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カテゴリ: 国内小説

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限定復刊で大きな反響を呼んでいた泡坂妻夫「湖底のまつり」が完全復刊し、全国の書店で買えるようになると同時に大きな反響を呼んでいるようだ。

美しくなったカバーと共に、帯には読み手の好奇心をそそる文字がいっぱいだ。今日はそんな「湖底のまつり」を読んでみようと思う。

目次

  1. 奇術師・泡坂妻夫
  2. 「湖底のまつり」を読む
  3. オススメ度

奇術師・泡坂妻夫

1976年に「DL2号機事件」で幻影城新人賞に佳作入選し、46歳で作家としてデビューした遅咲きの小説家である。遅いデビューでありながら体力のいる創作活動を多くこなし、数多くの小説を書き上げている。また様々なトリック・文体を使いこなしミステリーに限らず多くのジャンルを手掛けた。

1978年には「乱れからくり」第31回日本推理作家協会賞
1988年には「折鶴」泉鏡花文学賞
1990年には「蔭桔梗」第103回直木賞を受賞している。

さらに本物の奇術師としても著名であり、創作奇術に貢献した人に贈られる「石田天海賞」を作家デビュー前の1968年に受賞している。このことからも常日頃から「トリック」に親しんでいたことが窺われる。「生者と死者」に見られるような読者を楽しませることを意識した小説は奇術師としての経験、観客を驚き楽しませるというところからきているのかもしれない。

また実家は東京神田で「松葉屋」の屋号を持つ「紋章上絵師」である。
そんな関係で「家紋の話」などのエッセイを執筆していたりもする。まさにエキセントリックな小説家である。

「湖底のまつり」を読む

「なるべく予備知識を持たずに読まれることをお勧めします」と帯にもあるので、詳しくは語るまい。
が、一つだけ言いたい。
「東京創元社はセールスが上手いな!」
と。もはやこれに尽きるのではないだろうか?
この本を手に取り、読み終わった後に脳裏に浮かんだのは中町信の「模倣の殺意」だ。これは決して中身やトリックが似ていると言っているのではない。セールスの仕方が似ているのだ。

「模倣の殺意」もおそらくかなりの部数を販売したはずである。そしてこちらもネームバリュー的にも同等かそれ以上の部数を見込めるのではないだろうか?表紙カバーも今風に洗練しつつシンプルな物になっている。

読み終わった後の感想も「模倣の殺意」と同じく「入門書」という感じだ。
本が売れない売れないと嘆かれる昨今、生き残るには小説も進化していかないといけないわけで、やはり年代を経てしまったものはトリック的に劣ってしまう可能性があるのは仕方のないことだろう。

だが、1章で大よそのストーリーとトリックに見当がついて2章でほぼ確定的となってしまうのはさすがに早すぎる。

しかしながら「湖底のまつり」にはそれを補ってあまりある華麗な筆致と描写がある。
登場人物の心情描写も随所に埋め込まれた伏線とその回収も素晴らしい。

個人的には結末も好きなタイプのものだ。思わずニヤリとしてしまった。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
美しい筆致と伏線の回収は見事の一言。しかしながら著者の小説には他にも「しあわせの書」「乱れからくり」があるのでこれをベストと呼ぶわけにはいかない。が、面白いことは面白い。これ系のトリックの入門書には持って来いかもしれない。
湖底のまつり (創元推理文庫)

泡坂 妻夫 東京創元社 1994-06-01
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最近は夜まで蒸し暑く、夏がすぐそこまで近づいてきているように感じる。
夏の風物詩といえば甲子園や西瓜、海水浴など様々だがやはりここは「怪談」だろう。

今日は和ホラー、つまり怪談系の話を書かせたら今の日本で右に出るものはいないだろうと思われる三津田信三氏の文庫最新刊「どこの家にも怖いものはいる」を見てみようと思う。

目次

  1. 家の中は安心か?子どもの間ではやったおまじない
  2. 「どこの家にも怖いものはいる」を読む!
  3. オススメ度

家の中は安心か?子どもの間ではやったおまじない

私が小学生の頃だったと思う。こんなおまじない?が流行った。
「家の中のどこに危険なものがいるか?幽霊がいるか?」
というものだ。

怖がりだった私は、今でもこれのやり方を覚えているぐらい怖かったのだが(家の中に誰かいるなんて信じたくない、知りたくないという気持が多分に働き今でも忘れることができない)、結局試してしまったのである。

当時私たちの小学校で流行っていたやりかたはこうだ。
①まず目をつぶり自分が家の前、つまり玄関の前にいるところを想像する。
②そのまま玄関から家の中に入り、各部屋を歩いてまわる(もちろん風呂場やトイレ、台所もだ)
③玄関から出て目を開ける。その際自分の家の中に人がいたか、いたならどこにいたか覚えておく。
④人がいた場所が霊や悪いものがいる場所である。


といったものだった。
結果は憶えていないし、憶えていても思い出したくもない。
しかしながら今日この記事を書くにあたって同じようなおまじない?があるのではないかと探してみた。すると似たものが何個か出てくるではないか。それらは窓を開けることになっているが、結果はやはり上記のものに近いものであった。上のものは自分に霊感があるかどうかのテストであったのである。

耳鳴りがしたらそばにいる、などもよく聞く話ではないだろうか?
また暗がり天井の隅隙間風呂場、そんなところに何かいる気配はしないだろうか?

こうしてみると、家の中は決して安全な場所だとは言えない気がしてならない。
だからといって「盛り塩」をするのは危険だ。これだけは言える。仮にあなたの家に「わるいもの」がいたとすると、盛り塩をすることであなたの家から出れなくなるのだから。

「どこの家にも怖いものはいる」を読む!

そんな本書「どこの家にも怖いものはいる」だが、作りは実話怪談風の構成となっている。つまりはいつもの三津田氏の手法なのだが、他の著書「のぞきめ」「忌館」などよりもグッと洗練されている気がしてならない。つまりより「境界」があいまいとなっているのだ。この「あいまいさ」というのが怖さを助長するのである。フィクションとノンフィクションの合間でこの小説は揺れ動く。我々読者はこの話が本当かどうかどうあがいても知ることができないのである。

しかしながら、本書は実際にあったことの体で進められていく。
また三津田氏は本を丸ごと使って我々読者を楽しませてくれる作家であるが、本書も例外ではない。
というのも本書の冒頭は、
『お願い
本書に掲載した五つの体験談について、執筆者ご本人またはご親族でご存じの方がおられましたら、中央公論新社の編集部までご連絡いただければ幸いです』

という文から始まるのである(本当にきたらどうするのだろうか?それはそれで話のネタが増えるのだろうが編集部は戦々恐々ではないだろうか?笑)。虚と実を混ぜ怪異を作るのが本当に巧みだ。この文を読むことで読者の頭の中に無意識のうちにでも「本当のことかもしれない」と植えつけることができれば大成功だろう。

さらに巻末の「参考文献」も見逃せない。
ファンであればもう見る癖がついているだろうが、初読の方は必ず目を通して欲しい。ますます怖く、そして境界があやふやになるに違いない。

さて中身だが、先にも述べたように本書は「五つの話」と二人の怪異の検討からなる。
その話は、
一つ目の話 「向こうから来る 母親の日記」
二つ目の話 「異次元屋敷 少年の語り」
三つ目の話 「幽霊物件 学生の体験」
四つ目の話 「光子の家を訪ねて 三女の原稿」
五つ目の話 「或る狂女のこと 老人の記録」

からなるのだが、どれも夜中に読みたくないのは共通している。
最も怖かったのは一つ目の「向こうから来る」である。これは子供部屋の話なのだがこういう空想や妄想、もしくは今現在そんな部屋に住んでいる、壁紙がそうだ、という人は私と同様これが一番キタのではないだろうか?もうそっちの方を見ながら部屋で生活できなくなる。

また「光子の家」は違った意味で怖い。
これは完全体で読んでみたいと思ったのだが(存在すればの話だが)、完全に新興宗教潜入ルポドキュである。しかもそこに謎の怪異が加わり余計怖い。というか不気味である。この五つの話は「家」にまつわる怪談なのだが、それにしても「光子の家」という名前からにじみ出る負のオーラはなんだろうかか?怪談話で「〇〇の家」というものは鉄板でもあるのだが、なぜこんなにも怖いと思ってしまうのか。人が住むことで様々なものが宿るということももちろんあるだろうが、日本人の持ち家信仰もここに加わりそうな気がする。長い間そこに住めばこそ、多くの喜怒哀楽の感情が家にも伝わるであろうからだ。なので「〇〇の家」と聞くと人の何かが籠もっていそうで、知らないうちに身構えてしまうのではないだろうか。

また三つ目「幽霊物件」は現実的な問題も含んでいる興味深い話である。
「心理的瑕疵物件」というものがある。
これは「通常一般人が嫌悪感を抱く物件」のことを言う。つまりは「事故物件・いわくつき物件」と言われているモノである。「事故死」や「自殺」、「他殺」「孤独死」はもちろんのこと、倒産、暴力団跡地、風俗跡などもこれに該当する。

これらに該当する物件は通常価格より安くなっていることが多く、また告知事項ありなどと小さく留まるにすぎないことも多々ある。通常は契約前「重要事項説明」時に告知を行う必要があるのだが、では業者はいつまでそれを説明しなければならないのだろうか?

借手や買い手からしたら「一生説明し続けろ!」と言いたいところだが、そうしてしまうと業者の負担が増えてしまう。なので通説ではこの「心理的嫌悪感というものは時間によって薄れていくもの」とされている。平成26年8.7日東京地裁判例では17年以上経過していること、また間に駐車場として利用されていた期間があることから買主の訴えを棄却している。また当然ながら売り手がその事実(瑕疵があったということ)を知り得なかった場合、つまり善意無過失であることが証明できれば損害賠償請求は棄却される。

が、20年以上経過した事例でも近隣住民には深く記憶されおり、嫌悪感は希釈されていないとする判例も存在する。なので結局のところ「告知義務の判断は個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するという不明確な基準によるしかない」のだそうで、不動産会社は推奨10年と決めているところもあるようだ。しかしながら昨今の状況を鑑みるに、原則告知すべきという考えが広まってきておりダンマリをきめるということは少なくなってきているようだ。

では今回の「幽霊物件」だがこれは心理的瑕疵にあたるだろうか?
じつは当たらないのである。実際に「幽霊がでる!」というだけでは法律上、精神的負担にはならないとしている。なので学生に対して説明しなくても良かったことになる。もちろん、死者がでていれば別であるが。

長くなったがここで繫がってくるのが事故物件公示サイトを運営する「大島てる」だ。
この「大島てる」というサイトを怪談好きで知らない人はいないだろうが、完結に説明すると「日本各地の事故物件をサイトで公開し、いつ、どんな理由で事故物件になったかを簡潔に述べている」サイトだ。そんなサイトの運営者が六つ目の話として、本書の解説を行っている。ここを「解説」とせずに「六つ目の話」とするあたりもニクイ演出である。

ただ惜しむらくは小野不由実「残穢」と似ている感じがしてしまったことだろうか。お二方ともおそらく同じ参考資料を読んでいるに違いない。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★★☆
どこの家にも怖いものはいる。私たちが気づいていないだけかもしれない。
しかしカバーのイラストが怖すぎる!笑
どこの家にも怖いものはいる (中公文庫)

三津田 信三 中央公論新社 2017-06-22
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結婚とはなんだろうか?
始まりだろうか、はたまた終わりだろうか。
様々な偉人達が様々な価値観のもとで格言・箴言を残しているがあなたはどれに当てはまるだろうか?

今日は6月24日から公開中、ディーン・フジオカ氏主演の映画「結婚」の原作本を見てみようと思う。
※タイトルの箴言はワイルドのものである。




目次

  1. 作者・井上荒野ってどんな人?
  2. 「結婚」を読む
  3. オススメ度

作者・井上荒野ってどんな人?

戦時中の青年の姿を描いた「ガダルカナル戦詩集」や「虚構のクレーン」「死者の時」などを執筆し、戦後文学の旗手として活動した井上光晴。そんな人物を父にもつのが井上荒野氏だ。

1989年「わたしのヌレエフ」で女性限定の賞である第1回フェミナ賞を受賞(現在はなくなっている)するも、その後体調不良などの理由で小説を書けなくなってしまう。

が、2001年「もう切るわ」で再起。2004年には「潤一」で第11回島清恋愛文学賞2008年「切羽へ」で第139回直木賞を受賞。2011年「そこへ行くな」で中央公論文芸賞2016年「赤へ」で柴田錬三郎賞を受賞。

2001年再起してからは今まで小説を書けなかったことへの鬱憤を晴らすかのように多くの小説を書き上げている。また角田光代や江國香織と親交が深いようで良く対談しているのを見かける気がする。

「結婚」を読む

まず大前提としてこの小説は父・井上光晴が1982年にだした「結婚」という小説のオマージュ作品であるということを踏まえておきたい。それをうまく換骨奪胎し自分のものとして新たに作り上げたのが現在映画公開中の「結婚」である。

古書なのでなかなか光晴氏の「結婚」はお目にかかる機会が少ないだろうが、本書の西加奈子氏の解説によると『人間の深淵に肉薄しつつも、多分にサスペンス要素をはらんでいる』小説のようで、どうやら推理小説仕立てのところもあるようだ。だからだろう、ところどころその名残が見てとれる。

さてこの「結婚」であるが、内容は「結婚詐欺とそれを取り巻く女性の人間模様」である。
そしてその感情の機微というか、それぞれの女性の内面を良く描き分けているのが特徴だ。

またこの小説に登場する人物たちは、騙される女性たちも、詐欺師である「古海」も含めてみな淋しい人間のように感じてしまう。自分が騙されているのに気がついていないと言う人も中にはいるだろうが、この人物たちはそこまで馬鹿でない気がする。

ただ認めたくないだけなのだ。それを認めてしまえば自分が騙されたということを自分で自分に突きつけることにもなってしまう。要は自分を守るための防御機能が働いているともいえる。そして自分可愛さのために認めないだけでなく、彼女たちはまだ心のどこかで「古海」のことを愛しているし信じてもいる。その繋がりを断ち切りたくないだけなのだ。なのである女性は古海の身許を突き止めようと奔走するが、それもまた愛の一形態と言える。彼女もまた古海のことを忘れられないのだ。

こうしてみると古海は凄腕の結婚詐欺師といえる。ニュースなんかでは「なぜこんな男・女に騙されるのだろう?」と笑ってみていることが多いであろうこの話題。一概に「騙される方が悪い」と言えるだろうか? また騙された人たちは不幸であると言い切れるだろうか。
しかしこうして人の心の弱味につけこみ騙すということは卑劣であることに変りはない。

そしてまた終盤で古海自身もまた「一つの嘘」に縋っていたことが判明する。
そこで改めて「結婚とはどういうものなのか?」という問いに帰ることになる。
彼はその後どうするのか? 彼女は一体どうなったのか?
結末は本書内でも記されてはいない。様々な結末を描くことができるだろうがあなたは「どんな結末を作り上げただろうか?」

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
やはり心の機微をうまく捉えているので、短いスパンで登場人物が変わっていくにも拘らず共感できる人物がいるのではないだろうか?
ちなみに現在書店ではカバーがディーン・フジオカさんになっている。今月の終わりまで待ち受け画像のプレゼントもあるようなのでファンの方は要チェックだ。
結婚 (角川文庫)

井上 荒野 KADOKAWA/角川書店 2016-01-23
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今月の1日から和田竜原作「忍びの国」の公開が始まった。
興行収入は30億円を越える見込みのようだ。
公開されたばかりだが、映画評価サイトのレビューは概ね好印象のようである。

では原作のほうはどうなのか?今回はこの「忍びの国」を見てみようと思う。




目次

  1. ヒット作を書き続ける男・和田竜
  2. 忍者って何者!?
  3. 「忍びの国」を読む
  4. 織田信雄に漂う悲哀~あいつは能でも舞わしとけ~
  5. オススメ度

ヒット作を書き続ける男・和田竜

当初脚本家を目指していた和田氏。2003年「忍ぶの城」で第29回城戸賞を受賞した。
そして2007年に忍ぶの城を自身の手で小説化、「のぼうの城」として出版。こちらは後に野村萬斎氏主演で映画化された。

そして2014年には「村上海賊の娘」で第35回吉川英治文学新人賞と2014年本屋大賞、第8回親鸞賞受賞した。他に「小太郎の左腕」が2009年に小学館から刊行されている。

本作「忍びの国」は2008年に新潮社から刊行されたもので、第30回吉川英治文学新人賞候補となった小説である。エンターテイメント性を豊富に詰め込んだ、従来とは違った歴史小説でいま注目を集めている作家である。

忍者って何者!?

今作「忍びの国」はタイトル通り「忍者」が主人公である。
忍者といったら「NARUTO」のような火遁・土遁などの派手なアクションや、暗がりで相手を暗殺する、そういったものを想像するだろうが実際の戦国期の「忍者」とはどんなものだったのだろうか?

主な仕事はやはり情報収集や監視、連絡、破壊工作などだったようである。
また伊賀忍が傭兵色が強く金銭で動く集団だったのに対し、侍がルーツだとも言われる甲賀忍は忠誠心に厚く、合議制などを導入し多数決で決定していたようだ。

忍びに共通していることは身体能力に優れ、厳しい規律に縛られた諜報集団ということだろう。また近年では動植物学や化学の知識を持つ技術者集団としての一面もあったと言われている。

伊賀・甲賀の他にも武田氏の透破、北条氏の風魔、伊達氏の黒脛巾組などが有名だろうか。
実在した忍者では百地三太夫のモデルとなった「百地丹波」「藤林長門守」、謙信や信玄がその能力を恐れた「鳶加藤」などがいる。また松永久秀が苦手とする人物の一人「果心居士」も実在したかは不明だが良く語られる人物の一人だろう。

ちなみに「服部半蔵」は服部半蔵家の当主の通称。
一番有名なのは「鬼半蔵」こと「服部正成」。「槍半蔵」渡辺守綱と共に怖れられた。また正成は武士であって忍びではない。伊賀衆を率いたことは事実かつ出身も伊賀ではあるがゲームや小説のように彼自身が暗殺や忍び働きをしていたわけではない。

「忍びの国」を読む

舞台は「天正伊賀の乱」である。
第二次まであるのだが、「忍びの国」では第一次伊賀の乱で終わっている。

この小説は一応「時代小説」であるのだが、エンターテイメント寄りの時代小説である。これを知った上で読めば非常に面白く読めるが、バリバリの時代小説として期待して読むととんだ肩透かしを食らうので注意が必要だ。だが、時代考証や設定はしっかりしているし、随所で出てくる作者も気にはならない。

ではどこが評価を分けるのか。これは忍者に何を求めるのか?ということになってくる。
上で述べたような地味な活動をする、実在しそうな忍者はこの小説には登場しないのだ。出てくるのはどちらかといえば「NARUTO」や「ドラゴンボール」よりの人物たちである。
主人公の無門さんは消えるのである。速すぎて。
このシーンを読んで思い出されるのは天下一武道会での対天津飯戦だ。あんなノリや、
「見えん!この神の目にも!」
的なノリが好きであればきっとこの小説は面白い筈だ。また最終的には私の中で無門さんはるろ剣の「外印」になってしまった。安土城から去る無門さんは去り際に「幾何八方囲陣」のようなものを施して去って行く。

ネタはさておき、この小説は登場人物の心理が良く描かれているなあと思うのだ。
特に信雄の信長に対するコンプレックス。信雄を安易に無能なムカつくクソ野郎に書かなかったのは好感が持てる。また、北畠具教の一の太刀くだりなどはニヤッとしてしまう人も多いのではないだろうか?

時代小説ファンも普段時代小説を読まない人も等しく楽しめる小説であろうと思われる。
またアクションシーンが多いので映画ばえしそうな内容だ。

織田信雄に漂う悲哀~あいつは能でも舞わしとけ~

織田信長の次男として生まれたとされる織田信雄。
彼の逸話で最も有名なのが「信長からの怒りの手紙」であろう。
その中身はを簡単にまとめると、
「なに勝手に伊賀攻めてしかも負けてるの?
こっちに兵を出すのは伊勢の武士や百姓の負担になるから遠征を免れるために伊賀を攻めたのか?いやいやお前馬鹿だしそこまで考えてないだろどうせ。
上方への出兵は俺への孝行や兄貴を思いやる心、そして自分の功績をアピールできる場だったじゃん。
しかも柘植まで殺しやがって。お前の態度次第じゃ親子の縁切るからな?」

という強烈なものでしかも右筆に頼らず信長直筆である。
この逸話から信雄=無能というイメージが定着してしまっている。

また安土城が炎上して焼失したのは信雄のせい、信雄が火をつけたという噂まで流れたほどである。ルイス・フロイスがキリシタンでない人物に対してはサゲる記事を書いていたのを加味しても「信雄は馬鹿だからやったのだ」というこの発言は当時の共通認識だったと思われる。

だが芸達者だった信雄。特に能の名手だったと言われている。
しかしながら近衛信尹卿は信雄の舞を見て感嘆しているのに対し、秀吉は「舞うのが上手い奴にろくな奴はおらん!」と発言していたりする。ちなみに清正や三成も同意見だったようだ。

しかしながら江戸時代に大名として存続したのは信雄の系統だけであったり、継室との間に生まれた織田信良の系統は皇室へと繫がっている。これは戦が下手で周りからも期待されていなかった信雄だからこそできたことなのかもしれない。

また内大臣まで昇った公家でもある。名前の読みは「のぶかつ」「のぶを」どちらでも正しい。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★★☆
あくまで時代「エンターテイメント」小説である。しかし膨大な量の参考資料に基づいて書かれた本書は私たちを束の間戦国時代へと誘う。忍者に憧れた男子は特におすすめの一冊だ。
忍びの国 (新潮文庫)

和田 竜 新潮社 2011-02-26
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心の闇、というものは中々消えるものではない。
それを心因として「トラウマ」が生まれることもあるようだ。それはしばしば私たちに悪夢を見せる。

そんな暗い雰囲気の小説を得意とする作家に道尾秀介氏がいる。
今回は今年の一月新潮社から文庫化された「貘の檻」を見てみようと思う。




目次

  1. 人間を描く・道尾秀介
  2. 「貘の檻」を読む!
  3. オススメ度

人間を描く・道尾秀介

道尾氏と言えば、2005年に発刊され賛否両論で話題となった「向日葵の咲かない夏」や月9ドラマ原作「月の恋人」、2012年に映画化された「カラスの親指」が有名だろう。
ミステリーランキングにも毎年のように名を連ね、2011年には「月と蟹」で直木賞を獲得した作家でもある。

さてそんな道尾しであるが、「背の眼」で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞してデビューに至る。このデビュー作は今のスタイルとは全く違い、良い意味で大衆小説として面白く読める。なので最近の小説や、暗い雰囲気の物しか読んだことがないファンは驚くに違いない。この「真備シリーズ」は所謂「ミステリー」をやっているのである。

いやいや、ミステリー作家なのだから当たり前でしょう?と思われるかもしれないがそうではない。ミステリーにも様々な種類が存在しているが、このシリーズはそれこそ「犯人当て」に主眼が置かれているように思われる。

犯人当てじゃないミステリーなんてあるのか、と思われるかもしれないがミステリーという奴はそんなに懐の狭い奴ではないのである。

謎が提示され、その謎が解決される。
これで一応はミステリーの体裁は保っていることになる。「何故今朝私の目ざましが鳴らなかったのか」とか「机の上から消しゴムが消えたのはなぜか」とか「この手紙は誰が書いたのか」とか、どんなにくだらない謎であっても提示され解決されればそれで良いと言える(但し、その謎を読者が面白いと思ってくれるかはまた別問題だが)

その「謎」を書くにあたって、「殺人→犯人当て」という流れが一番書きやすく、刺激的で、読者を楽しませることができるであろうために多くの作家がチョイスしているにすぎないのである。

では今の道尾しはどうだろうか?
道尾氏が書いている小説の多くは間違いなく「ミステリー」だが、主眼は「犯人当て」ではない。つまり「真犯人がすぐにわかった=つまらない」という批評は的外れだということになる。
道尾氏はミステリーを「人間を描くために最適な道具である」と発言したことがあったはずである。氏が表現したい「人間の醜さ」や「争い」、そして「人間とはちっぽけな、無力な生き物にすぎない」というドロドロしたものを描くために「ミステリー」を使っているにすぎないのだ。

「貘の檻」を読む!

それを踏まえた上で「貘の檻」を読んでみよう。
「向日葵の咲かない夏」や「龍神の雨」にみられるような頽廃的で陰惨な雰囲気。文章から立ち上る黒い靄のようなものが見えやしないだろうか。確かに読んでいて嫌な気分にもなる。しかしそれはこの小説を通して現実世界の自分や、周りの人間を見ているからではないだろうか?

非現実の世界を味わう、体験するために小説を読みながら、道尾秀介という作家は我々の前にこれでもかと人間のイヤな部分を見せつける。

帯びに騙されてはいけない。この小説にあるのは驚愕のトリックでもなければ驚きのどんでん返しでもない。ただただ人間のイヤな部分が横たわっているだけである。

ただ一つ。道尾氏の小説は結構な確率で不幸になって終わり、その後も苦労が絶えないであろうことが予想されるものが多いが、この「貘の檻」に関しては微かな希望が見えている気がするのだ。確かにありがちな、二時間ドラマのような陳腐な終わり方かもしれない。しかしそこには救いがある気がするのだ。

そしてこの小説は辰男が過去から脱却し、漸く自分の人生を歩み始めることが出来るであろうことを予感させる、辰男の成長物語であると同時に、俊也の成長物語でもある。多感な時期の少年の心情の移り変わりにも注目したい。


オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
夢の解釈や、主人公が聞く音など解明されない謎もあるが、それをどう捉えるかで面白さがかわる小説ではないだろうか?
貘の檻 (新潮文庫)

道尾 秀介 新潮社 2016-12-23
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純文学畑にいながらも推理小説を書いた作家は意外と多い。

中でも有名なものが坂口安吾の「不連続殺人事件」だろう。今日は破天荒な人生を送った安吾が書いたこの「不連続殺人事件」を読んでみようと思う。




目次

  1. 破天荒な人・坂口安吾
  2. 「不連続殺人事件」を読む
  3. オススメ度

破天荒な人・坂口安吾

坂口安吾といえば「白痴」や「堕落論」「桜の森の満開の下」などで知られる作家であるが、実は純文学だけでなく、歴史小説や紀行文、随筆、そして推理小説まで手掛けた多彩な作家である。そんな安吾についてまず見てみたい。

坂口安吾は太宰治・織田作之助・石川淳らとともに無頼派(新戯作派)と呼ばれた純文学畑の作家だ。「純文学」と聞くと性や暴力、そしてどことなく暗いイメージを想起しがちだが、それはその人が書く本すべてに言えるわけではない。その人となりが文章に滲み出ているものが多いとしても(当然そうでなくてはならないのだが)笑えるものは笑えるのだ。純文学が苦手で距離を取っていた、という人は例えばその人が書いた短い随筆から入るといいかもしれない。その好例が太宰の「畜犬談」だ。これは青空文庫ですぐに読むことができるのでぜひ読んでみて欲しい。

安吾はどうか。
先にも書いたように、安吾は多作で多彩な作家だ。それぞれの好みのジャンルに合わせて入っていくのが良いと思うが、ここはせっかくなので随筆をオススメする。安吾の随筆はとても面白い。普通の日常・体験談をただ描いているだけなのに、そこから溢れる親近感はなんだろう。

また安吾と言えば「ゴミにまみれた部屋と安吾」の写真が有名だが、あの部屋の写真はだまし取られたものである。二年間まったく掃除をしていなかった部屋とその部屋をなんとか取りたい、というだけの「机と布団と女」という短い話もある。

さらには戦争に行っても死なないための工夫や努力を書いた「わが戦争に対処せる工夫の数々」も面白いのだが、とりわけ戦後日本の復興を支えたともいわれる「ヒロポン」の体験記「反スタイルの記」が抜群に面白い。当時軍隊でも支給され、薬局でも普通に売っていたヒロポンは覚せい剤なのだがその効果が詳しく描かれている。安吾曰く「とにかく、きく」。

「不連続殺人事件」を読む

そして安吾は推理諸説にも一家言持っていた。
「探偵小説とは」ではクリスティーを天才と褒め称え、「探偵小説を截る」では探偵小説の幼稚さを嘆き、「刺青殺人事件を評す」では乱歩の批評に反論し、今の日本では横溝が一番と語る。

そんな安吾が書いた探偵小説、それが「不連続殺人事件」である。
これは安吾が書いた初めての長編推理小説で、探偵役の巨勢博士が人物の心理、つまり動機に着目しながら推理を展開するという筋の小説だ。この「不連続殺人事件」は先の高木彬光「刺青殺人事件」と第二回探偵作家クラブ賞(現・日本推理作家協会賞)を争い、受賞している。また、雑誌掲載時には「読者への挑戦」として犯人当てに懸賞金がかけられたことでも話題となった。

いざ読んでみると、どことなく横溝物と雰囲気やテンポが似ている。
事の発端は推理小説の王道。多数の人物が一箇所に集められ、そこで謎やトラブルが起こり、ついに殺人事件へと発展。そして探偵役の巨勢博士が解決のために立上るというものだ。

純文学畑の作家が人間のどこに着目して推理小説を書いたか、「不」連続殺人とはどういうことなのかを考えながら読むときっと面白いだろう。ちなみにこの小説は登場人物が多く、そしてそれぞれ複雑な関係で結ばれているため非常に整理しづらい。相関図や登場人物を書き出しながら読むことでスムーズになるかもしれない。

余談ではあるが、雑誌が廃刊となり未完となっていた「復員殺人事件」の後半部を死んだ安吾にかわり執筆したのが高木彬光である。これもまたなかなか面白い縁ではないだろうか?

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
セリフ回しにやや時代を感じるがそれでもオモシロイのが傑作たる由縁である。
不連続殺人事件 (角川文庫)

坂口 安吾 角川書店 2006-10-01
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御嬢様学校というものは今も昔も羨望の的なのだろうか?

実際の御嬢様学校の実態などはまったく私はわからないが、少なくともこの「暗黒女子」の世界においては生半可な覚悟では生き残れない苛酷な世界のようである。

今日は現在映画公開中でもある「暗黒女子」を見てみようと思う。




目次

  1. 秋吉理香子ってどんな人?
  2. 「暗黒女子」を読む
  3. ネタバレ感想
  4. オススメ度

秋吉理香子ってどんな人?

秋吉理香子氏は2008年「雪の花」でYahoo!Japan文学賞を受賞。2009年に雪の花を含む短編集でデビューした作家だ。他にも「聖母」「自殺予定日」「サイレンス」などの小説が現在刊行されている。

「暗黒女子」を読む

まず読んでみて思ったのは、作者は短編形式のほうが得意なのだろか? ということだ。
他の小説を読んでいないのでなんともいえないが、デビュー作も短編集のようだし、二作目にあたる本作「暗黒女子」も短編集のような形式だ。短編集は昔から売れない売れないと言われ続けているだけに、二作目はなんとか長編に持って行こうとした結果の構成だったのではないかと思われる。

そしてその短編集形式の構成が上手く機能しているのがこの「暗黒女子」だ。
小説内の人物も語っているように、学校内では主導権争いによる駆け引きが日々行われている。「誰かを貶め踏み台にし自分が上に行く」という学内生活の縮図を短編集にすることで巧く表現しているように思える。

作者が女性だけあって、現実世界の女子会もこんなことが頻繁に行われているのではないか?と疑ってしまう。表面上は仲良く見せても腹の探りあい。誰がどんな男と付き合っているか。どんなブランドを身に着けているか。どんな店をしっているか。服装は。等々どうにかして誰かの上に立ちたい、主導権を握りたいという裏の目的があるのではないだろうか。

「暗黒女子」は現在映画公開中である。
映画公開は知っていたがキャストを見て驚いた。主演に一時世間を賑わせた清水富美加の名があるではないか。また平愛梨の妹である平祐奈も名を連ねている。映画のほうは無事公開もされBD販売も決定しているそうだ。
さらに映画公式HPの「裏予告」が大変怖い。鳥肌が立った。こちらも一度見てみることをお勧めする次第である。

ネタバレ感想

面白いのだが、ミステリーとして見るとやはり弱いのかなと思ってしまう。
おそらくミステリーを読み慣れた読者は「目次」を見た時点でおおよそのストーリーと流れ、犯人と結末が分かってしまったのではないだろうか。自作小説でお互いに非難し合い、堂々巡りになるが実際手を下したのは一番の親友で、自分が主役に成りたかったからというパターンである。

そんなことを考えつつ読み進めると、案の定そのままの流れとなってしまう。
しかし三人目の自作小説内で担当顧問である「北条」の存在が明らかになると、「主役に成りたかった説」が少し揺らぐ。というのもこの女子が主役の小説で男性が出てきているということは、どう考えても登場人物の中のだれかと出来ているに違いないからである。犯人は間違いなく小百合であることを考えると、実は北条と小百合が出来ていたが、それを知りつつ応援しつつも裏で北条といつみが出来ているという、寝盗られ動機なのかなとも考えてしまう。

しかし実際は単純なように見えて深いものだ。
「互いに告発し合う輪」の中に入っていなかった小百合はどう考えても怪しい存在だなとこの頃になれば皆気がつくだろう。そして動機は結局のところ「自分が主役になるため」というものだった。
 
しかし、ここからが難しい。果して本当にいつみは死んでいるのだろうか?

まず小百合がいつみを殺す必要があったのだろうか? と疑問が持ち上がる。
普段からいつみの側にいて、いつみの秘密にも協力しており完全に感化されている小百合である。とするならば、殺すのではなくいつみと同じように相手の弱味を握りコントロールするのではないだろうか。小百合はいつみどころか澄川家に対しての弱味を握っているようなものだ。何も主役を交代するために殺す必要があったのだろうか。

この説をとると、結局のところいつみは生きており、いつみと小百合の復讐劇となる。メンバー達には恐怖を味わわせ、いつみに新たな生活を守るために自分が殺したことにし、それを仲間たちと分かち合い自分が犠牲になるというものだ。素晴らしい友情ですね。

しかしながらこの説では小百合だけ白いままでフェアではない。
とするとやはり「カニバ」に戻ることになる。この場合、伏線や環境設定がしっかり結末と絡んでいるので恐らくはこちらが正しい(様々な疑問点は残るが。例えば解体したとして、メンバーはその臭いに気づかないものなのか?という問題。闇鍋では嗅覚も敏感にとあるのだし、気づいてもおかしくはない)のだろうと思う。というのも、キリスト教系のお嬢様学校という陳腐な設定が生きてくるのだ。

小百合がいつみを殺したのも過度の信仰心故と考えれば納得できる。今まで崇拝していた偶像を突然失ったら急に反教徒になる現象を考えれば自然なことだろうと思えるのだ。また、最後のカニバの場面でもキリストの身体を分け与えるという例を持ち出し上手くキリスト教に繋げている。やはりこちらの方がしっくりくる。

しかし、小百合の今後はどうなるだろうか。
自分自身の罪を仲間と共有し、しかも仲間達の弱味を握る脅迫者の立場にたった小百合。いつみよりも物事の計画を立てるのが上手く、いつみの側で様々なことを学んだであろう小百合。「怪物」と表現するのがふさわしいようだ。しかしながら、御約束通り、脅迫者は殺されるし怪物は退治される運命にある。主役交代の日は意外と近いかもしれない。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
終わりよければすべて良しの好例だろう。ミステリー初心者にもイヤミス初心者にもお勧めだ。
暗黒女子

秋吉 理香子 双葉社 2013-06-19
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平安貴族や武家貴族、公家や華族など日本にも様々な貴族階級の人間がいた。

そんな貴族たちについて私たちはどんなイメージを持っているだろうか?
今日はおよそ貴族らしい探偵が登場する「貴族探偵」を見てみようと思う。




目次

  1. 麻耶雄嵩ってどんな人?
  2. 「貴族探偵」を読む
  3. 「こうもり」について(ネタバレあり)
  4. ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと
  5. オススメ度

麻耶雄嵩ってどんな人?

麻耶雄嵩氏もあの京大推理小説研究会出身である。そこで知り合った綾辻行人・法月綸太郎・島田荘司の推薦をうけ1991年「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」でデビューした。

さらに2011年には「隻眼の少女」で第64回日本推理作家協会賞・第11回本格ミステリ大賞を受賞。2015年には「さよなら神様」で第15回本格ミステリ大賞を受賞した。この「さよなら神様」は7月に文庫化も予定されており、そちらも楽しみである。

また麻耶氏は「独特の世界観」や手法が特徴的であり、その癖のある作風はマニアの心を掴んで離さない。だが、前情報なしの初見で挑むといささか面食らうこともあるので注意が必要だ。

「貴族探偵」を読む

「貴族探偵」は2010年に単行本で刊行され、2013年に文庫化された。この本に収録されているのは五つの短編なのだが、それぞれ発表された時期に開きがある。
・「ウィーンの森」は小説すばる2001年2月号
・「トリッチ・トラッチ・ポルカ」は小説すばる2001年9月号
・「こうもり」は小説すばる2007年4月号
・「加速度円舞曲」は小説すばる2008年4月号
・「春の声」は小説すばる2009年9月号
と、トリッチ・トラッチ・ポルカとこうもりの間は約6年ほど期間があいている。
ネットでは「こうもり」以降は出来も良く面白いが、前二作は微妙な出来だと目にすることが多いが、果してそうだろうか?

確かにこれがシリーズものではない単発ものだとしたらその評価には納得できるが、短編集として編まれた場合前二作は導入と定着の仕事をしっかり果たしていると思うのだ。
「ウィーンの森」で「貴族探偵」とはこういうものだと読者に紹介し、「トリッチ」では毎回このパターンですと読者に釘をさす。そして「こうもり」で活躍を見せつけ、余韻をのこしつつ去って行く。
とすると、「ウィーンの森」で一番着目すべきは「貴族探偵」がどのように我々の前に現れたかではないだろうか。事実「ウィーンの森」での登場の仕方が一番図々しく、印象に残るようになっているはずだ。

またこの「貴族探偵」は麻耶氏の他の作品と比べると癖が比較的抑えられている気がするのも事実だろう。「麻耶ワールド」なるものを感じることは少ない。しかしながらそこはやはり麻耶氏の書く小説である。この貴族探偵は探偵と言いつつも自身は全く探偵らしいことはしない。いわゆる安楽椅子探偵でもない。そこに麻耶氏の拘りが感じられる。

また登場人物の名前が変に奇を衒っていないのが良い。普通の探偵小説であれば探偵が推理するのでどんな名前をつけようが注目されることになる。しかし「貴族探偵」では貴族探偵が探偵の役割を放棄している。推理を披露するのは召使いたちなのだ。ではどうやって「貴族探偵」の存在感をアップさせるか。それは召使いたちの名前をよく耳にする名字にすることで解決していると思われる。それぞれ山本・田中・佐藤とすることで変にかれらがでしゃばって来ることがないのだ。彼らを下げることで貴族探偵を上げていると思われる。

「こうもり」について(ネタバレあり)

各方面で話題の「こうもり」。確かにすばらしい出来だった。
これを読んで思い出されるのは麻耶氏の長編小説である。
トリックとしては逆叙述+替え玉
しかしこの逆叙述というものが曲者で、登場人物は知らないが、読者は知っているというものなのだ。登場人物はてっきり知っていると思っていたと、ここに驚きが生じる。
今回の場合、絵美と紀子が貴生川を大杉と思っていた、つまり二人一役を認識できていなかったこと、そこに貴生川を貴生川+大杉の二人に見せかける一人二役のトリックが働いている。
また読者に対して貴生川を貴族探偵と誤認させること、絵美の彼氏だと思わせることで貴生川を嫌疑の外に置くよう仕向けている。
伏線もしっかりあるのだが、非常に巧妙に仕組んであるためなかなか気づかなかった。短編でよくここまでという素晴らしい出来である。

ドラマ「貴族探偵」を見て思うこと

初回放送が終わった後は大絶賛の嵐だったらしい。原作ファンも嵐ファンも納得の出来だったと。それは本当だろうか? 私は正直見ている最中に恥ずかしくなってきて消してしまった。

昨今視聴率が下がり、製作費が少なくなる、そしてまた視聴率がとれないというループに嵌っているドラマ。脚本家の書き下ろしにしても率がとれないのであまり払えない。そこで各局が血眼で探しているのはすぐドラマ化できそうな「ミステリ小説」らしい。そしてドラマ化の必須条件となっているのが、「美しく、強い女性の活躍」なのである(イケメンで強い男性ではだめらしい)。そうして見てみると、たしかに最近ドラマ化されているものの多くはこの必須条件にほとんど当てはまるようだ。原作には全く関係ない女性キャラが登場するのはこういう理由がある。そんなわけで「貴族探偵」は麻耶氏が意識していたかどうかはわからないが、ドラマ化の必須条件を満たしていたといえる。

また各話にその話限りのヒロインを登場させることができるのもこの小説の強みであろう。これで女性役もさらに確保でき、パターンの打破に光りがみえる。さらにこの「貴族探偵」が短編集であったことも有利に働いたはずだ。

「すべてがFになる」のアニメとドラマを思い出していただきたい。
まずドラマはF~パンまで前編・後編という形で放送したが、これは成功したとは言い難い。というか酷かった。一つの話を二週に分けて放送するのは最終回だけなら特別感があっていいかもしれないが、常時だとこちらの興味を失わせかねない。が、長編を一時間枠でやるのはやはり無理がある。

一方アニメは1クールすべてFを放送した。だが、これだと毎回谷・山を作りづらく見ていて飽きてしまう可能性がある。

だが、短編では作者があらかじめ谷・山を作っているので深く考える必要がない。
そう。深く考える必要はなかったのだ。原作のまま、メイドも変に年上にせず、若いままでよかったのだ。そこにギャップがあったのだ。それを構成か脚本家か知らないが原作の良さを完全に潰してしまっている。

そして駄目押しは「鼻形雷雨」というオリジナルキャラクターの登場だ。まず名前が駄目。せめてもっとオリジナリティあふれる名前にしてほしい。しかもこの性格付けが最悪である。貴族探偵の周りは良くも悪くも個性的な人物達で固められている。なので彼らを周囲から浮いているようにしなければならないはずであった。つまり個性的な人物は貴族探偵の周辺だけで良かったのだ。オリジナルの警察キャストを出すのであれば、こんな三文芝居のような人物ではなく、しっかりとした警察ドラマのような人物を出すべきであった。鼻形に関しては最近不要論が起っているらしいが、そんなもの最初から不要である。叩き上げの段階でもう終わっている。キャストが豪華で、実力がある人たちも揃っているだけに本当に勿体ない。

そして小説を読み返して思ったが、この「貴族探偵」はコメディの皮を被った別ものなのでないか。コメディとして考えてキャスト組んだ場合たしかにベストの布陣に見えるがそうでなかったのではないか。だからちぐはぐ感が漂っているのではないだろうか。

オススメ度

オススメ度★★★★☆
面白さ★★★☆☆
癖もなく万人受けするはずだ。ドラマを見限った人も小説だけは読んでみて欲しい。
貴族探偵 (集英社文庫)

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大阪万博から数十年経った今でも尚多くの人に愛されている「太陽の塔」

そんな「太陽の塔」に魅せられた女性が、森見氏デビュー作の「太陽の塔」に登場する。
今回はそんな「太陽の塔」に魅せられた女性とその女性を研究する男の物語を見てみようと思う。


目次

  1. 森見氏の過去記事はこちら
  2. 「太陽の塔」を読む
  3. 森見リンク・小ネタ
  4. オススメ度

森見氏の過去記事はこちら

夜は短し歩けよ乙女
2006年に刊行され、今年アニメ映画化もした「夜は短し歩けよ乙女」怪しげな人物や団体に翻弄される二人の運命や如何に?

ぐるぐる問答
森見氏初の対談集。様々な人物との対談を収録。モリミスト必見・必携。

「太陽の塔」を読む

「太陽の塔」は森見氏のデビュー作。2003年の「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞し、その後山本周五郎賞を受賞、直木賞ノミネートに至った。

さてこの「太陽の塔」だが、後の森見氏の行く末を決定付けているかのようである。この太陽の塔の時点ですでに後につづく「腐れ大学生物」が出来上っている。デビュー作ながら「森見節」満載なのだ。

そんな太陽の塔なのだが、実はこの小説はヤケクソで書いたものだったらしい。それまではいたって普通の小説を書いて応募したいたのだが中々結果が出ない。そこで自身が大学時代サークルのノートに書いていたような小説をダメ元で送ったそうである。その結果「太陽の塔」でデビューするのだから何が役に立つか分からないものである。それが小説を書く上での面白い事なのかもしれない。

「森見節」満載のこの小説。もちろん主人公は「私」こと「腐れ大学生」である。しかも「休学中の五回生」ときた(桃色のキャンパスライフを夢見て日々奔走する新大学生は多いと思うが、意外にも五回生は多い。シビアな所だと卒論提出1分遅れて留年というところもある。五回生になるとどうなるか。それは呼び名が「長」とか「ボス」になる。あまり嬉しくはない)
この休学中の五回生というだけでなんだか「私」からは胡散臭さがにじみ出ているようである。しかも登場人物は「私」と同等かそれ以上に個性的な人物ばかりなのだ。そんな人物達が様々な騒動を巻き起こしていく。

そんな「私」が大学を休学してまでしていることは何か。それは自分を振った女性「水尾さん」を研究することである。その内容はというと、『研究内容は多岐に渡り、そのどれもが緻密な観察奔放な思索、および華麗な文章で記されており、文学的価値も高い』のだ、とのこと。しかも四百字詰め原稿用紙に換算して240枚。およそ9万6000字である。これを見ても分かる通り「私」がしていることは完全に研究という名のストーカー行為なのである。
しかしこれだけでは森見氏にここまで多くの女性ファンは出来なかったであろう。これで終わったら出来の悪いミステリーか気持ちの悪い男の話になってしまう。が、そうならなかったのはおそらくこの文体と、もう一人のストーカー「遠藤」との不毛な戦いがあるからだろう。

また「私」は「水尾さん」の研究をしていると言いながらも我々に前にはほとんど水尾さんは姿を現さない。情報が少なすぎるため実在するのかも怪しい「水尾さん」。植村嬢は登場場面が少ないながらもその存在感をしっかり発揮しているのに対して「水尾さん」は実在感が乏しく、透明のようである。その分なんだか浮いて見えるとともにミステリアスにも見えてくる。

さらにこの小説の登場人物はほとんどが男だ。しかもどこか哀しい雰囲気をそれぞれが纏っている。森見氏は我々読者にこれでもかとそんな哀しげな男達を投げつけてくるが、そんな男たちはどこか可愛らしく、憎むことができない。ここも女性に人気の秘密だろうか?

登場人物がハチャメチャなことをしながらもしっかりと青春小説となっているところもまた面白い。いや、ハチャメチャなことができるのは青春時代だけなのかもしれない。

そしてやはり「文字遊び」が面白い。「京大と絶縁状態」とか「右の拳をやや固めに握った」とか。この「やや固め」というところに「私」の特徴というかその人らしさが垣間見えている気がするのだ。圧巻は最後の「ええじゃないか騒動」だ。怒涛の「ええじゃないか」が登場人物と読者を襲う。「ええじゃないか」に押しつぶされそうになりながらも、やはりページをめくる手は止まらない。

この森見氏デビュー作の「太陽の塔」。これは森見氏全部詰という感じがするのは私だけだろうか。書きたいことはここに全部書いた。あとはここから少しづつ取り出して、それをまた妄想により拡大し小説として書いているのではないだろうか。とにかく森見ファンには贅沢な本である。

森見リンク・小ネタ

森見氏の作品に登場する人物や団体は他の小説にも登場することが多い。
・高藪智尚→「宵山万華鏡」に登場。

・ゴキブリキューブ→アニメ版「四畳半神話体系」に登場。麻薬的な輝きを放ち表面は常にざわついている。

・まなみ号→主人公の愛車まなみ号。名前の由来はもちろん「本上まなみ」さん。対談を行っているが緊張しすぎてほとんど話せなかったそう。

・猫ラーメン→四畳半神話体系にも登場。じつはこの屋台、モデルが存在しているようだ。時折出町柳に現れるらしく味は絶品とのこと。

・「砂漠の俺作戦」について
これはおそらく関西で有名な都市伝説の一つを元ネタにした小話と思われる。
その元ネタは梅田のHEPの観覧車に乗ると二人は別れるというもの。これは結構有名らしく、私も数人の知人から話を聞いたことがある。小説内では飾磨がHEPの観覧車がきっかけで彼女と別れている。

オススメ度

オススメ度★★★☆☆
面白さ★★★☆☆
森見氏入門には持って来いの本書。「夜行」や「狸」から入った人も遡って読んでみてはいかがだろうか?
太陽の塔 (新潮文庫)

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昨今の戦国熱はとどまるところをしらない。一昔前まではマイナーだった武将も今ではゲームや大河の影響で一躍人気者となっている。

しかしながら有名な武将の影に隠れ、自身の手柄が他の武将のもののように語られていたり、存在さえ知られていない武将もまた多くいるのも事実だ。

今日は真田信繁に知名度も人気も押されがちな大坂の陣の功労者、毛利勝永を主人公とした小説を読んでみようと思う。

目次

  1. 作者の仁木英之ってどんな人?
  2. 毛利勝永とは?
  3. 「真田を云て、毛利を云わず」を読む
  4. オススメ度

作者の仁木英之ってどんな人?

仁木英之氏は2006年に「夕陽の梨」で第12回学研歴史群像大賞最優秀賞を受賞、さらに同年8月に「僕僕先生」で第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞を受賞し、デビューした作家だ。

デビュー作であり代表作でもある「僕僕先生」はシリーズ化されており、これまでに9冊刊行されている。ちなみにこちらは太平広記をアレンジしたファンタジー小説となっている。

毛利勝永とは?

惜しまれつつも幕を閉じた真田丸から半年が過ぎようとしている。
その真田丸の中で毛利勝永を演じたのは岡本健一さんだった。が、牢人衆ということと信繁が目立ち過ぎ(主役だから当然)ということもあってやはり存在感が薄かった気がしてならない。

実際の勝永はどうだったか?
勝永は父吉成と同じく豊臣家臣として仕えた。関ヶ原では安国寺恵瓊の指揮下におかれたこともあり思うような活躍はできなかった。

その後領地没収となり一時土佐山内家へと身を寄せる。そんな中豊臣秀頼から招きを受け、土佐からの脱出を図る。ちなみに脱出の際、衆道関係であった山内忠義との関係を留守居役の山内康豊に暴露。混乱する康豊に「忠義が大坂に出陣したのだから私が助けに行くのは当然だ!だから大阪(包囲側=徳川方)に向かわせてくれ!」と頼んだようである。しかしながら皆さん御存じの通り勝永が向かったのは豊臣方である。これには忠義も激怒したそうで次男鶴千代・妻・娘は城内に軟禁されたらしい。
とっても簡単に、しかも誤解を招く可能性を覚悟の上で現代風に分かりやすく説明すると「彼女の父親に彼女との結婚届を見せ(しかも判も押してある)、彼女の元へ駆けつけると嘘を言い浮気相手の元へと駆けつける」ようなものである。これは忠義が怒るのも最もである。しかも領地没収後1千石もらって手厚く遇されていたというのに。ただ豊臣から受けた恩のほうが大きいということだろうけども、もっと他の脱出方法は無かったものかと気にはなる。

さて大坂の陣である。
豊臣譜代家臣ということで諸将の信望を得て「大坂城の五人衆」と称された。だが冬の陣では活躍できなかったようである。
だが、夏の陣である。夏の陣では道明寺で敗退した後藤基次の敗残兵を収容し大坂城へと撤退。天王寺口の戦いでは兵4000を率いて四天王寺南門前に布陣。本多忠朝から攻撃を受けると、これに反撃。忠朝・小笠原秀政・忠脩親子を討ち取ると、浅野長重・秋田実季(木像の話が有名な人)・榊原康勝・安藤直次・六郷政乗・仙石忠政・諏訪忠恒・松下重綱・酒井家次・本多忠純などの部隊を撃破。遂には家康本陣に突入するという活躍を見せた。しかし真田隊が壊滅すると戦線が崩壊。四方から攻撃を受けるも討ち取られる事無く城内へ撤退。秀頼の介錯を行った後、自身も自害したとされている。

ドラマでは荒々しい人のように描かれていたが、勝永は旧臣・浪人分け隔てなく、組下の者にもやさしい人物であったそうだ。

「真田を云て、毛利を云わず」を読む

この「真田を云て、毛利を云わず」は星海社から2013年に出たあと、おそらく大河にあわせてきたのだろうと思われるが、2016年6月に講談社から文庫化されている。その際元のタイトルを副題とし、タイトルを「真田を云て、毛利を云わず」に変更した。

さて戦国物である。昨今の戦国ブームを鑑みれば誰しも好きな武将一人や二人はいるであろう。私も戦国時代は好きだが、それは史実と史実の間の不明な点があるからである。解明されていない謎や不明瞭な部分に魅力があるのだ。なので、小説内でも多少の疑問はスルーできるのだが、行き過ぎるとやはり気になってくる。史実物であるならば、自身の妄想や想像は最小限に抑え、別のところで魅力を出すべきであろう。この小説はその悪い部分が出てしまっている気がするのだ。

この本を読んで気になったのは参考資料をどこから引張ってきたのか?である。単に私が無知なだけならば参考資料を読んで知識を深めたいという理由もある。が、やはり納得できない。
①当時の日本に甲冑を貫通し尚且つ拳大の大きさの穴が開くような火縄があったのかどうか?
→戦闘シーンを華やかという理由ならばもっと別の方法があったのではないか?

②竜造寺隆信の渾名の問題。
→どう考えても「肥後の虎」はおかしい。あえて「肥前の熊」を使わなかったのはなぜか?

③仙石秀久の問題
→長宗我部ファンや十河ファンに蛇蝎のごとく嫌われているのはわかる。が、あまりにも下げ過ぎるのはNGだろう。作者個人の心証が入ってやしないか。仙石がクズすぎるので全部責任を押しつけた感じの書き方は好きになれない。さらに、あいつは潮の事、船の事、何もわかっていないという場面があるが本当にそうだろうか?淡路島の大名が船や潮のことを全く知らないということはありえるだろうか。しかも淡路受領後は淡路水軍・小西行長・石井与次兵衛・梶原弥助ら複数の水軍を統括している。仮に何も出来ないただの暗愚を重要な場所に秀吉が置くだろうか。

④島津家久混同問題
→どうも読んでいると島津家久を作者が混同しているように思える。何も前情報なしに読むと上巻の「家久」と下巻の「家久」が同じ人物に思えてならない。どこかに注意書きがあってもいいものだがそれもない。それは作者自身が二人の「島津家久」を混同していたからではないだろうか。この時代の島津家には近い年代に二人の「家久」がいるのである。
一人は「島津四兄弟」の一人で軍法戦術妙を得たりと言われた「島津家久」。もう一人は島津義弘の子で初代薩摩藩主である「島津忠恒」改め「島津家久」。しかしこちらが「家久」と名乗ったのは関ヶ原後であり、かつ四兄弟の方の家久は1587年に没していることからもズレが生じている。

等々、所々気になるところはあるのだが、気にせず読めればそれなりに面白い本である。おそらく作者は西軍派なので、西軍ファンの方は概ね好意的に読めるだろう。
ちなみに「真田日本一の兵」と言ったのは先ほど出てきた「島津忠恒」である。が、この人は大坂の陣には行っていない。

オススメ度

オススメ度★★☆☆☆
面白さ★★☆☆☆
やはり所々腑に落ちない点があったのが悔やまれる。しかし一般的には知られていない武将の活躍する小説が増えることで知名度が上がるのは良いことだ。ちなみに毛利勝永だが、天下創生から変化がなかった顔グラがここに来てイケメンに変化している。能力値も大幅アップである。大河効果だろうか。
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