴らなかったのか」とか「机の上から消しゴムが消えたのはなぜか」とか「この手紙は誰が書いたのか」とか、どんなにくだらない謎であっても提示され解決されればそれで良いと言える(但し、その謎を読者が面白いと思ってくれるかはまた別問題だが)

その「謎」を書くにあたって、「殺人→犯人当て」という流れが一番書きやすく、刺激的で、読者を楽しませることができるであろうために多くの作家がチョイスしているにすぎないのである。

では今の道尾しはどうだろうか?
道尾氏が書いている小説の多くは間違いなく「ミステリー」だが、主眼は「犯人当て」ではない。つまり「真犯人がすぐにわかった=つまらない」という批評は的外れだということになる。
道尾氏はミステリーを「人間を描くために最適な道具である」と発言したことがあったはずである。氏が表現したい「人間の醜さ」や「争い」、そして「人間とはちっぽけな、無力な生き物にすぎない」というドロドロしたものを描くために「ミステリー」を使っているにすぎないのだ。

「貘の檻」を読む!

それを踏まえた上で「貘の檻」を読んでみよう。
「向日葵の咲かない夏」や「龍神の雨」にみられるような頽廃的で陰惨な雰囲気。文章から立ち上る黒い靄のようなものが見えやしないだろうか。確かに読んでいて嫌な気分にもなる。しかしそれはこの小説を通して現実世界の自分や、周りの人間を見ているからではないだろうか?

非現実の世界を味わう、体験するために小説を読みながら、道尾秀介という作家は我々の前にこれでもかと人間のイヤな部分を見せつける。

帯びに騙されてはいけない。この小説にあるのは驚愕のトリックでもなければ驚きのどんでん返しでもない。ただただ人間のイヤな部分が横たわっているだけである。

ただ一つ。道尾氏の小説は結構な確率で不幸になって終わり、その後も苦労が絶えないであろうことが予想されるものが多いが、この「貘の檻」に関しては微かな希望が見えている気がするのだ。確かにありがちな、二時間ドラマのような陳腐な終わり方かもしれない。しかしそこには救いがある気がするのだ。

そしてこの小説は辰男が過去から脱却し、漸く自分の人生を歩み始めることが出来るであろうことを予感させる、辰男の成長物語であると同時に、俊也の成長物語でもある。多感な時期の少年の心情の移り変わりにも注目したい。


オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
夢の解釈や、主人公が聞く音など解明されない謎もあるが、それをどう捉えるかで面白さがかわる小説ではないだろうか?
貘の檻 (新潮文庫)

道尾 秀介 新潮社 2016-12-23
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御嬢様学校というものは今も昔も羨望の的なのだろうか?

実際の御嬢様学校の実態などはまったく私はわからないが、少なくともこの「暗黒女子」の世界においては生半可な覚悟では生き残れない苛酷な世界のようである。

今日は現在映画公開中でもある「暗黒女子」を見てみようと思う。




目次

  1. 秋吉理香子ってどんな人?
  2. 「暗黒女子」を読む
  3. ネタバレ感想
  4. オススメ度

秋吉理香子ってどんな人?

秋吉理香子氏は2008年「雪の花」でYahoo!Japan文学賞を受賞。2009年に雪の花を含む短編集でデビューした作家だ。他にも「聖母」「自殺予定日」「サイレンス」などの小説が現在刊行されている。

「暗黒女子」を読む

まず読んでみて思ったのは、作者は短編形式のほうが得意なのだろか? ということだ。
他の小説を読んでいないのでなんともいえないが、デビュー作も短編集のようだし、二作目にあたる本作「暗黒女子」も短編集のような形式だ。短編集は昔から売れない売れないと言われ続けているだけに、二作目はなんとか長編に持って行こうとした結果の構成だったのではないかと思われる。

そしてその短編集形式の構成が上手く機能しているのがこの「暗黒女子」だ。
小説内の人物も語っているように、学校内では主導権争いによる駆け引きが日々行われている。「誰かを貶め踏み台にし自分が上に行く」という学内生活の縮図を短編集にすることで巧く表現しているように思える。

作者が女性だけあって、現実世界の女子会もこんなことが頻繁に行われているのではないか?と疑ってしまう。表面上は仲良く見せても腹の探りあい。誰がどんな男と付き合っているか。どんなブランドを身に着けているか。どんな店をしっているか。服装は。等々どうにかして誰かの上に立ちたい、主導権を握りたいという裏の目的があるのではないだろうか。

「暗黒女子」は現在映画公開中である。
映画公開は知っていたがキャストを見て驚いた。主演に一時世間を賑わせた清水富美加の名があるではないか。また平愛梨の妹である平祐奈も名を連ねている。映画のほうは無事公開もされBD販売も決定しているそうだ。
さらに映画公式HPの「裏予告」が大変怖い。鳥肌が立った。こちらも一度見てみることをお勧めする次第である。

ネタバレ感想

面白いのだが、ミステリーとして見るとやはり弱いのかなと思ってしまう。
おそらくミステリーを読み慣れた読者は「目次」を見た時点でおおよそのストーリーと流れ、犯人と結末が分かってしまったのではないだろうか。自作小説でお互いに非難し合い、堂々巡りになるが実際手を下したのは一番の親友で、自分が主役に成りたかったからというパターンである。

そんなことを考えつつ読み進めると、案の定そのままの流れとなってしまう。
しかし三人目の自作小説内で担当顧問である「北条」の存在が明らかになると、「主役に成りたかった説」が少し揺らぐ。というのもこの女子が主役の小説で男性が出てきているということは、どう考えても登場人物の中のだれかと出来ているに違いないからである。犯人は間違いなく小百合であることを考えると、実は北条と小百合が出来ていたが、それを知りつつ応援しつつも裏で北条といつみが出来ているという、寝盗られ動機なのかなとも考えてしまう。

しかし実際は単純なように見えて深いものだ。
「互いに告発し合う輪」の中に入っていなかった小百合はどう考えても怪しい存在だなとこの頃になれば皆気がつくだろう。そして動機は結局のところ「自分が主役になるため」というものだった。
 
しかし、ここからが難しい。果して本当にいつみは死んでいるのだろうか?

まず小百合がいつみを殺す必要があったのだろうか? と疑問が持ち上がる。
普段からいつみの側にいて、いつみの秘密にも協力しており完全に感化されている小百合である。とするならば、殺すのではなくいつみと同じように相手の弱味を握りコントロールするのではないだろうか。小百合はいつみどころか澄川家に対しての弱味を握っているようなものだ。何も主役を交代するために殺す必要があったのだろうか。

この説をとると、結局のところいつみは生きており、いつみと小百合の復讐劇となる。メンバー達には恐怖を味わわせ、いつみに新たな生活を守るために自分が殺したことにし、それを仲間たちと分かち合い自分が犠牲になるというものだ。素晴らしい友情ですね。

しかしながらこの説では小百合だけ白いままでフェアではない。
とするとやはり「カニバ」に戻ることになる。この場合、伏線や環境設定がしっかり結末と絡んでいるので恐らくはこちらが正しい(様々な疑問点は残るが。例えば解体したとして、メンバーはその臭いに気づかないものなのか?という問題。闇鍋では嗅覚も敏感にとあるのだし、気づいてもおかしくはない)のだろうと思う。というのも、キリスト教系のお嬢様学校という陳腐な設定が生きてくるのだ。

小百合がいつみを殺したのも過度の信仰心故と考えれば納得できる。今まで崇拝していた偶像を突然失ったら急に反教徒になる現象を考えれば自然なことだろうと思えるのだ。また、最後のカニバの場面でもキリストの身体を分け与えるという例を持ち出し上手くキリスト教に繋げている。やはりこちらの方がしっくりくる。

しかし、小百合の今後はどうなるだろうか。
自分自身の罪を仲間と共有し、しかも仲間達の弱味を握る脅迫者の立場にたった小百合。いつみよりも物事の計画を立てるのが上手く、いつみの側で様々なことを学んだであろう小百合。「怪物」と表現するのがふさわしいようだ。しかしながら、御約束通り、脅迫者は殺されるし怪物は退治される運命にある。主役交代の日は意外と近いかもしれない。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
終わりよければすべて良しの好例だろう。ミステリー初心者にもイヤミス初心者にもお勧めだ。
暗黒女子

秋吉 理香子 双葉社 2013-06-19
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平安貴族や武家貴族、公家や華族など日本にも様々な貴族階級の人間がいた。

そんな貴族たちについて私たちはどんなイメージを持っているだろうか?
今日はおよそ貴族らしい探偵が登場する「貴族探偵」を見てみようと思う。




目次

  1. 麻耶雄嵩ってどんな人?
  2. 「貴族探偵」を読む
  3. 「こうもり」について(ネタバレあり)
  4. ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと
  5. オススメ度

麻耶雄嵩ってどんな人?

麻耶雄嵩氏もあの京大推理小説研究会出身である。そこで知り合った綾辻行人・法月綸太郎・島田荘司の推薦をうけ1991年「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」でデビューした。

さらに2011年には「隻眼の少女」で第64回日本推理作家協会賞・第11回本格ミステリ大賞を受賞。2015年には「さよなら神様」で第15回本格ミステリ大賞を受賞した。この「さよなら神様」は7月に文庫化も予定されており、そちらも楽しみである。

また麻耶氏は「独特の世界観」や手法が特徴的であり、その癖のある作風はマニアの心を掴んで離さない。だが、前情報なしの初見で挑むといささか面食らうこともあるので注意が必要だ。

「貴族探偵」を読む

「貴族探偵」は2010年に単行本で刊行され、2013年に文庫化された。この本に収録されているのは五つの短編なのだが、それぞれ発表された時期に開きがある。
・「ウィーンの森」は小説すばる2001年2月号
・「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は小説すばる2001年9月号
・「こうもり」は小説すばる2007年4月号
・「加速度円舞曲」は小説すばる2008年4月号
・「春の声」は小説すばる2009年9月号
と、トリッチ・トラッチ・ポルカとこうもりの間は約6年ほど期間があいている。
ネットでは「こうもり」以降は出来も良く面白いが、前二作は微妙な出来だと目にすることが多いが、果してそうだろうか?

確かにこれがシリーズものではない単発ものだとしたらその評価には納得できるが、短編集として編まれた場合前二作は導入と定着の仕事をしっかり果たしていると思うのだ。
「ウィーンの森」で「貴族探偵」とはこういうものだと読者に紹介し、「トリッチ」では毎回このパターンですと読者に釘をさす。そして「こうもり」で活躍を見せつけ、余韻をのこしつつ去って行く。
とすると、「ウィーンの森」で一番着目すべきは「貴族探偵」がどのように我々の前に現れたかではないだろうか。事実「ウィーンの森」での登場の仕方が一番図々しく、印象に残るようになっているはずだ。

またこの「貴族探偵」は麻耶氏の他の作品と比べると癖が比較的抑えられている気がするのも事実だろう。「麻耶ワールド」なるものを感じることは少ない。しかしながらそこはやはり麻耶氏の書く小説である。この貴族探偵は探偵と言いつつも自身は全く探偵らしいことはしない。いわゆる安楽椅子探偵でもない。そこに麻耶氏の拘りが感じられる。

また登場人物の名前が変に奇を衒っていないのが良い。普通の探偵小説であれば探偵が推理するのでどんな名前をつけようが注目されることになる。しかし「貴族探偵」では貴族探偵が探偵の役割を放棄している。推理を披露するのは召使いたちなのだ。ではどうやって「貴族探偵」の存在感をアップさせるか。それは召使いたちの名前をよく耳にする名字にすることで解決していると思われる。それぞれ山本・田中・佐藤とすることで変にかれらがでしゃばって来ることがないのだ。彼らを下げることで貴族探偵を上げていると思われる。

「こうもり」について(ネタバレあり)

各方面で話題の「こうもり」。確かにすばらしい出来だった。
これを読んで思い出されるのは麻耶氏の長編小説である。
トリックとしては逆叙述+替え玉
しかしこの逆叙述というものが曲者で、登場人物は知らないが、読者は知っているというものなのだ。登場人物はてっきり知っていると思っていたと、ここに驚きが生じる。
今回の場合、絵美と紀子が貴生川を大杉と思っていた、つまり二人一役を認識できていなかったこと、そこに貴生川を貴生川+大杉の二人に見せかける一人二役のトリックが働いている。
また読者に対して貴生川を貴族探偵と誤認させること、絵美の彼氏だと思わせることで貴生川を嫌疑の外に置くよう仕向けている。
伏線もしっかりあるのだが、非常に巧妙に仕組んであるためなかなか気づかなかった。短編でよくここまでという素晴らしい出来である。

ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと

初回放送が終わった後は大絶賛の嵐だったらしい。原作ファンも嵐ファンも納得の出来だったと。それは本当だろうか? 私は正直見ている最中に恥ずかしくなってきて消してしまった。

昨今視聴率が下がり、製作費が少なくなる、そしてまた視聴率がとれないというループに嵌っているドラマ。脚本家の書き下ろしにしても率がとれないのであまり払えない。そこで各局が血眼で探しているのはすぐドラマ化できそうな「ミステリ小説」らしい。そしてドラマ化の必須条件となっているのが、「美しく、強い女性の活躍」なのである(イケメンで強い男性ではだめらしい)。そうして見てみると、たしかに最近ドラマ化されているものの多くはこの必須条件にほとんど当てはまるようだ。原作には全く関係ない女性キャラが登場するのはこういう理由がある。そんなわけで「貴族探偵」は麻耶氏が意識していたかどうかはわからないが、ドラマ化の必須条件を満たしていたといえる。

また各話にその話限りのヒロインを登場させることができるのもこの小説の強みであろう。これで女性役もさらに確保でき、パターンの打破に光りがみえる。さらにこの「貴族探偵」が短編集であったことも有利に働いたはずだ。

「すべてがFになる」のアニメとドラマを思い出していただきたい。
まずドラマはF~パンまで前編・後編という形で放送したが、これは成功したとは言い難い。というか酷かった。一つの話を二週に分けて放送するのは最終回だけなら特別感があっていいかもしれないが、常時だとこちらの興味を失わせかねない。が、長編を一時間枠でやるのはやはり無理がある。

一方アニメは1クールすべてFを放送した。だが、これだと毎回谷・山を作りづらく見ていて飽きてしまう可能性がある。

だが、短編では作者があらかじめ谷・山を作っているので深く考える必要がない。
そう。深く考える必要はなかったのだ。原作のまま、メイドも変に年上にせず、若いままでよかったのだ。そこにギャップがあったのだ。それを構成か脚本家か知らないが原作の良さを完全に潰してしまっている。

そして駄目押しは「鼻形雷雨」というオリジナルキャラクターの登場だ。まず名前が駄目。せめてもっとオリジナリティあふれる名前にしてほしい。しかもこの性格付けが最悪である。貴族探偵の周りは良くも悪くも個性的な人物達で固められている。なので彼らを周囲から浮いているようにしなければならないはずであった。つまり個性的な人物は貴族探偵の周辺だけで良かったのだ。オリジナルの警察キャストを出すのであれば、こんな三文芝居のような人物ではなく、しっかりとした警察ドラマのような人物を出すべきであった。鼻形に関しては最近不要論が起っているらしいが、そんなもの最初から不要である。叩き上げの段階でもう終わっている。キャストが豪華で、実力がある人たちも揃っているだけに本当に勿体ない。

そして小説を読み返して思ったが、この「貴族探偵」はコメディの皮を被った別ものなのでないか。コメディとして考えてキャスト組んだ場合たしかにベストの布陣に見えるがそうでなかったのではないか。だからちぐはぐ感が漂っているのではないだろうか。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★☆☆
癖もなく万人受けするはずだ。ドラマを見限った人も小説だけは読んでみて欲しい。
貴族探偵 (集英社文庫)

麻耶 雄嵩 集英社 2013-10-18
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辞書を引くと「クリーピー」とは「身の毛がよだつような、気味の悪い」という意味だと教えてくれる。

本書もそのタイトル通り、どうも気味の悪い内容となっている。サスペンスホラーよりの本書を今日は見てみようと思う。

目次

  1. 作者の前川裕ってどんな人?
  2. クリーピーを読む
  3. 生きているのか死んでいるのか
  4. オススメ度

作者の前川裕ってどんな人?

作者の前川氏は法政大学国際文化学部の教授である。専門は比較文学・アメリカ文学だそうだ。
故に本書が最初の出版というわけではなく、英語関連の本(英会話・入試英語等)が前から出版されている。

小説に関しても「クリーピー」より前に「人生の不運」(現在は「深く、濃い闇の中に沈んでいる」と改題し、文芸社文庫から刊行されている)が出ているが、こちらはおそらく自費出版であったろうと思われるので、「クリーピー」が商業作家デビュー作ということになる。

そんな前川氏であるが、2011年に第15回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞、翌2012年に本格的に作家デビューを果す。やはり教授という仕事柄、文章を書き慣れているだけありデビュー作ながらとても読みやすい(ただし「~た。」が多いが)

クリーピーを読む

ミステリーの中でも「サスペンスホラー」よりと思われる本書。
だが、純粋な意味での「ホラー」とはまた違った怖さが潜んでいる。

本作の主人公は「高倉」。職業は大学教授である(小説内における昨今の大学教授は現実以上に大忙しである)。これは前川氏自身の投影であろう。

前川氏自身も教授ということで、ゼミや講義などで多くの学生たちと接してきたのだろう。学生の服装や話し方、ゼミの後の飲み会など、自身の経験を上手く使い小説内のリアルさを増している。

さらに穿った見方をすれば「ああ、この人(教授や講師の方々など)は普段こんなふうに学生を見ているんだな」という読み方も出来なくもない。前川氏自身の経験談なのではないか? と勘繰ることもでき、話の大筋とは全く関係ないがそんな楽しみ方もできるのも嬉しい。

さて物語は犯罪心理学者である高倉のもとに事件分析の依頼が届くことから始まる。その依頼以降、高倉の周囲で事件が頻繁に発生するようになってしまう。そして自身も事件に巻き込まれていく。

この犯罪心理学者の元に事件の分析が届き、そこから様々なことが発生するという流れだが、主人公の職業と結びついている(ように感じる)ので、物語の中に入っていきやすい。
この小説で最も重要なのがこれで、この話が現実でもあり得そうと思わせることなのだ。これがなくなると本書の面白さは半減どころか、成立も難しくなってくる。サスペンスとホラーの醍醐味が失われかねないからだ。だからこそ主人公の職業も前川氏自身が一番よく知っている職業にし、リアルさを出すために随所で工夫をしている。

だが、「クリーピー」はただ怖いだけでなく、アッと驚く展開も待っているので読み応えのある小説となっている。

そしてこの小説は現在社会へ問題を投げかけているようにも感じられるのだ。
たとえば、この小説の一番の肝、怖さの元は「隣人は誰なのか?」ということになるだろう。その疑問が不安に、そして確信へと変化していく展開が面白く先が読みたくなるのだが、これは現在だからこそ起こる不安ではないだろうか?
一昔前は近隣と付き合いが無い方が異常で、そんな状態を村八分と言ったりしていたはずだ。
だが村八分の状態でも火事や葬儀の場合は協力があったので、もしかしたら現在のほうがもっと稀薄かもしれない。だからこそ、近隣で事件が起こった時に疑心暗鬼に囚われる。
「隣に住んでいる人は善人だろうか?悪人だろうか? 生きているのか?死んでいるのか? まったくわからない」という状態が発生するのは現在だけだろう。

隣近所の付き合いが親密であれば、例えば、自分が仕事に行く間子どもを見てもらうということも可能であった(何かされるのではないか?という考えは無いというよりも恐らくタブー)
しかし現在はたとえ親密であったとしても自分の子を預けるということはしないだろう。相手を信用できないからだ。(ではなぜ他人であっても保育園や幼稚園には安心して預けれらるという考えが揺らがないのかは疑問だが。ただし最近ではそれすらも安心できない事件が起きている)

そんな問題点を含んでいるのがこの「クリーピー」だ。現代生活の不安や疑問を上手く昇華させている。

生きているのか死んでいるのか

若干のネタバレになるので未読の方はスルーしていただきたい。
本書では結局「矢島」は死んでおり、そのことを知っているのは限られた数人だけであり、「矢島」は現在も逃走中となっている。

だが果してそうだろうか?
高倉はあくまでも園子が「矢島だ」と言った死体を見ただけである。この死体が矢島でない可能性は大いにあり得る。さらに園子も矢島を庇う理由があるのだ。
もう一つ疑問点がある。いくら閉め切った部屋とはいえすべてのものの侵入を防ぐことはおよそ不可能に近い。そう。虫だ。そんな状況下で十年も死体があることを隠し通せるだろうか。それに十年ものの死体に皮膚が付いているものなのだろうか。ミイラ化したとしたら都合がよすぎるではないか。

流れ的にはやはり、死体は替え玉、本人は生きていて逃走中という方がしっくりくる気がするのだ。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
本書は去年西島秀俊主演で映画化されている。キャストも豪華で、特に香川照之の好演が見どころだ。
クリーピー (光文社文庫)

前川 裕 光文社 2014-03-12
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その小説内に書かれていることほぼ全てが伏線であり、またメタ的要素を多分に含んでいる小説があっただろうか?

今日紹介する「首無の如き祟るもの」はそんな小説の一つだろう。これを読めばあなたもきっとミステリー、いや読書が好きになるはずだ。あなたをきっと驚きの連続へと導いてくれる。

目次

  1. 三津田信三とは?
  2. 流浪の怪奇小説家・刀城言耶
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. オススメ度

三津田信三とは?

ミステリーランキングの常連と言っても過言ではない三津田氏。
代表作は「刀城言耶シリーズ」や「死相学探偵シリーズ」だろう。そんな三津田氏は出版社勤務を経て、2001年「ホラー作家の棲む家」で小説家デビュー(1994年に鮎川哲也が編集を務めた公募アンソロジー「本格推理3 迷宮の殺人者たち」に「霧の館 迷宮草子」が採用されている)

その後、ホラー小説やミステリー小説を精力的に発表を続け、2010年には「水魑の如き沈むもの」が第10回本格ミステリ大賞を受賞した。

刀城言耶シリーズは「幽女」以降出ていないのだが、今年こそはと期待している。

流浪の怪奇小説家・刀城言耶

そして「刀城言耶シリーズ」の多くで探偵役を務めるのが刀城言耶だ。
元華族の血筋である。ジーンズを愛用し、行く先々で奇異な目で見られている。そして何か面白そうな「怪異譚」が聞けそうとと分かると態度が豹変。場所相手を問わず、相手が話すまでしつこくまとわりつくスッポンのような人物だ。しかしながら最初から怪異を信じきっているわけではなく、合理的解釈が必要な場合はそのような判断を下す。

しかしどこか憎めない人物である。その点では「金田一」に近いものを感じる。そんな刀城言耶が事件を引き寄せるのか、それとも言耶が事件に引き寄せられるのか。出かける先々で事件に遭遇し、不本意ながらも探偵役を務めることとなる。

そして時系列だが、
「厭魅」→「凶鳥」→「首無(事件発生)」→「山魔」→「水魑」→「幽女」→(首無事件解決)となりそうである。番号順に読むと微妙につながらない時があるので、帯の順番で読むことをお勧めします。

ちなみにこの「刀城言耶シリーズ」はほとんどの作品が何かしらのミステリランキングに選出されている。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

旧家・怪異伝承・首無し死体・どんでん返し等々ミステリ好きには堪らない要素満載である。
しかし、怪異現象や諸所の設定に現実味を持たせるためにやはり文章は多くなっており、600P越えとなっている。だがページ数を気にさせないほどの面白さがあるので、量はさほど気にはならない。

この要素(旧家の対立・双子など)だけ見ると、横溝の二番煎じか……と思われる方もいるかと思うがそうではない。横溝やカーの世界では装飾でしかなかった「ホラー」という要素をミステリーと対等の関係で融合できないだろうか? と思案した結果生まれたのが「刀城言耶シリーズ」なのだ。そして「首無」ではそれが結実したと言ってよいだろう。

だが本作はその中でも異質である。というのも「言耶」はほとんど登場しない。
この物語は斧高という少年の視点と、私こと高屋敷妙子の視点で語られている。言耶が登場するのはほんの数場面しかないのだ。

また、今作にもシリーズ恒例のどんでん返しの波状攻撃、さらに○○の分類(今回は顔の無い屍体の分類)もしっかり存在しています。

さらに今回も参考文献にちゃっかり架空の人物を混ぜたり(閇美山犹稔)、「書斎の屍体」(架空の雑誌)に実在人物を登場させたり(幾守寿多郎以外は全員実在の人物。タイトルは微妙に変更してある)遊び心満載である。

また三津田氏も「江川蘭子」が好きなのか、ちゃっかり登場している。

実際読んでみて~ネタバレ有り~

ではネタバレありで見てみよう。
未読の方はスルー推奨である。


①江川蘭子に関して
以前も書いたが序盤(~50Pぐらいか)に緻密な伏線を張り、かつ上手く回収できている作品は傑作になる可能性が高い。本書も例にもれず、わずか3P目で犯人に関わる重大な伏線(~その一部は)が張られている。また「はじめに」でも核心にせまる重要な伏線が多く張られているが、中でも「一連の事件の真犯人が私(=書き手)自身ではないか」という疑問に対しての否定が後々重要となってくる。さらにここでは蘭子の説明は「本格推理」作家となっている点も見逃せない。また細かいが、「江川蘭子」は世が世なら侯爵という部分。華族令を参考に見てみて欲しい。

②長寿郎と妃女子に関して
ここが本作の最大のポイントである。これが解ければ一気にほとんどの疑問が解決へと向かう。
まず注目すべきは出産の際のカネの行動と兵堂の表情だろう。出産は現在でもかわらず重要なものとして見られている。出生率が低かった過去では尚更、さらに跡継ぎが絡めば重要度は増すのは当然だろう。そこでカネは「禁厭・呪い」を施しているのだが、今の考えから行けばその呪いが意味するものは安産であろう。しかしながらここに淡首様という問題が絡むことでその禁厭は別な意味も併せ持つことになる。安産は当然として、いかにして神から逃げるかである。子供は「七つまでは神様の子」であると信じられてきた経緯がある。そんな事情からカネは強力な禁厭を施すことになった。そこを考えてみると、女の子が生まれた!と聞いた時の兵堂の表情にも納得が行くだろう。
また、死亡後の葬儀の仕方である。なんとなくだが、私は勝手に三津田氏は「葬儀」の方法や種類に強い興味を持っているのではないかと考えている。なので葬儀について考えると結構謎が解けるパターンも多いのだが、今回も葬儀が重要な伏線となっている。土葬が中心の村で(1967年時では火葬67%、土葬33%だったらしいので、この時代設定がそれよりも以前であれば土葬の割合も増えているであろうと考えられる。よってそこまで土葬は珍しいことではない)火葬をしたという点に着目してほしい。ミステリーで何かが燃えたらそれは「何かを隠そうとしている」と疑うべきである。

③刀城言耶について
この「首無」は「刀城言耶」シリーズのナンバリング作品ではあるが、言耶はほとんど登場しない。
第10章・旅の二人連れ以降、言耶は一切登場していない。ではこの時「本物の言耶」はどこにいたか。「首無」の事件の裏で、奥戸の「山魔」事件と関わり合い、そっちに行っていたのである。これは「水魑」内での会話で確認が取れる。また同時に「水魑」では、まだ「蘭子」が生きており、「血婚舎の花嫁」を連載し始めたことが語られている。
解決編で登場する言耶が本物ではないと考えることができる要素もある。
・「15歳は下に見られるでしょ」という発言
・未知の怪異譚を聞いても無反応
など細かいがしっかりと伏線が張ってある。

ではこの場面に登場する「言耶」は誰だったのだろうか。
様々な考察が可能だ。これは実際読んでみて自分なりの考えを導き出したほうが楽しいだろう。

オススメ度

オススメ度★★★★★
面白さ★★★★☆
鮮やかな伏線回収と緻密な設計で書かれた本書を一度読めば他のシリーズを読まずにはいられなくなるだろう。
首無の如き祟るもの (講談社文庫)

三津田 信三 講談社 2010-05-14
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数多くの小説が毎年出版される中、かつてここまで狂ってる小説があっただろうか?

2006年に出版されるやいなや様々な方面で物議を醸し出したこの「独白するユニバーサル横メルカトル」そんな本を今日は見ていこうと思う。


目次

  1. 怪人・平山夢明
  2. そして被害は拡大す
  3. C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆
  4. Ωの聖餐
  5. 無垢の祈り
  6. オペラントの肖像
  7. 卵男
  8. すさまじき熱帯
  9. 独白するユニバーサル横メルカトル
  10. 怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男
  11. オススメ度

怪人・平山夢明

作者・平山夢明とはどんな人物なのだろうか。
平山夢明氏は実話怪談や、超怖い話シリーズ、東京伝説シリーズなど多くのホラー・怪談物を手がける傍ら、多くの短編集も発表している人物だ。

2010年には「ダイナー」(カバーとても美味しそうな写真!)で吉川英治文学新人賞最終候補。第28回
日本冒険小説協会大賞、第13回大藪春彦賞を受賞した。

そして問題の本書「独白するユニバーサル横メルカトル」は2006年に誕生。後に多くの被害者(?)を出すことになる――。

そして被害は拡大す

手始めに光文社刊「異形コレクションシリーズ/魔地図」に寄稿した「独白するユニバーサル横メルカトル」で、2006年の日本推理作家協会賞短編部門賞を獲得。たしかにこれはまだ納得できる。本書の中でもまだまとも(?)なので、一般人にも引かれることはないだろう。さらに「これはミステリーです!」と言われると、なんだか納得してしまいそうな出来である(実際ミステリー)

しかしどこで手違いが起ったのか、同タイトルの短編集が2007年度版「このミステリーがすごい!」で国内部門1位を獲得。「このミス」といえば年末ミステリー大賞の大御所である。そこで1位を獲得すれば、当然大きな売り上げが見込める。

――そこで何が起ったか?
これは憶測だが、このミスや文春ミステリーの上位に入った本を何も考えずに(下見せずに)買う層が多くいたのでは、と考えられるのだ。ミステリー買ったつもりが何だかおかしなものが紛れている。つまり異物混入事件である。その結果、多くの被害者を生みだすことに成功したのだ。(私もそんな一人)

そう。この本にあるのは狂気である。あらん限りのエログロ・残酷描写・胸糞描写を詰め込んだスプラッター寄りのホラー小説だったのである。ミステリーの皮を被ったホラーなのだ。

そんなミステリー成分少なめの短編集の中身を見てみよう。

C10H14N2(ニコチン)と少年――乞食と老婆

たろうくんを主人公とする現代版童話、暗黒童話のような物語。学校でいじめにあうたろうは、逃避行動からか子供が近づいてはいけない湖へと向かう。そこで一人のホームレスと出会う――

「冒頭になんてもん持ってきやがる!」
これが私の率直な感想である。立ち読みしたらそっと棚に戻すであろうこと間違いなし!
文体はですます調で、おとぎ話らしい雰囲気は出ている。しかし登場人物はそろいもそろって腹立つようなのばかりである。食事中読むことはお勧めしない。

読み終わったらもう一度タイトルを声に出して読んでみよう。脱力必至である。

Ωの聖餐

「俺」はとある事情から「ある動物」の世話を命じられた。しかしそいつのエサは人間の死体だった――

一話目とは異なりとにかくグロい。そしてなんだか臭い。
カニバリズムどんとこい!という方にはオススメだ。しかし、ただのカニバではなく、そこは作家である。少し面白い趣向が凝らしてある。

ちなみにカニバと聞いてもピンとこないかもしれないが、日本でも割と最近まで人間の内臓や胎児の黒焼きが病気に効くという俗信が信じられていたりだとかで、そんな事件が起きている。

無垢の祈り

義理の父からは暴力を受け、頼みの母は宗教に染まる。そんな家で暮らす少女が救いを求めたのは連続殺人鬼だった――

これが一番きつい。精神にダイレクトアタック。
女児が義父から虐待され、それが原因でクラスでもいじめられる。そして殺人鬼に援けを求めるしかない状態になっていても誰も助けようとはしない。見てみぬふりという現在の社会を痛烈に諷刺しているように思われる。

結末はどちらともとれる。だが本書は「ホラー」であり、救いがないということが「祈り」のテーマである気がする。そして伏線を踏まえて「それ」が何であるか考えるとふみがどうなるかは自ずと判明するはずだ。

オペラントの肖像

「オペラント条件付け」が徹底された世界。この世界では芸術が人を堕落させる悪であるとして批判され、所持しているだけで死刑となる。そんな芸術を信仰する人々を取り締まる主人公はひょんなことからカノンという女性を救おうとするが――

ディストピア小説。砂漠で発見したオアシスのような安心感を我々読者に与えてくれる。
SFの王道ではあるが、短編ではやはり無理があったか。中・長編で読んでみたいと思うがどうだろう。

卵男

連続殺人鬼である私こと「卵男」。奇妙な岩牢に移送され死刑になる日を待っていたが、ある日205号と名乗る男が現われる。私は205号と次第に会話をするようになるが――

これもSF色が強い。作品の出来、面白さではこの短編中トップクラス……なのだが既視感が強い。どこかで見たような。嵐の前の静けさ。

すさまじき熱帯

俺は一攫千金のチャンスを求め、熱帯にやってきた。組を裏切った奴を殺したら一億。俺は聞いたこともない国へと出発する。

「これはひどい」
ついに暑さでやられたか!?とまず作者の頭の中を疑いたくなるような内容。
ぶっ飛びどころか崩壊している。見どころは現地の人々が話す言葉だ。
「垂乳根のお釜崩れる毛脛かもかな!」(201頁)
こんな言葉を考えていた時の精神状態が知りたい。それとも本当に意味のある言葉の当て字だろうか。

独白するユニバーサル横メルカトル

自我を持つ私こと「建設省国土地理院院長承認下、同院発行のユニバーサル横メルカトル図法による地形図延べ百九十七枚によって編纂された一介の市街地道路地図帖」が目撃したことと、その顛末を淡々と語る。自我を持つ地図帖が見ていたものとは――。

表題作。ホラー・ミステリーのバランスも良く一番まともな内容になっている。故に感想は少ない。
擬人化した地図たちの会話を楽しんでみるのはいかがだろうか?

怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男

強迫性障害を持つMC。彼は拷問を生業としていた。しかしある日、拷問を受けても恐怖を示さない女性が送られてくる――

良くも悪くも無難な短編(ここまで読んだせいで麻痺している可能性もあり)
冒頭のピザ以外はまともな感じである。拷問の描写はあるにはあるが、非常にライトな出来となっている。

オススメ度

オススメ度★☆☆☆☆
面白さ★★★★☆
合計★五つ
自らすすんでこの小説を誰かに薦めるだろうか?
しかしながら今までにない境地の開拓や、既成概念の破壊には持って来いである。
独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)

平山 夢明 光文社 2009-01-08
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4月14日からTBSにて連続ドラマ化された「リバース」

放送元のTBS系列ではすでに「夜行観覧者」「Nのために」「往復書簡」がドラマ化されている。制作陣も変わっていないようすだ。これだけドラマ化されるのはおそらく視聴率がとれるのだろう。

今日はドラマ原作本「リバース」を見てみようと思う。ドラマは原作とは違った内容のようだが、どちらが好みか比べてみて欲しい。

目次

  1. 「湊かなえ」ってどんな人?
  2. ミステリージャンル「イヤミス」とは?
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレ有り~
  5. オススメ度

「湊かなえ」ってどんな人?

読書好きで「湊かなえ」を知らないという人はほとんどいないであろう。
今や「イヤミスの女王」とまで言われる湊氏。「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。そして聖職者から続く連作集「告白」が2009年に「第6回本屋大賞」を受賞。翌年には松たか子主演で映画化(「どっかーん」というインパクトの強いセリフを未だ憶えている人もいるのではないだろうか?)書籍も300万部を超える大ヒットとなり、一気に人気作家へとのぼりつめた。
湊かなえ=イヤミスという図式とともに、「イヤミス」というジャンルを世に広めた人物でもある。

しかもメディア化されたのは告白だけではない
映画は告白(2010年)に始まり、北のカナリアたち(2012年) 白雪姫殺人事件(2014年) 少女(2016年)など実に四作品

ドラマ化は境遇(2011年) 贖罪(2012年) 高校入試(2012年) 花の鎖(2013年) 夜行観覧者(2013年)  Nのために(2014年) 望郷(2016年) 山女日記(2016年)

など見てわかる通りデビュー以降毎年ドラマ化、もしくは映画化されている。現在刊行されている書籍の半分以上が何らかの形でメディア化されていることになり、そのことからも湊作品の根強い人気と数字の取れ高が安定していることが読み取れる。

ただけっこうぶっちゃけて言ってしまう人のようで「山本周五郎賞」受賞後のエッセイで同賞と芥川賞を痛烈に批判している。その気持はわからなくもないが。

ミステリージャンル「イヤミス」とは?

その湊かなえが広めたと言えるジャンル「イヤミス」とはいったいどんなジャンルなのだろうか?
実際、読んで字の如しなのだが「読んだ後、嫌な気持ちになる小説」を指すことが多い。

現在では湊かなえ・真梨幸子・沼田まほかるの三人を「イヤミスの三女帝」なんて呼ぶ人もいるようだ。
そんな代表作は湊かなえ「告白」、真梨幸子「殺人鬼フジコの衝動」、沼田まほかる「ユリゴコロ」などが特に有名なようである。

海外なんかだとジャック・ケッチャムの「隣りの家の少女」などが有名だ。これは結構「くる」ので元気がないときに読むことはお勧めしない。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

TBSで放送が始まった「リバース」であるが物語も中盤までさしかかっているようだ。
ただ数字は振るわない様子。原作とは違う内容のようだが、それがどう影響しているのか、落ち所をどこに持ってくるのか、とても気にはなっている。

さて小説の「リバース」である。
本書はいままでの湊作品とは少し違っている。今までの湊作品群は総じて主人公が女性であり、女性側からの視点が巧く描けていること、それとイヤミスがからみ合うことで女性からの支持を多く得てきたに違いない。

だが今作「リバース」は主人公が男性なのだ。この男性主人公は湊氏初の試みであり、作者の並々ならぬ意欲が見てとれる。

それともう一つ。湊氏の作品を読むのは「境遇」以来となったが、この「リバース」は湊氏の小説にしては珍しく、ミステリーと聞いて思い浮かべるミステリーに近い仕上がりになっているのだ。
言ってしまえば「犯人探し+意外な結末」のために入念に設計された長編ミステリーだ。普段の湊かなえ作品に慣れている湊ファンはおそらく「新鮮さ」を感じられただろう。
逆に普段は湊作品を敬遠している人からすれば、「こんな小説も書けたのか!」となり、やはり新鮮さを感じるに違いない。

では我々が期待する「イヤミス」の要素はないのだろうか?
それは安心して欲しい。しっかり存在している(今回は男性目線ではあるが)

実際読んでみて~ネタバレ有り~

ここからは少しネタバレありで書いてみようと思う。
解説にあるようにこの「リバース」という小説は「結末ありき」の小説であった。講談社編集部から「お題」が出されたのだ。そのお題にのっとる形で本書は執筆された。このネタバレ部分を見ているということは皆さん読後だということでお分かりだろうが、そのお題はこの小説の最後の結末を既定していると言ってよい。その結末へと導くために設計し、かつ自分の色もしっかりだしているこの「リバース」は傑作といえるだろう。

そのイヤミス要素も男性目線初挑戦とは思えないほどよく描かれている。
女性もそうでありように、男性にもリア充・非リア充のグループがあり、そしてその二つのグループの中でまた自分の立ち位置があったわけで(非リア充に近いリア充の下位グループとかキョロ充とか)学生時代の学級ヒエラルキーや微妙な友人関係、つかめぬ距離感や自身の立ち位置、挙げ句の果てには「あれ、こいつと俺って本当に友人関係なんだっけ? でも相手はそう思っていないんじゃ……」という思春期特有のあの苦しい記憶を見事に甦らせてくれる。そして読んだ後には溜息をつき、あるいはへこみ、総じてイヤな気分になるのである。

さらに湊作品の多くは登場人物たちのその後が心配になるケースが多い。
本書もその一つで、最終的に深瀬は自分がしたことに気がついてしまう。いくら気がつかなかった・知らなかったと言ってもおそらく「過失致傷罪」が適用されるだろう。さらに深瀬はどちらをとるかの選択に迫られることになる。

①自身がやったことを正直に美穂子に話すのか? しかしこの場合、おそらく美穂子との関係は修復できないものになるだろうし、さらに罪を問われる可能性もある。だが、深瀬は美穂子の告白も聞いている。それを以て反撃材料とすることに出来るかも知れないが、そんなことは誰も望んでいないはず。(続編があればこんなドロドロしたのを書きそうではあるが。法廷物も新しい試みですね!笑)

②自分が気づいたことは自分の中に封印する。しかしこの場合は深瀬の今後の人格に多大な影響を及ぼす可能性がある。さらに直近の危険は深瀬が「広沢の両親に本当のことを話そう」と美穂子に話していることだ。行かなければ行かないで怪しまれるだろう。しかし行ったとしてどのように話すのか? 私は深瀬が上手くごまかすような場面は想像できない。

こうしてみると、湊かなえは深瀬の退路を完全に塞いでいることがわかる。まさに前門の虎、後門の狼といったところか。

私はいつか深瀬が話すときが来るだろうと思う。しかしそれは良心の呵責に耐えられないからという理由だろう。自分のために話す。話して楽になる。そんな未来が見えるのは私だけだろうか?

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★★☆
合計★七つ
湊作品としては珍しく、ミステリー色の強い小説。未読のかたはぜひ読んでみて欲しい。
リバース (講談社文庫)

湊 かなえ 講談社 2017-03-15
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「法医昆虫学」と聞いてどんなことを想像するだろうか?

普段、何事にも巻き込まれずに生活していればまず聞くことはない言葉だろう。日本国内では特にそうだ。

今日紹介する本はそんな「法医昆虫学者」が主人公の本である。今私の手元にある文庫の帯には「『聴こえざる声』を聴く女」と書いてある。なんだか危険な香りがプンプンするではないか。いったいどんな小説なのだろうか?

目次

  1. 「川瀬七緒」ってどんな人?
  2. 「法医昆虫学」って?
  3. 実際読んでみて~ネタバレ無し~
  4. 実際読んでみて~ネタバレあり~
  5. みんなに伝えたい! 「赤堀涼子」の魅力とヤバさ!
  6. オススメ度


「川瀬七緒」ってどんな人?

川瀬氏は2010年に「静寂のモラトリアム」が「鮎川哲也賞」の最終候補、「ヘヴン・ノウズ」が江戸川乱歩賞の最終候補となると、翌2011年「よろずのことに気をつけよ」で江戸川乱歩賞を受賞しデビューした女性作家だ。さらにデザイナーでもあり、デザインの仕事と執筆活動を並行して行っている。

第一作目の「よろずのことに気をつけよ」は川瀬氏が興味を持っているであろう「民俗学」の色が濃い。しかし今作はそれを一新。今作から始まる「法医昆虫学シリーズ」は川瀬氏の代表作と言えるだろう。

「法医昆虫学」って?

法医昆虫学とは、法医学・科学捜査の一部門だ。
人が殺され遺棄された場合、当然様々な虫が集まることになる。代表的な昆虫は「蠅」になるのだが、集まった昆虫たちがどのような種類の虫たちか、またどの部位を食べているか、産卵して孵化しているのであればその蛆は何齢なのか。遺棄された周囲で生息可能なのか。そのような情報を集め組み立てることで死後の経過時間や死因を推定しよう、という学問である。

アメリカ・中国では法医昆虫学が実用的なレベルまで達し、実際裁判でも証拠として扱われることがあるそうだ。

日本はただでさえ法医学者が少ないうえに、「蠅」の研究者も減少している。そのような事情から圧倒的にデータが少ないそうだ。こればかりは海外のデータを使っても意味が全くないのでどうしようもない。仮に研究が進んだとしても、日本で実際に捜査に導入するにはそこからさらに時間を要するだろう。

実際読んでみて~ネタバレ無し~

さて、実際に小説を見てみよう。
この文庫の裏のあらすじには、「『虫の声』を聴く彼女は、いったい何を見抜くのか!?」と記されている。この部分だけ読むと「虫の声が聞こえるという特殊能力を持った女性が虫たちと共に様々な難事件を解決する!」というなんともメルヘンチックなお話しに見えなくもない。ヘタしたらシリーズ途中でバトル物か何かに変わってしまいそうである。

しかし、安心して欲しい。そんなことは全くない。れっきとしたミステリー小説である。
主人公である赤堀涼子が「法医昆虫学」と大吉君を駆使し、虫の声を聴けるように努力するのである。
そう。「死体は語る」でおなじみの「上野先生」の境地に立とうと言うのである。決して彼女の耳元で虫たちが犯人の名を告げるわけではないので安心して欲しい。

そしてこの本の魅力の一つとして個性的な登場人物達をあげることができるだろう。虫に関わる側の人間は揃っておかしな奴らばかりなのだが(その筆頭が赤堀涼子)、彼女の後輩である大吉君もなかなかに癖のある人物だ。そんな人物ばかりだと当然物語は暴走し、破綻してしまうことになるだろう。そこで彼らの抑止役として岩楯警部補が登場する。所謂常識人枠である。が、そんな岩楯警部補もただの堅物警官でない。もちろんミステリーであるからには謎があり、その謎も魅力的なのだが、彼らの掛け合いにもぜひ注目して読んでみてほしい。

最後にひとつ注意する点を挙げておく。タイトルに偽りはない。よって昆虫に関する描写(特に蠅・蛆)がわんさか出てくる。私はそれほど虫は嫌いではない(むしろ好き)ので薀蓄も豊富な本書は楽しく読めたが、苦手・嫌いという人はそれなりの覚悟が必要である。うかつに読むとヴォエー!となりかねない。(というか苦手な人がこの本を読まないか……)

実際読んでみて~ネタバレあり~

ではここからはネタばれ・結末気にせず書くので未読の方はスルーしていただきたい。
読んだ感想はやはりテンポが良いということ。鮎川哲也賞は受賞こそしなかったものの最終まで残った実績というのは大きい。実力があることがわかる文章だ。特にデビュー二作目ということで重要視されることが多いが、一作目をしっかり踏み台にし、ステップアップしていることが読み比べるとわかる。おそらく川瀬氏的には民俗学系のものを書きたかったのだろうが、大きなモデルチェンジが功を成した。

作者はSのほうが良い、主人公をどんどん危機的状況に追い込むべきという話があるが、本書はそれを徹底している。ただ主人公の性格付けによっては、そこでマイナスの印象を与えかねないが(危機に追い込まれるのは主人公が無能だからか? それとも無茶な性格だからだろうか。無能な主人公というのはほとんど歓迎されることはないだろう。さらに主人公の無茶な行動がトリガーになっている場合、無茶をするような性格でない人間が無茶をするのであればそこにはそれ相応の理由や動機が必要で、さらに理性がそれらを抑えることができないということも必要になってくる)主人公である「赤堀涼子」ならばやりかねないと読者も納得するような設定となっている。さらに主人公を強い女性に設定していることでヒットの条件も満たしているのでドラマ化したら受けるであろうと思われる。

だた一つ個人的に残念だったのは稲光少年の死である。この流れだと当然数年後、赤堀の元で法医昆虫学を学んでいるものだと思っていた。赤堀が稲光少年を虫によって少しずつ更生し、社会復帰させるものだと。しかし、赤堀の独断専行で結果死なせてしまう。物語的には赤堀の成長に繫がったのだが、もう少し救済が欲しかった。それともこれは作者による意思表示であろうか。うーん、Sですね!


みんなに伝えたい! 「赤堀涼子」の魅力とヤバさ!

そんなわけで最後に主人公・赤堀涼子さんのヤバさをお伝えして終わりにしようと思う。今作の中に登場する「ヤバい!」場面を抜き出してみた。
≪ここがヤバいよ!涼子さん!≫ 
「それは『ウジ茶』のはずだが」
「ああ、いけない。また飲んじゃうところだった」 (文庫版106P)
・この赤堀さんは何度かウジを茹でた湯を「うっかり」飲んでしまっているらしい……。

「刑事さん、ウジとかアオムシとか柔らかくてかわいい虫はね、それで生きていけるように究極進化してるんですよ」 (文庫版107P)
・蛆虫、芋虫可愛い?……可愛くない?究極進化ってなんだかデジモンみたいですね。

「当然だが、こんなに嬉しそうに、ウジの話をする女には会ったことがない」 (文庫版109P)
・ついつい本音が出てしまう岩楯警部補。ドン引きしてますね。

「じっくりと検分を続けていた赤堀は、何を思ったのか軍手を外して、遺体があった場所の油染みを指でこすった。そしておもむろにバンダナをずらし、舌を出して舐めようとしているではないか
(文庫版133P)
・今回私がいちばん衝撃を受けた問題のシーン。もう大爆笑ですよね。お前は妖怪か何かかと。無論実際そんなことをしたら感染症やらなんやらで大変ですので絶対やっては駄目です。

とまあ、赤堀涼子さんの問題行動とポジティブシンキングは至る所で確認できます。こんな女性主人公見たことない。でもどこか憎めない、そんな女性です。

オススメ度

おすすめ度★★★☆☆ 
面白さ★★★★☆
合計★七つ
本当はいろんな人におすすめしたいのですが、きっと万人受けはしないだろうと。ただ非常に面白い。ぜひ読んでみて欲しい。
法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

川瀬 七緒 講談社 2014-08-12
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KAZUHIRO009_TP_V
小説講座などでは合作小説、いわゆるリレー小説などを課題として出されることがあるようだ。

しかしながら最近では、アンソロジーやオムニバス形式の書籍はあっても、「合作小説」というものはほとんど見ない。
だが、過去には探偵小説界のレジェンド達が多くの合作を残している。その中の一つが今日紹介する「江川蘭子」である。船頭多くして船山に登る、ということわざがあるが本書はうまく着地できているのだろうか……?

目次

  1. 当時の雑誌事情~合作という余興~
  2. 「発端」 江戸川乱歩
  3. 「絞首台」 横溝正史
  4. 「波に踊る魔女」 甲賀三郎
  5. 「砂丘の怪人」 大下宇陀児
  6. 「悪魔以上」 夢野久作
  7. 「天翔ける魔女」 森下雨森
  8. オススメ度

当時の雑誌事情~合作という余興~

日本で最初の合作探偵小説となったのは「五階の窓」というタイトルの小説だ。第一回に江戸川乱歩をすえ、大正15年6月~10月まで『新青年』にて連載された。

しかしこの小説は執筆順だけを決めて書き始めたらしく、結果としては失敗だったらしい。それでも合作小説はその後も何度か行われていく。余興・お遊び的な試みだったことに間違いはない。

だが当時は雑誌上に長編を連載できるような探偵作家が少なかったという事情がある。結果、少しでも面白そう、話題を呼びそうであればGOサインが出ることになる。

さて今回の「江川蘭子」であるが、担当パートと作家の経歴を順にさらっと見ていきたいと思う。

「発端」 江戸川乱歩

書き出しはご存じ江戸川乱歩だ。
乱歩の処女作「二銭銅貨」は日本最初の本格探偵小説であるとも言われている。また日本三大名探偵の一人「明智小五郎」「少年探偵団」の生みの親でもある。「類別トリック集成」にお世話になっている方も多いのではないだろうか? 乱歩はこの「江川蘭子」という名前を気に入っていたようで、他の小説にも同じ名前の人物や、似たような名前の人物が度々登場する。さてそんな乱歩が書き出しを務める。

書き出しはその小説の行く末を決める重要な部門である。約30Pしかない中で乱歩は自身のエロ・グロ趣味をいかんなく発揮している。さすがといったところか。

「絞首台」 横溝正史

そんな乱歩の後を受けるのは横溝正史だ。
横溝といえばみんな大好き「金田一耕助」の生みの親。もちろん金田一も日本三大名探偵の一人だ。しかしこの「江川蘭子」執筆当時はまだ金田一シリーズはおろか、横溝の名前を広めることになった「本陣殺人事件」も書かれていない。だが横溝もう一人の名探偵「由利先生シリーズ」が始まっている。金田一に隠れがちだが「真珠郎」「蝶々殺人事件」などの名作もあるのでぜひ目を通してほしい。

さてそんな横溝のパートだが、私はもうタイトルが横溝くさくてたまらなく好きだ。舞台を兵庫に移したのは乱歩なりの優しさだろうか?しかし前のパートの乱歩が事件を起こしていないのでセオリー的には早めに事件を起こしたいところだろう。そんなわけで謎の人物の登場と事件が発生するわけだが、ここでいかにも重要なもののように「あざみの花」が登場する。この後の流れを見ると、この花の始末に苦慮しただろうと思われる。

「波に踊る魔女」 甲賀三郎

この二人の後を受けたのが甲賀三郎だ。
乱歩・横溝などの「変格」に対し、甲賀は純粋に謎解きの面白さを追求するという意味で「本格」という言葉を使い始めた人物である。戦時中の45年に急性肺炎で死去している。
活動期間は20年ほどで、戦前の弾圧を受けながらもかなりの量を執筆している。

甲賀三郎の入りはいささか面白い。前二人の作風と私とではタイプが違うから戸惑っていると素直に心境を吐露している。そして突然始まるのが疫病「黄死病」の流行である。これには読んでいてかなり戸惑った。さらに「黄死病」と絡めて横溝の置き土産である「あざみの花」を発展させている。もうここらへんからハラハラの連続である(上手く決着するのかという意味で)

「砂丘の怪人」 大下宇陀児

大下宇陀児は大正14年「金口の巻煙草」でデビュー。探偵小説だけでなくSFにも興味を示した多彩な作家だ。1951年には「石の下の記録」で探偵作家クラブ賞を受賞している

そんな大下はこの小説の中で夢野久作につぐファインプレーを魅せたと思われる。甲賀の後をうまくつぎ、なおかつ飽きさせないよう問題の提起(解決できそうな範囲の)を行っている。いよいよクライマックスに向けて盛り上がってきた。

「悪魔以上」 夢野久作

お次は夢野久作だ。
日本三大奇書のひとつ「ドグラ・マグラ」の作者として知られるが、他にも面白い小説は多い。ドグラマグラを読んで読みにくいというイメージをもたれるかもしれないが、「少女地獄」や「瓶詰の地獄」も大変面白い。特に「瓶詰の地獄」は個人個人で解釈ができるようになっており、様々な解釈が試みられている。ちなみに詩や短歌にも長け、禅僧でもあったという万能超人である。

そして夢野久作がここでも離れ業をやってのける。夢野は自分の文体・自分の色を消すことなく前面に押し出しながらも、今まで回収されるかどうか不安だった数々の伏線をほぼ回収することに成功する。謎についてもほとんど全てに解決を与えている。そんなわけでバラバラのように見えたそれぞれの話が夢野久作の手によりなんとなく一つの話に纏まったかのように見えるのだ。若干駆け足気味なのはこのままじゃ不味いという久作の焦りだろうか?

「天翔ける魔女」 森下雨森

ラストは森下雨森だ。森下は確かに作家としての活動も行ったが、国内の作家の発掘育成のほうに功績がある人物だろう。乱歩も横溝もかなりお世話になっていたようだ。さらに海外小説の翻訳もしており、あのクロフツの「樽」を最初に紹介したのは森下らしい。

しかし今回のラストをかざる「天翔ける魔女」はどうだろうか?超展開すぎやしないだろうか。ハラハラさせるシーンはあるにはあるが、我々読者はそんなことには期待していないのだ。終わりがいかに重要か、ということがわかる良い例である。夢野久作の頑張りは何だったのか。ぶち壊しである。

オススメ度

内容をざっくりとみてきたが、作家陣は各々謎解きよりも謎を作ることが好きらしい。ほぼほぼ丸投げである。というかなかなか謎らしい謎も出てこず、出てきても本当に伏線回収してくれるのだろうか?と読んでいるこちらがハラハラする。
とりあえず謎は作ったが、前の作家の意図はよくわからん!次の人がなんとかしてくれるだろう!みたいな文章があったりしてそれはそれで面白い。

しかしこれは合作だから許されるのであって、一人の作家が一つの小説でこんな書き方(花の扱いとか唐突な病気とか)をしたら即壁本である。結果としてこの小説は江川蘭子冒険譚みたいな物になってしまったが、読んでみると新たな発見があるかもしれない。これをカタログとして、気に入った作家の本を当たるのも面白いだろう。実に不思議な小説であった。
オススメ度★★★☆☆
面白さ★★☆☆☆
合計★五つ
by カエレバ
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